第11話 剣士
俺たちは依頼を終え、村を出る準備をしていた。
「お世話になりました!」
リゼットが村の人たちへ手を振る。
「また来てくださいね!」
「次は魔物が出ないときにな」
「それじゃ任務じゃなくて観光だよ」
「別に観光でもいいだろ」
「私は冒険したいの!」
元気だなぁ。
俺たちは村を出て、王都へ向かう道を歩いていた。
「それにしても、昨日の魔物は何だったんだろうな」
「わかんない」
リゼットが珍しく真面目な顔をしている。
「普通の魔物じゃなかったのは確かだと思う」
あの黒い角——。
「誰かがあの黒い角を付けた可能性があるんだよな?」
「そう考えるのが自然かな」
誰かが魔物を強くしている。もしそうなら、かなり危険だ。
「王都に戻ったらギルドに報告しなきゃ」
「そうだな」
前方から、数人の冒険者が歩いてきた。何かを運んでいる。近づいてみると、怪我をした冒険者だった。
「大丈夫か?」
「ああ……」
声をかけると、冒険者の1人が答えた。
「少し魔物にやられただけだ」
「この辺に強い魔物がいるのか?」
「わからん」
男が首を横に振る。
「突然襲われたんだ」
「突然?」
「ああ。大型の魔物だった」
嫌な予感がする。
「黒い角は?」
「角……?」
「いや、何でもない」
どうやら昨日の魔物とは違うらしい。
「とにかく気をつけろ」
「わかった」
冒険者たちはそのまま王都へ向かっていった。
「何か増えてない?」
リゼットが小さな声で言う。
「ああ」
昨日だけじゃないのかもしれない。俺たちは少し警戒しながら歩き始めた。
——キィン!
遠くから、金属がぶつかる音が聞こえた。
「今の……」
「剣の音か?」
俺とリゼットは顔を見合わせる。
「ギャアアアッ!」
魔物の鳴き声。
「行こう」
俺たちは音がした方へ走る。少し進むと、開けた場所が見えた。
「はあっ!」
そこで1人の少女が剣を振っていた。銀色の長い髪。白を基調とした軽い鎧。その少女は3体の魔物に囲まれていた。
「これを1人で?」
「しかも結構強そう」
少女は魔物の攻撃を避ける。そして剣を振る。
——ズバッ!
1体の魔物を倒した。
「強いな」
「うん。でも」
リゼットが周囲を見る。
「まだいるね」
茂みが揺れる。1体、2体、さらに魔物が現れる。
「多すぎないか?」
少女も気づいたようだ。
「多すぎる……」
初めて少女が声を漏らした。かなり不機嫌そうだ。
俺たちは飛び出した。
「【強化】!」
まず自分へバフをかける。身体が軽くなる。
「えいやっ!」
俺は近くの魔物を殴り飛ばす。
——ドゴォン!
「……!?」
少女が驚き、こちらを振り向く。
「誰だ」
「通りすがりの冒険者だ!」
魔物が俺へ飛びかかる。
「【ファイアボール】!」
リゼットの魔法が魔物へ命中する。
——ドォン!
「助かった」
「どういたしましてー!」
リゼットが笑う。少女は俺たちを警戒しているようだった。
「お前たち、何者だ」
「だから冒険者だって」
「その程度の情報ではわからない」
「面倒な子だな」
「誰が子供だ!」
怒った。意外と感情豊からしい。
「今は戦え!」
少女が叫ぶ。
「はいはい!」
俺たちは再び魔物へ向かう。しばらくして。最後の1体が倒れた。
「終わったな」
俺は息を吐く。
「カイム!」
リゼットがこちらへ走ってくる。
「大丈夫?」
「問題ない。そっちは?」
「私は元気!」
後ろから声がした。
「おい」
振り返ると。さっきの少女だった。
「お前たち」
少女が俺たちを見る。
「なぜ助けた」
「え?」
「私は助けを求めていない」
「別に助けたわけじゃない。困ってそうだったから手伝っただけだ」
「同じだろう」
「まあ、いいじゃん」
リゼットが間に入る。
「全員無事なんだし」
「……」
少女は少し黙る。
「それはそうだが」
「それより名前は?」
リゼットが聞く。
「俺はカイム」
「私はリゼット!」
少女は少し迷っている様子で。
「……エレナ」
「エレナ?」
「ああ」
少女は剣を鞘へ戻す。
「エレナ・ヴァルクスだ」
「よろしくな、エレナ」
「よろしくするつもりはない」
「即答!?」
リゼットが笑う。
「面白い子だねー」
「私は面白くない」
リゼットとエレナが話している。正反対だな、この2人。そんなことを思っていると。
「カイム」
エレナが俺を見る。
「1つ聞きたい。さっき使っていた力は何だ」
やっぱり気になるよな。
「バフだよ。味方を強くする能力なんだ」
「それを自分に使ったのか? そんなことができるのか?」
「俺も最近知った」
「…………」
エレナが黙り込む。どうやら理解が追いついていないらしい。
「細かいことはいいじゃん」
リゼットが間に入る。エレナは少しだけ考え込んでいた。
「……カイム」
「何だ?」
「そのバフを私に使ってみろ」
リゼットの表情が少しだけ変わる。
「へぇ」
リゼットが笑う。
「エレナも興味あるんだ?」
「違う」
「違わないでしょー?」
「私は確認したいだけだ」
何だろう。急に空気が変わった気がする。
「まあいいけど」
俺はエレナへ手を向ける。
「いくぞ——【強化】」
淡い光がエレナの身体を包む。エレナの目が見開かれた。
「これは……」
「どう?」
「身体が軽い」
「そうだろ?」
「いや」
エレナは自分の手を見る。
「それだけではない」
「え?」
エレナの身体から、微かに魔力が溢れ始める。
「私の中にある魔力まで……」
その瞬間。エレナの剣が淡い光を放った。俺もリゼットも固まる。エレナ自身も驚いていた。
「これは」
エレナが剣を見る。そして、小さく呟いた。
「封印が……」
「封印?」
俺が聞き返した瞬間。エレナは剣を鞘へ戻した。
「何でもない」
「いや、今」
「何でもない」
明らかに何かある。だが、エレナはそれ以上何も話さなかった。
「じゃあな」
「え?」
突然、エレナが背を向ける。
「私は行く」
「もう行くのか?」
「待って」
リゼットが呼び止める。
「どこ行くの?」
「行かなければならないところがある」
リゼットは少しだけ残念そうな顔をした。
「それじゃ仕方ないね。またねー」
エレナは歩き出し、数歩進んだところで、一度だけ振り返った。
「カイム」
エレナは俺を見る。
「その力、いつかもう一度見せてもらう」
それだけ言って、今度こそ去っていった。
「…………」
「…………」
しばらく沈黙が続いた。
「何だったんだ?」
「さあ?」
リゼットが笑う。
「でも、また会う気がする」
「根拠は?」
「勘」
俺たちは王都へ向かって歩き出した。その頃、森の奥では。
「エレナ・ヴァルクス……」
木の陰から、1人の人物が彼女の後ろ姿を見ていた。
「面白くなってきたな」
その人物は静かに笑う。
「バッファー。そしてあの剣」
闇の中で、誰かの声が響く。
「少し予定を変える必要があるか」




