第25話 仲間
王都へ戻った頃には、すっかり日が暮れていた。
「疲れたぁ……」
リゼットが大きく伸びをする。
「今日は流石に疲れたよ」
「途中まで元気だっただろ」
「途中まではね」
「最後まで元気そうだったけどな」
「気の所為だよ」
依頼を受けたときとは違い、ギルドの中は少し静かだった。朝から依頼へ出ていた冒険者たちも、ほとんど戻ってきている時間なのだろう。
「報告だな」
受付へ向かうと、受付嬢が俺たちを見る。
「依頼の方はいかがでしたか?」
「達成しました」
「確認しますね」
エレナが討伐したフォレストウルフの証明部位を取り出す。受付嬢が数を確認する。
「12体ですね」
「はい」
「推奨討伐数は10体ですので、依頼は達成ですね」
「よかった」
リゼットが言う。
「これで終わり?」
「いいえ」
フィオナが横から言った。
「もう1つあるわ」
「あ」
俺は思い出す。
ブラックファングだ。
「カイム」
「ああ」
俺は袋から魔石を取り出す。受付嬢へ差し出した。
「これもお願いします」
「これは……?」
受付嬢は魔石を見て動きが止めた。
「どうかしました?」
俺が聞く。
「少々、お待ちください」
受付嬢は急に立ち上がった。
「え?」
「ギルドマスターを呼んできます」
「え?」
そのまま受付の奥へ走っていく。
「何かまずかったか?」
「まずくはないと思うけど」
フィオナが言う。
「ブラックファングの魔石だから」
「でも、何でギルドマスターを?」
「Aランク魔物を倒したなら、確認が必要なのかも」
「面倒だな」
「そういうものよ」
少しして奥から1人の男が出てきた。大柄な身体に、短い髪。ただ立っているだけなのに、妙な威圧感がある。
「お前たちか」
男が俺たちを見る。
「ブラックファングを倒したのは」
「そうです」
「ほう……」
男は俺たちを順番に見る。そして、フィオナを見た。
「フィオナ」
「久しぶりね、ギルドマスター」
「お前がいるなら納得ではあるが」
ギルドマスターは俺たちを見る。
「他の3人は?」
「私の仲間よ」
「仲間?」
「ええ」
「いつからだ?」
「最近」
フィオナが答える。
「なるほど」
ギルドマスターは俺の前へ来る。
「お前がカイムか」
「何で名前を?」
「フィオナから聞いている」
フィオナを見ると。
「別に変なことは言ってないわ」
「本当か?」
「本当よ」
怪しい。まあ、今はいいか。
「ブラックファングの討伐について聞かせてもらう」
ギルドマスターが言う。
「まず、どうやって遭遇した?」
俺たちは森での出来事を説明した。フォレストウルフの討伐。その途中でブラックファングが現れたこと。そして4人で戦ったこと。
全部聞き終えると。
「…そうか」
ギルドマスターは少し考える。
「本来、ブラックファングがあの森に出現することは珍しい」
「そうなんですか?」
「王都から近い場所だからな。定期的に調査している」
「じゃあ、何で?」
「それは調べる必要がある」
ギルドマスターは魔石を見る。
「だが、討伐したことは事実だ」
受付嬢へ視線を向ける。
「ブラックファング討伐として処理しろ」
「はい」
「報酬は?」
「通常の討伐報酬に加えて、魔石の買い取りも行います」
「……」
リゼットが俺を見る。
「お金持ちになれるかも」
「急に夢が小さいな」
「大事だよ?」
ギルドマスターが少し笑った。
「お前たちは面白いな」
「そうですか?」
ギルドマスターは俺を見る。
「だが」
少しだけ表情を変えた。
「お前たちは、これから有名になるかもしれんな」
「有名?」
「Aランク冒険者のフィオナが、見知らぬ冒険者たちと一緒に行動している。その4人でAランク魔物を討伐した」
周囲を見ると、いつの間にか何人かの冒険者が俺たちの話を聞いていた。
