第23話 冒険②
フィオナは躊躇いがちに口を開いた。
「私、今まで強くなるために色々やってきたの。毎日剣を振って、魔物と戦って、強い冒険者と訓練して。だからAランクになった」
フィオナは前を見る。
「でも、昨日カイムのバフを受けたとき」
彼女の声は少しだけ小さくなったような気がする。
「今まで自分がどれだけ頑張っても届かなかった場所に、一瞬で届いた気がした。悔しかった」
「悔しい?」
「ええ」
フィオナは笑う。その表情からは複雑な感情が垣間見える。
「だってそうでしょ? 私はずっと強くなるために頑張ってきた。でも、カイムのバフを受けたらもっと簡単に強くなれた」
「それは……」
何と言えばいいのかわからない。こういうとき、何と言うべきなのだろうか。
「でもね」
フィオナは続ける。
「嬉しかった。まだ強くなれるってわかったから」
その言葉を聞いて、少しだけわかった気がした。フィオナはただひたすら強くなりたい。ただそれだけなんだ。Aランクになっても満足していない。もっと先を見ている。
「だから、その、これからもよろしく。……一緒に冒険するのも、少し楽しそうだから」
「え?」
「何でもない!」
フィオナは急にスピードを上げて前へ進んでいった。
「何だあいつ」
「ふふっ」
リゼットが笑う。
「何だよ」
「別にー?」
「絶対何か思ってるだろ」
「さあねぇ? どうだろねぇ?」
エレナも少しだけ笑っているように見える。何だろう。何なんだろう。俺だけ何もわかってない気がする。
王都を出て、俺たちは森へ向かった。今回の依頼はフォレストウルフの討伐。数は10体以上。普通ならCランク冒険者数人で受ける依頼らしい。
「いた」
エレナが森の奥を見る。
「何体?」
「……12」
「いきなり達成できそうだな」
俺たちは木の陰から前を見る。そこには、灰色の毛をしたウルフたちがいた。普通のウルフより一回り大きく、身体も引き締まっている。
「どうする?」
リゼットが聞く。
「作戦なんている?」
フィオナが剣を抜く。
「12体でしょ?」
「そうだけど」
「私たちなら問題ないわ」
「自信満々だな」
「当然」
エレナも剣を抜く。
「行く?」
「ああ」
俺も頷いた。すると、ウルフの1体がこちらに気づく。
「グルルル……」
「グルァァ!」
12体のフォレストウルフが一斉に動き出した。
「来た!」
リゼットが杖を構える。
「カイム!」
「ああ!」
俺は3人へ向かって手を伸ばす。
「【強化】!」
淡い光がリゼット、エレナ、フィオナの身体を包みこんでいく。
「よし!」
フィオナが笑う。
「行くわよ!」
フィオナが最初に飛び出した。
「ちょっと待って!」
リゼットが叫ぶ。
「カイム!」
「どうした?」
「私たちにも!」
「え?」
リゼットとエレナ、そしてフィオナがこちらを見る。
「もう1回」
フィオナが言う。
「重ねがけよ」
「ああ、そういうことか」
もう一度手を向ける。
「【強化】!」
再び淡い光が3人を包んだ。
「リゼット!」
「任せて!」
リゼットの杖に炎が集まる。
「【フレイムランス】!」
巨大な炎の槍が放たれた。
——ズドォォン!
地面が大きく抉れる。
「やりすぎじゃないか?」
「大丈夫!」
「大丈夫って……何が大丈夫なんだよ。思いっきり抉れてるじゃないか」
その横をエレナとフィオナが駆け抜ける。
「はっ!」
「やあっ!」
——ズバッ!
——ズバァン!
フォレストウルフたちが次々と倒れていく。
これは強い。明らかに強い。昨日まで俺は、バフを使えるだけの冒険者だった。でも今は俺のバフを受けた3人が目の前で魔物を圧倒している。
「これが……俺の力なのか」
少しだけ誇らしかった。今までは自信を持てなかったが、今なら自信を持てる気がする。
「カイム!」
フィオナの声が聞こえる。
「何だ!?」
「次が来るわ!」
森の奥から、低い唸り声が聞こえた。
——グルルルルル……。
俺たちは全員、動きを止める。フォレストウルフとは違う。もっと低く、もっと大きな声。
「何だ?」
エレナが剣を構える。
「まだ魔物がいるのか?」
どこかに潜んでいるのか。
森の奥の木々の間から。巨大な影が現れた。
「嘘でしょ……」
エレナが顔色を変え、目を見開く。
それはフォレストウルフよりも遥かに大きい、黒い毛を持つ魔物だった。
周囲にいたフォレストウルフたちが、一斉にその魔物から距離を取る。
「何なんだあれは」
フィオナの表情が変わった。
「ブラックファング……」
「知ってるのか?」
「あれは——」
フィオナが剣を握り直す。
「Aランクの魔物よ」
「……え。Aランクなの?」
依頼の推奨ランクはCランクだったはずだ。何でそんな奴がいるんだよ。
ブラックファングが、ゆっくりとこちらを見る。
——グルァァァァァ!
森全体を震わせるような咆哮を上げた。俺たちは武器を構える。
「バフ、あと何回かけられる?」
フィオナが剣を構えた。
「試してみるか?」
「当然。できることはやるのみよ」
Aランク魔物だ。普通なら逃げるべき相手なのかもしれない。だが、今の俺たちならと、少しだけ戦ってみたいと思ってしまった。




