第14話 騎士②
「王国騎士団……?」
俺はエレナを見る。何となく騎士っぽいとは思っていた。しかし本当に騎士団の人間だったとはな。
「そうだ」
エレナは頷く。
「私は王国騎士団に所属している」
「へぇー」
リゼットがエレナをじっと見る。
「だからあんなに強かったんだね」
王国騎士団——冒険者とは違い、国に仕える騎士たちだ。王都の警備や魔物の討伐、時には盗賊団の討伐なんかも行っている。
「何で騎士団の人間が1人で森にいたんだ?」
「任務だ」
エレナは自分の剣に手を置く。
「数ヶ月前から各地で異常な魔物が確認されている。通常よりも強い魔物。理性を失ったように暴れる魔物。身体の一部に黒い結晶や角のようなものを持つ魔物」
間違いない。俺たちが村の近くで戦った魔物と同じだ。
「王国騎士団は、その原因を調査している」
「原因はわかってないのか?」
「まだな」
「だから、黒い魔力を使う者を探してるのか」
「そういうことだ」
エレナは頷いた。
「黒い魔力は普通の魔法とは違う。魔物を異常に強化している可能性が高い」
「強化……」
その言葉に少し反応する。
「どうした?」
「いや」
俺は首を横に振る。
「何でもない」
魔物を強くする力。俺のバフと少しだけ似ている気がした。
「だから私たちに協力してほしいってこと?」
リゼットが聞く。
「ああ」
「でも何で?」
「お前たちは、実際に黒い魔力を持つ魔物と戦った。そしてカイムの【強化】も気になる。お前の力は、今回の件に関係している可能性がある」
「俺のバフが?」
「あくまで可能性だ」
「それなら」
リゼットが手を上げる。
「協力する!」
「早いな」
「だって面白そうじゃん! 私も黒い魔力には興味あるし。カイムは嫌なの?」
「嫌というか」
俺は考える。正直、面倒そうだ。黒い魔力、異常な魔物、王国騎士団……普通の冒険者なら関わらない方がいい。
「俺たちは冒険者だぞ? 騎士団の任務に協力していいのか?」
「正式な協力依頼という形にする」
「報酬はあるのか? そこ大事だからな?」
「報酬は出る」
「よし。受けよう」
俺が言うと、エレナは少しだけ呆れた顔をした。
「現金だねー」
「宿代も必要なんだよ」
エレナは少し考える。
「協力してくれるのか?」
俺はリゼットを見る。
「俺はいいけど」
「私もいいよ。むしろ歓迎」
「決まりだな」
エレナが頷く。
「助かる」
「それで、何から始めるんだ?」
「まずは情報収集だ」
エレナは周囲を確認する。
「ここでは詳しく話せない」
「騎士団の秘密?」
「そんなところだ」
「おお〜何か格好いいねぇ」
リゼットが興味津々に呟く。
「お前、絶対楽しんでるだろ」
「もちのろーん」
駄目だこいつ。
その日の夜、俺たちはエレナから話を聞いていた。
「黒い魔力を使う者について、確かな情報はない」
エレナが地図を広げる。
「ただし、異常な魔物が確認された場所には共通点がある」
「共通点?」
「王都から離れた場所だ」
地図を見る。村、森、街道……確かに王都から少し離れた場所ばかりだ。
「王都の近くでは確認されていない」
「犯人は田舎にいる?」
「そうとは限らない。魔物を強化している人物が各地を移動している可能性もある」
「確かに」
ずっと同じ場所にいるとは限らない。
「今、騎士団は各地を調査している」
「エレナはその1人ってことか。でも何でここはエレナ1人なんだ?」
エレナが黙る。
「ごめん、聞かない方がよかった?」
「いや」
少ししてから、エレナは口を開いた。
「私の任務は調査だけではない」
「え?」
「黒い魔力を使う者を見つけた場合は……討伐する」
空気が少し重くなる。
「危険な相手なんだな。エレナ1人で大丈夫なのか?」
「問題ない」
エレナは顔色を変えない。
「1人で全部やる必要はないだろ。今は俺たちもいる」
エレナが俺を見る。
「……」
「何だよ」
エレナは少しだけ視線を逸らした。
「そういうことを言われたのは久しぶりだった」
何か事情があるんだろう。今は聞かないことにした。
「これから3人で動くってこと?」
リゼットが聞く。
「そうなる」
「やった!」
「何がそんなに嬉しいんだ?」
「人数が増えた!」
「それだけ?」
「それだけじゃないよ」
リゼットが笑う。
「絶対楽しくなるじゃん」
エレナを見る。
「よろしくね、エレナ!」
「こちらこそ」
気がつくと、前方に見覚えのない男性が立っていた。
「カイムさんですね」
「そうですけど」
「ギルドマスターがお呼びです」
「ギルドマスターが? 何で? 俺何かやっちゃいました?」
「詳しいことはギルドマスターに直接お聞きください」
嫌な予感がする。
「今からですか?」
「はい」
「わかりました」
男性は去っていった。
「何だったの?」
リゼットが聞いてくる。
「ギルドマスターに呼ばれた。今から行ってくる」
「私たちも行く!」
「いや、俺だけって言われたし」
準備しないと。
「すぐ戻るよ」
俺は宿を出て、夜の王都を歩いた。昼間とは違って、人通りは少ない。
「ギルドマスターから直々にねぇ」
今まで、直接呼ばれたことなんてなかった。
何の話だ? 黒い魔力の件か。それとも。
「俺のバフのことか?」
まさかな。
そんなことを考えながら、俺は冒険者ギルドへ向かった。
「失礼します」
ギルドマスターの部屋の前に立つ。
「入りなさい」
中から声が聞こえた。俺は扉を開ける。部屋の中には、1人の男が座っていた。白髪で鋭い目。かなり年を取っているように見えるが、体は大きい。
「お前がカイムか」
「はい」
「座れ」
「失礼します」
俺は椅子に座る。
「呼び出した理由を聞いても?」
ギルドマスターは俺を見る。
「黒い魔力についてだ」
やはりか。
「君が討伐した魔物について、騎士団からも報告が入っている」
ギルドマスターは机の上に1枚の紙を置いた。
「お前たちに依頼がある」
「えっと、内容は?」
「異常な魔物が確認された場所の調査」
紙を見る。
「場所はどこなんですか?」
「王都の北にある廃村だ」
ギルドマスターの表情が少し険しくなる。
「数日前からそこに近づいた冒険者が戻ってこない」
思ったより面倒なことになってきた気がする。
「受けるか?」
俺は少し考える。
「受けます」
もう答えは決まっていた。宿にいる2人がこの話を聞けば、絶対に行くと言う。特にリゼットは。
「そうか」
ギルドマスターが頷く。
「頼んだぞ」
俺たちの次の目的地が決まった。