「噂になるのは時間の問題だ」
「別に有名になりたいわけじゃないんですけど」
「それでも噂は勝手に広がる」
ギルドマスターは笑う。
「冒険者とはそういうものだ」
正直、有名になりたいわけじゃない。ただ、昨日までとは違う。いや、少し前までとは違う。俺はずっと、誰かの後ろを歩いていた。幼馴染たちにバフをかけて、自分の力なんて考えずに。ただ、役に立てればいいと思っていた。
「まあ」
俺は3人を見る。
「4人なら何とかなるか」
「そうね」
フィオナが頷く。
「うん!」
リゼットも笑う。
「ああ」
エレナも小さく頷いた。
ギルドを出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「さて」
俺は歩き出す。
「宿に戻るか」
「待って」
フィオナが俺を止めた。
「何だ?」
「まだ大事なことが終わってないわ」
「大事なこと?」
さ
フィオナが3人を見る。
「まだ正式にパーティを組んでないわ」
「どうする?」
「決まってるでしょ」
フィオナが笑う。
「組むわ」
何だか少しだけ嬉しくなった。
「じゃあ」
俺は3人を見る。
「4人でパーティを組むか」
そのまま俺たちは、もう一度ギルドへ戻った。受付嬢は少し驚いた顔をする。
「あら、どうされました?」
「パーティ登録をお願いします」
「4人でしょうか」
「はい」
「わかりました」
受付嬢が書類を取り出す。
「それでは、パーティ名を決めてください」
「「「「…………」」」」
全員が黙る。
「あ」
リゼットが俺を見る。
「カイム」
「嫌だぞ」
「まだ何も言ってない」
「どうせ俺に決めろって言うんだろ」
「正解」
「ほら」
俺はため息を吐く。
「何か案はないのか?」
「ある!」
リゼットが手を上げる。
「【炎と剣と最強バッファー】!」
「長い」
「【天才魔法使いと最強剣士と美少女騎士と最強バッファー】!」
うーん。
「もっと長くなったな」
「何で!?」
「むしろ何でそれがいいと思った?」
「みんな入ってるから」
「パーティ名に全員の説明を入れる必要ないだろ」
「むむむ……」
リゼットが考え込む。
「フィオナは?」
「ない」
「エレナは?」
「ないわよ」
結局、俺が決めるしかないらしい。
「うーん」
4人、出会った時期も違う。目的も違う。
俺自身、まだ何をしたいのか完全には決まっていない。
「これから見つければいいよ」
以前、リゼットに言われた言葉を思い出す。冒険者なんだから。色んな場所へ行ける。自分の好きなことを見つければいい。
「……そうだな」
俺は書類を見る。
「決めた」
「おっ」
リゼットが身を乗り出す。
「何?」
「【自由の羽】」
3人が俺を見る。
「どうだ?」
「いいと思う」
「よきよき」
「悪くないわね」
「じゃあ決まりだな」
俺は書類へ名前を書く。
【自由の羽】
それが俺たち4人のパーティ名になった。
「登録完了です」
受付嬢が笑顔で書類を受け取る。
「本日より、皆さんは正式なパーティとなります」
「よろしくお願いします」
ギルドを出る。さっきまでより少しだけ気持ちが違った。
「何笑ってるの?」
リゼットが聞く。
「別に」
俺は以前も仲間がいた。幼馴染たちと一緒に冒険していた。あの頃はあれがずっと続くと思っていた。でも終わった。終わったからこそ、もう一度誰かと一緒に進もうとは考えていなかった。
「置いていくわよ」
「何で?」
「早く帰りたいから」
「なら勝手に帰ればいいだろ」
「仲間でしょ?」
自然と笑っていた。
「そうだな」
リゼットが隣に並ぶ。
「明日は何の依頼を受ける?」
「もう次のこと考えてるのか」
「当然!」
「元気だな」
「冒険者だからね!」
俺は空を見上げる。王都の夜空には無数の星が輝いていた。




