第20話 吉日①
金髪の少女は俺を睨んだ。
「フィオナよ! 覚えなさい!」
「フィオナ、エレナと一緒に動け!」
「命令しないで!」
「じゃあ好きにしろ!」
「それはそれで腹立つ!」
面倒くさい。フィオナは文句を言いながらも、エレナの隣へ移動した。2人は同時に走り出す。エレナとフィオナは左右からグラットベアへ攻撃を仕掛ける。片方を防げば、もう片方から攻撃が来る。
グラットベアが大きく腕を振り回す。フィオナが後ろへ飛んで避けた。
「硬すぎるわね」
「魔法なら」
リゼットが杖を構える。
「今度はもっと近くで撃つ!」
グラットベアの近くまで移動すると、杖に大量の魔力を集めた。
「【フレイムランス】!」
至近距離から放たれた炎の槍が、グラットベアの身体へ命中する。
——ドゴォォン!
「グオオオ!」
爆発によってグラットベアの身体が大きく揺れた。
「今だ!」
俺は地面を蹴る。バフによって軽くなった身体で、一気にグラットベアへ近づいた。
「うおおっ!」
拳を振り抜く。
——ドゴォン!
俺の拳がグラットベアの腹に命中し、巨大な体が後ろへよろめいた。その隙を逃さず、エレナとフィオナが同時に剣を振る。
——ズバァン!
「グオオオオ……!」
グラットベアは大きく吠えながら、その場に倒れ込んだ。
——ズズン!
地面が大きく揺れる。
「終わったの?」
リゼットが杖を下ろす。俺は倒れたグラットベアを確認する。しばらく待っても動く気配はない。
「討伐完了だ」
すると、フィオナが俺の前へやってきた。
「ちょっと。何で私の前に飛び出してきたのよ」
フィオナは不満そうな顔をしている。
「危なかったでしょ! ……まあ、その……ありがとう」
小さな声だった。
「何か言った?」
「何も言ってない!」
「今、ありがとうって」
「言ってない!」
フィオナの顔が赤くなった。
「もういい!」
フィオナは髪を払う。
「因みに私はAランク冒険者よ」
若そうに見えるが、それならかなり実力がある。
フィオナは胸を張る。
「これでも王都では結構有名なんだから! んで、あんたは何者?」
「バッファーだ。自分にバフをかけて戦うんだ」
「あら、面白そうね。さっきあんたの仲間にもかけてたでしょ? 私にも使える?」
「使えると思うけど」
「私にも、そのバフをかけてみなさいよ」
「待って」
隣からリゼットの声がした。リゼットは何故か、頬を膨らませている。
「その前に依頼を終わらせようよ」
何だろう。今日はやけに怒る女の子が多い気がする。
グラットベアを討伐した後、俺たちは森を出て王都へ戻っていた。結局、依頼だったオークは見つからなかった。途中であんな巨大な魔物と戦ったんだから仕方ない気もするが、依頼を達成できていない以上、報酬はもらえない。
「何か損した気分だな。グラットベアを倒したのに、オーク討伐の報酬はもらえないんだろ?」
「でもグラットベアの素材は売れるよ。魔物によっては素材が高く売れるの。グラットベアの毛皮とか爪とかは結構価値があるよ。それにBランクの魔物を討伐したんだから、ギルドからも何かしら報酬は出ると思う」
「それなら悪くないな」
「現金だね」
「冒険者なんだから金は大事だろ」
少し前を歩いていたフィオナが振り返った。
「ねえ、いつまで一緒にいるつもり?」
「それはこっちの台詞なんだけど」
フィオナは心底不満そうな顔をした。
「フィオナって、どこに住んでるの?」
リゼットが聞く。
「王都よ」
「じゃあ私たちと同じだね。普段は1人で冒険してるの?」
「ええ」
フィオナは前を向いたまま答える。
「私はソロ冒険者だから」
「ずっとソロで? Aランクなのに?」
「Aランクだからよ」
フィオナは得意そうに笑う。
「パーティなんて組まなくても、私1人で十分だから」
「Aランクまで1人で上がったの?」
「そうよ。誰かに頼らなくても、私は自分の力だけでここまで来たの」
その言葉には自信が溢れていた。
実際、さっきの戦いを見てもフィオナは強かった。グラットベアの攻撃を何度も避け、剣で傷をつけていた。エレナとは違う戦い方だったが、剣の腕はかなりのものだと思う。
「でも」
俺は少し気になった。
「1人でやってるなら、何であの依頼を受けようとしたんだ?」
フィオナは少し考える。
「丁度いい依頼だったからよ。最近、強い魔物と戦ってなかったから」
何だか、冒険を楽しんでいるというより、強い相手を探しているように見える。
「フィオナって、戦うのが好きなの?」
リゼットが聞いた。
「別に」
「でも強い魔物を探してるんでしょ?」
「強くなるためには必要でしょ」
フィオナは少しだけ表情を変える。
「Aランクで満足するつもりはないから」
「Sランクを目指してるのか?」
俺が聞くと、フィオナは俺を見る。
「当然でしょ」
その目は真剣だった。
「私はもっと強くなる」
それだけ言うと、フィオナは再び前を向いた。少しだけ意外だった。最初に会ったときは、ただ生意気な奴だと思った。でも、強くなることに対しては本気らしい。
「ところで」
フィオナが再び振り返る。
「さっきの話だけど」
そういえば、森で俺のバフを使ってみたいと言っていた。
フィオナは少し離れた場所を見る。
「王都の近くに訓練場があるでしょ?」
「私も行きたい!」
リゼットが食いついた。
「そう言うと思った」
「カイムのバフは私の研究対象でもあるからね!」
エレナも頷く。
「私も興味がある。Aランクの冒険者がどれほど強くなるのか」
今まで俺が【強化】を使ったのは、アルトたちやリゼット、エレナだけだ。フィオナほどの実力者に使ったことはない。
「じゃあ決まりね」
フィオナが言う。
「早く行きましょ」
「結構せっかちだな」
「思い立ったが吉日でしょ」
俺はリゼットを見る。
「何?」
「いや」
似たようなことを言っていた奴がいるなと思っただけだよ。




