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第四章 斎藤玄巧
前回のあらすじ
三成は、織田奇巧が信長の血を引く人物ではないかと疑い始めた。
しかし、その視線の外で、斎藤玄巧は小早川秀秋の心に入り込もうとしていた。
玄巧が狙っていたのは、秀秋の「忠誠」ではない。
迷いだった。
小早川秀秋は、一人で酒を飲んでいた。
杯を置く。
また手に取る。
そして、また置く。
「豊臣につくべきか……」
誰に聞かせるでもなく、呟いた。
秀秋は豊臣秀吉の養子だった。
豊臣の恩を受けている。
だが、秀吉が死んだ今、その恩が自分を守ってくれる保証はない。
秀頼を守るのか。
家康につくのか。
どちらに転んでも、裏切り者になる可能性がある。
その部屋に玄巧が入ってきた。
「迷っておられますね」
「……何の話だ」
「関ヶ原の話です」
秀秋の顔が強張った。
「私は何も決めていない」
「だからこそ、迷っている」
玄巧は静かに座った。
「人間は、選択肢が二つあると思うから苦しむのです」
「では、何が正しい?」
「正しさを考える必要はありません」
玄巧は笑った。
「自分が生き残れるほうを選べばいい」
秀秋は黙った。
玄巧はそれ以上、何も言わなかった。
説得しない。
命令もしない。
ただ、種を植える。
人間は、自分で考えたと思ったことほど強く信じる。
玄巧は、それを知っていた。




