第13話 騎士①
「アルト……?」
何でアルトがここにいるんだ。
俺は入口に立つアルトを見る。その後ろには、リーナとセシルの姿もあった。
「久しぶりだな、カイム」
追放されてから、まだそんなに時間は経っていない。
なのに、随分久しぶりな気がした。
「何の用だ?」
俺が聞くと、アルトは少しだけ黙った。
「話がある」
「話? ここで?」
「ここでいい」
アルトはその先をなかなか話そうとしない。
何だよ。わざわざ俺を探してきたんだろ。
「用があるなら早く言えよ」
「カイム」
今度はリーナが口を開いた。
「最近、何してるの?」
「何って……冒険者を続けてるよ」
「……そう」
リーナは少し気まずそうに目を逸らした。
何だ? 3人とも以前と違って様子がおかしい。
「それで?」
「俺たちは」
アルトが口を開く。
「最近調子が悪い」
アルトは腕を組む。
「何かが前と違うんだ。力が出ないというか」
俺は少し黙る。隣を見ると、リゼットも黙って話を聞いていた。エレナも同じだ。
「具体的には?」
「前までなら倒せていた魔物に苦戦する」
セシルも答える。
「魔法の威力もなんとなく下がっている気がするんです」
「剣も前ほど動かない」
アルトが続ける。
「前より弱くなった気がするんだ」
なるほど。そういうことか。
「それで俺のところに来たと」
「…………」
誰も答えない。図星らしい。
「俺にもう一度バフをかけてもらおうと思ったんだな」
「そうだ」
アルトが頷いた。
「なるほどな。でも必要ないんじゃなかったのか?」
アルトは黙る。リーナもセシルも何も言わない。
「俺のバフはもう必要ない。俺たちだけで十分戦える」
俺はリーナを見る。
「確かそう言ってたよな?」
「……」
「俺は足手まとい。雑魚は邪魔」
今度はアルトを見る。
「そんなことも言ってたな」
「……悪かった」
予想していなかった言葉だった。アルトが頭を下げる。
「俺たちはお前の力をちゃんとわかってなかった」
リーナとセシルも俯いている。
「今になって気づいたんだ」
アルトは拳を握る。
「俺たちが強くなれたのは、お前のバフがあったからだ。だから」
アルトが顔を上げる。
「もう一度、俺たちのパーティに戻ってきてくれ」
周囲が静かになる。俺はしばらく何も言えなかった。戻ってきてくれ——少し前までなら多分すぐに頷いていた。俺たちは幼馴染だった。ずっと一緒に冒険してきた仲間だった。でも。
「嫌だ」
「何だと?」
アルトが目を見開く。
「戻らない」
「何でだよ」
「何でも何も、お前らが追放したからだろ。それに」
俺は隣を見る。リゼット。そして、エレナ。
「今の俺には仲間がいる。真の仲間」
リゼットは少し驚いたような表情をする。
「仲間って言ってくれるんだ」
「嫌、だったか?」
「ううん!」
リゼットが笑う。
「嬉しい!」
エレナは何も言わない。だが、少しだけ俺を見ていた。
「だから戻るつもりはない」
俺はアルトたちを見る。
「悪いな」
「そうか」
アルトは俯いた。
「わかった」
意外とあっさり引いた……ように思えた。
「だったら」
アルトが顔を上げる。
「1つだけ頼みがある」
「何?」
「バフをかけてくれ」
「……」
「パーティに戻れとは言わない」
アルトは言う。
「ただ、一度だけでいい」
「何で?」
「確認したい」
アルトが真剣な顔をする。
「俺たちが弱くなった理由を。本当にお前のバフのおかげだったのかを」
俺は考える。別にかけるだけならいい。もう前みたいに戻るわけじゃない。
「カイム」
リゼットが小さな声で呼ぶ。
「無理しなくていいんだよ」
「わかってる」
俺は頷く。そしてアルトを見る。
「いいよ」
「本当か?」
「ただし」
指を立てる。
「1回だけだ」
「わかった」
俺はアルトへ手を向ける。
「【強化】」
淡い光がアルトを包む。アルトの身体が僅かに震えた。
「どうだ?」
アルトは自分の手を見ている。
「戻った……力が!」
アルトは拳を握る。
「前の感覚だ」
やっぱり。
俺がいなくなってから弱くなったのは、バフの効果が切れたからか。
「追放したことも、本当に悪かった」
アルトの表情は暗い。
「許してくれとは言わない」
俺はアルトを見る。その後ろにいるリーナとセシルも、頭を下げた。
「ごめんなさい」
「すみませんでした」
俺はしばらく黙る。許せるかどうかは、まだわからない。
「謝罪は受け取る。ただ、戻らない。俺は今の生活が結構楽しいからな」
リゼットを見る。
「魔法バカもいるし」
「誰が魔法バカだ!」
「違うのか?」
「魔法大好きな天才!」
「同じだろ」
リゼットがむぅっと頬を膨らませる。
「じゃあな」
俺はアルトたちに言う。
「お互い頑張ろうぜ」
「……ああ」
アルトたちは宿を出ていった。リゼットは心配そうに俺を見ている。
「大丈夫? 色々」
「気にするな」
「そっか」
「カイム」
今度はエレナが俺を呼ぶ。
「さっきの話だが……」
「封印のことか?」
「ああ」
エレナは真剣な顔になる。
「今度こそ話す。私が何者なのか」
リゼットが目を輝かせる。
「ついに来た! 秘密の過去!」
エレナは少しだけため息を吐いた。
「私の話は」
エレナが剣に触れる。
「王国に関わる」
「王国?」
「私は王国騎士団の人間だ」
エレナは一度、周囲を確認する。そして小さな声で言った。
「私は今、ある人物を探している」
「誰?」
「黒い魔力を使う者だ」
俺とリゼットは顔を見合わせた。黒い角、黒い魔力、森で見たあの魔物。
「お前たちが倒した魔物の話を聞いて、私は王都へ来た」
エレナの表情はいつになく真剣だ。
「その件について私に協力してほしい」
俺は少し黙る。何だか面倒なことに巻き込まれそうだ。しかし、リゼットは既に目を輝かせていた。
「面白そう!」
「お前なぁ」
やれやれ。
「とりあえず話を聞こうか」




