第22話 冒険①
俺たちは冒険者ギルドへ向かっていた。今日はフィオナも一緒だ。
「依頼を受けるんでしょ?」
リゼットがフィオナに聞く。
「そのつもりよ」
「どんな依頼にするの?」
「何でもいいわ」
「適当だな」
俺が言うと、フィオナは少し不満そうな顔をした。
「適当じゃないわよ。依頼の内容を見てから決めるだけ」
フィオナが俺を睨む。
朝の冒険者ギルドは、いつもより人が多かった。依頼を受ける冒険者や、依頼を終えて帰ってきた冒険者が受付の前に集まっている。俺たちが依頼掲示板へ向かおうとしたときだった。
「あれ?」
誰かの声が聞こえた。
「フィオナじゃないか?」
「本当だ」
「何であの子がいるんだ?」
周囲が少し騒がしくなる。
「ん?」
俺は周りを見る。何人かの冒険者が明らかにフィオナを見ていた。
「何か注目されてるぞ」
「いつものことよ」
フィオナは特に気にした様子もなく、依頼掲示板へ向かっていく。
「何だあれ」
「知らないの?」
リゼットが聞いてくる。
「フィオナは結構有名な冒険者なんだよ」
リゼットは少し声を落とす。
「フィオナがAランクになったのは16歳のときだったはず」
「16歳?」
俺はフィオナを見る。
「そんなに早いのか」
「かなり早いよ」
確かに強いとは思っていた。でも、そこまで有名な冒険者だったとは知らなかった。
「しかもソロでAランクまで上がったんだって。普通はAランクになるまでに何人か仲間を作るんだけどね」
「フィオナはずっと1人だった」
エレナが言う。
「だから余計に有名だ」
俺がフィオナを見ると、本人は依頼掲示板を真剣に見ていた。
「これ」
フィオナが1枚の依頼書を指差す。
「これにしましょ」
「どれだ?」
俺たちも近づく。依頼書にはこう書かれていた。
【フォレストウルフ討伐】
【推奨ランク:Cランク以上】
【討伐数:10体以上】
「フォレストウルフ?」
「森に住んでるウルフの上位種だね」
リゼットが説明する。
「普通のウルフより速くて、集団で行動する魔物」
「10体以上か」
「4人なら問題ないでしょ?」
フィオナが自信たっぷりに言う。
「これでいいか?」
「私はいいよ」
「私も異議はない」
エレナも頷く。
「決まりね」
フィオナが依頼書を持ち、受付へ向かう。
「あれ?」
周囲にいた冒険者たちが、再びざわつき始めた。
「フィオナがパーティを組んでる?」
「まさか」
「誰だあいつら」
「知らないな」
「新人か?」
明らかに俺たちのことを見ている。
「何か面倒そうだな」
俺が呟く。
「気にしなければいい」
エレナが言う。
「そうだね」
リゼットも頷いた。
「おい」
後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには3人の冒険者が立っていた。全員俺より少し年上に見える。
「何か用ですか?」
真ん中にいた男が、俺たちを見る。
「フィオナがパーティを組んだって聞こえたんだが」
「まだ組んでないわよ」
フィオナが答える。
「今は一緒に依頼を受けるだけ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「だったらいい」
男は俺を見る。
「お前たち、フィオナに近づくのはやめた方がいいぞ」
「は?」
「フィオナはAランク冒険者だ。お前たちみたいな奴らと一緒にいるような冒険者じゃない」
……何だこいつ。
「あんたらには関係ないことだろ」
「関係ある」
男は少し笑う。
「俺たちはフィオナを勧誘してるんだ。俺たちのパーティにな。俺たちはBランクパーティ【黒狼】。あと少しでAランクに届く」
「へぇ」
「フィオナが入れば、俺たちは確実にAランクになれる」
「それで?」
「お前たちみたいなよくわからない冒険者と遊ばれると困るんだよ」
その言葉を聞いて。
「誰が遊んでるって?」
フィオナの声が低くなる。男がフィオナを見る。
「いや、そういう意味じゃ――」
「私は誰と依頼を受けるか、自分で決める。それに」
フィオナは男を睨む。
「私はあんたたちのパーティに入るつもりなんてない」
「何でだよ!」
「興味がないから」
「俺たちはBランクだぞ!」
「だから?」
男の顔が少し引きつる。
「お前、何様のつもりだ」
「Aランクだけど?」
視線に気づいたのか、フィオナが俺を睨む。
「何見てんのよ」
「いや、フィオナらしいなと思って」
男たちは明らかに苛立っていた。
「チッ」
男が舌打ちする。
「好きにしろ」
そう言って、俺たちから離れていった。
「何だったんだ?」
俺が聞く。
「さぁ、知らないわ」
フィオナは答える。
「何度もしつこく勧誘してくるから、断ってるだけ」
「有名人は大変だな」
「全然嬉しくないけどね」
フィオナはため息を吐いた。
「だから1人で活動してたの。でも」
フィオナが俺を見る。
「これからは少し面倒かもね」
「何で?」
「私があんたたちと行動するようになったから」
確かに。
昨日まで普通に冒険者をしていた俺たちが、Aランクの有名な冒険者と一緒に行動している。周囲から注目されるのは当然か。
「まあ、今更だな」
「え?」
「面倒なら面倒でいい」
俺は受付へ向かう。
「俺たちは依頼を受けるだけだ」
フィオナは少しだけ驚いたような顔をした。
「何か?」
「別に」
フィオナは笑う。
「そうね」
俺たちは依頼を受ける。受付嬢は依頼書を確認すると、少しだけ俺たちを見る。
「4人で受けられるんですね?」
「はい」
「パーティ登録はまだされていませんが」
「今回は一緒に依頼を受けるだけです」
「そういうことでしたか」
受付嬢は納得したように頷く。
「それではお気をつけて」
ギルドを出る。王都の外へ向かう途中、フィオナが隣に並んできた。
「ねえ、カイム。昨日のことなんだけど」
「バフのことか?」
「そうだけど」
「何か気になることがあるのか?」
フィオナは複雑そうな表情をしていた。




