第19話 金髪
振り返ると、1人の少女が立っていた。長い金髪を後ろでまとめ、腰には細身の剣を下げている。年齢は俺たちとそれほど変わらないように見えるが、冒険者らしい装備を身につけていた。
「その依頼」
何故か俺たちは睨まれている。
「私が受けようとしてたんだけど」
「そうなのか?」
俺は手に持っていた依頼書を見る。
「そうよ!」
「でも、まだ受付には出してないだろ」
「今から出すところだったの!」
「じゃあ早く出せばよかったんじゃないか?」
「何ですって?」
少女の眉がぴくりと動いた。どうやら癪に障ったらしい。
「カイムの知り合い?」
リゼットが小声で聞いてくる。
「全然知らん。誰?」
「あなた!」
少女が俺を指差す。
「その依頼、私に譲りなさい!」
急に言われてもね。
「断る」
「何でよ!?」
「俺たちも受けるつもりだから」
「私は朝から狙ってたの!」
「知らないよ」
「ぐぬぬ……!」
少女が悔しそうに俺を見る。すると、しばらく何かを考えた後、突然口元に笑みを浮かべた。
「いいわ」
「何が?」
「勝負しましょう先にオークを倒した方が勝ちよ! 負けた方は文句なし!」
何だこいつ。
「もう一度言うが断る」
「何でよ!?」
「面倒だから」
「この……!」
少女が腰の剣に手をかける。
「おい、ここギルドだからな?」
俺が言うと、少女ははっとしたように周囲を見る。受付嬢が困った顔でこちらを見ていた。
「覚えてなさいよ。絶対に私が先にオークを倒すんだから!」
そう言い残して、少女はギルドを出ていった。
「何だったんだ?」
「面白い子だったね」
リゼットは楽しそうに笑っている。
俺たちは依頼を受け、王都の外へ向かった。依頼の場所は王都から少し離れた森だ。最近、森の近くにオークが複数出現しているらしく、近くを通る商人たちにも被害が出始めているという。
「さっきの子、本当に来るかな?」
森へ向かう途中、リゼットがそんなことを言った。
「勝負するって言ってたよ?」
「俺はしない」
しばらく歩いていると、先頭を歩いていたエレナが突然足を止めた。
「何かいる」
エレナの表情が少しだけ変わる。俺たちも足を止め、周囲に注意を向けた。すると、森の奥から低い唸り声が聞こえてきた。
「グルルルル……」
「オークか?」
「いや……」
エレナが剣に手をかけた直後。
——バキバキッ!
木々を押し倒しながら、巨大な魔物が姿を現した。全身を黒い毛で覆われた巨大な熊だ。普通の熊とは明らかに違う大きさで、立ち上がれば5m近くありそうだ。
「グラットベア……」
リゼットが小さく呟く。
「Bランクの魔物だよ」
リゼットが杖を構える。
「普通の冒険者なら、1人で戦う相手じゃないよ」
「何でそんなのがここにいるんだよ」
グラットベアは俺たちを見つけると、大きく唸り声を上げた。
「グオオオオ!」
巨大な魔物が地面を蹴った。その巨体からは想像できないほど速い。俺たちはすぐに左右へ飛び、突進を避ける。
——ドゴォン!
グラットベアが通り過ぎた場所の地面が大きく抉れた。
エレナが剣を抜く。
「私が前に出る」
グラットベアへ向かって走り出した。
俺は2人へ手を向ける。
「【強化】!」
淡い光がエレナとリゼットの身体を包む。その直後、リゼットが杖を前へ向けた。
「【ファイアボール】!」
炎の球がグラットベアへ向かって飛んでいく。
——ドォン!
爆発が起きる。
「グオオオ!」
グラットベアが大きく吠えた。炎を受けても、グラットベアは止まらない。そのままエレナへ向かって腕を振り下ろした。エレナは素早く横へ避けると、その隙を狙って剣を振る。
「はっ!」
——ズバッ!
グラットベアの腕に傷が入るが。
「硬いな」
エレナが眉をひそめる。
「任せて!」
リゼットが再び魔力を集める。
「【フレイムランス】!」
巨大な炎の槍がグラットベアへ向かって飛んでいった。しかし、グラットベアは巨大な腕を振り、炎の槍を横から弾き飛ばす。
——ドゴォン!
「嘘だろ」
「魔法を弾いた!?」
グラットベアが突然方向を変え、リゼットへ向かって走り出した。
「リゼット! 危ない」
「えっ!?」
距離が近い。俺が走っても間に合わない。そう思ったとき。
「邪魔よ!」
横から誰かが飛び込んできた。
——ズバァン!
グラットベアの攻撃が逸れる。
「!?」
そこにいたのは。
「さっきの……!」
冒険者ギルドで会った金髪の少女だった。
「何でここに!?」
「決まってるでしょ!」
少女はグラットベアと距離を取りながら叫ぶ。
「オークを倒しに来たのよ!」
「今、目の前にいるのオークじゃないけど!」
「そんなの見ればわかる!」
少女は俺を見る。
「それより! 助けたんだから感謝しなさい!」
「助かった。ありがとう」
「ふふん」
少女が得意そうに笑う。
「もっと感謝してもいいのよ?」
「それは遠慮する」
「何でよ!」
「グオオオオ!」
「まだ来るぞ!」
エレナの声で、俺たちは再びグラットベアへ意識を向けた。
「話は後だ!」
俺は自分に【強化】をかける。
「【強化】!」
身体の奥から力が溢れてくる。
「リゼット、魔法を頼む!」
「了解!」
「エレナは——」
「わかっている。任せろ」
そして——。
「金髪!」
「誰が金髪よ!」
「だって名前知らないからさ!」
実際金髪だし。




