第12話 再会
エレナと別れた俺たちは、そのまま王都へ向かって歩いていた。
「それにしても」
リゼットが隣で呟く。
「エレナって変わった子だったね」
「お前に言われたくないと思うぞ」
「えー?」
「初対面の相手にいきなりバフかけてもらおうとするやつも大概だろ」
俺はさっきのエレナを思い出す。かなり強かった。魔物に囲まれていたのに、1人で普通に戦っていたし。
「あの剣士……強そうだったな」
「冒険者なのかな?」
「それにしては装備が綺麗すぎる気がする。普通、あんなに綺麗な鎧は着てないと思う」
「言われてみれば」
白い軽鎧。あれは冒険者というより、騎士に近いような気もする。
「騎士とか?」
「かも」
リゼットが頷く。
「でも、本人に聞けばよかったね」
「もう遅いけどな」
「また会えるって!」
王都が見えてきた。
「やっと戻ってきたな」
「お腹空いたー。ご飯食べよ」
「まずギルドだろ。報告してからな」
俺たちは王都へ入り、そのまま冒険者ギルドへ向かった。受付嬢に事の次第を報告する。
「村の周辺に出現した魔物についてですね。何かありましたか?」
「ありました」
俺は少し考える。
「見たことのない魔物が出ました。大きなウルフみたいな魔物です」
「額に黒い角がついてた」
リゼットが付け加えると、受付嬢の表情が少し変わった。
「それ、本当ですか?」
「はい」
俺たちは昨日の出来事を説明した。魔物が普通より強かったこと。角から黒い何かを飛ばしてきたこと。そして、角を破壊したあとに黒い魔力が消えたこと。
話を聞き終えた受付嬢は、難しい顔をしていた。
「何かわかるんですか?」
「いえ……私には」
受付嬢が首を横に振る。
「ですが、少し確認する必要があります」
「何かあるんですか?」
「今のところは何とも言えません」
どうやら、詳しいことは教えてくれないらしい。
「わかりました」
「こちらでも調査してみます。情報提供、ありがとうございました」
依頼の報酬を受け取り、俺たちはギルドを出た。
「何だったんだろうね」
「さあな」
「気になるなぁ」
「何でも気になるんだな」
「だって気になるものは気になるんだもん」
まあ、俺も少し気になっている。黒い角。誰かに見られていた視線。そして、エレナの剣。
「どうかしたの?」
「いや」
俺は首を横に振る。
「何でもない」
「ふーん?」
リゼットがじっとこっちを見る。
「何だよ」
「別にー?」
「絶対何かあるだろ」
「ないよー?」
怪しい。でも、追及しても意味がなさそうだ。
「そういえば」
リゼットが急に立ち止まった。
「今日、パーティ名決めちゃう?」
完全に忘れていた。俺たちはパーティを組んだのに、まだ名前が決まっていない。
「そうだったな」
「もう何日経ってると思ってるの?」
「まだ数日だろ」
「それでも数日!」
「そんなに重要か?」
「重要です!」
リゼットがビシッと指を立てる。
「パーティ名は冒険者の顔!」
「大げさだな」
「【星の剣】だって名前あるでしょ?」
一瞬、言葉に詰まった。
「あ」
リゼットも気づいたらしい。
「ごめん」
「いや、別に」
もう以前ほど気にならなくなってきた。……いや、気にならないわけではない。ただ、今は前ほど引きずっていない。
「じゃあ考えるか」
「うん!」
俺たちは宿へ戻った。食堂の席に座る。
「さて」
リゼットが腕を組む。
「パーティ名会議、開始! まずはカイムから!」
「えー……」
考える。
「【最強のバッファー】」
「却下。ダサい」
「お前も似たようなの出しただろ」
「じゃあ私!」
リゼットが手を上げる。
「【蒼炎の翼】!」
「何で蒼炎?」
「なんとなく格好いいから!」
「却下」
「何で!?」
「俺たちに翼はない」
しばらく考える。
「【魔法と拳】」
「そのまんまだね」
「【最強コンビ】」
「普通」
「【カイムとリゼット】」
「それはパーティ名じゃない。コンビ名だよ」
全然決まらない。
「もう適当でいいんじゃないか?」
「ダメ。妥協しちゃダメなの!」
「失礼する」
宿の入口から声が聞こえた。俺とリゼットが同時に振り返る。
「エレナ?」
昼間、森で出会った少女がいた。
「また会ったね!」
リゼットが嬉しそうに手を振る。エレナは相変わらず真面目そうな顔をしながら俺たちの前まで歩いてくる。
「どうしたんだ?」
俺が聞く。
すると、エレナは少しだけ黙った。
「頼みがある」
エレナは俺を真っ直ぐ見る。
「私にもう一度【強化】を使ってほしい」
「また?」
「うんうん!」
何故かリゼットが頷いている。
「いいじゃん! やろうよ!」
「お前が返事するなよ」
エレナは首を横に振った。
「確認したいことがある」
エレナの表情は真剣だった。
「お前の【強化】を受けたとき」
エレナが自分の剣を見る。
「止まっていたはずの力が、動いた」
「封印のことか?」
エレナは黙る。やっぱり聞かれたくなかったらしい。
「悪い」
「いや」
少ししてから、エレナは口を開いた。
「隠すつもりだった。だが」
エレナが俺を見る。
「お前の力が必要になるかもしれない」
「何のために?」
エレナはすぐには答えなかった。
「少し長い話になる」
リゼットが椅子を引いた。
「座りなよ。立ったままだと疲れるでしょ」
エレナは少し迷った後、俺たちの向かいに座った。
「何があったんだ?」
エレナは自分の剣に手を置く。
「私は――」
そのとき。
——バンッ!
突然、宿の扉が勢いよく開いた。
「……!」
全員がそちらを見る。
「カイム!」
聞き覚えのある声だった。俺は固まる。
どうしてここにいるんだ。
「アルト……?」
そこには、俺を追放した幼馴染が立っていた。




