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失恋から始まる冒険者生活 ~「依頼だから」と言い続けていたら世界を救っていました~  作者: 涙目


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第七話 そんなに凄いことしてません

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 商店街は賑わっていた。


 人。 人。 人。


 エマは不安そうにライトの手を握っている。


「お母さん……」


「大丈夫」


 ライトは頷いた。


「探せば見つかる」


「うん」


 エマも小さく頷く。


 二人は店を回った。


「エマちゃん見なかった?」


「また迷子?」


「見てないなぁ」


 パン屋。

 八百屋。

 雑貨屋。


 色々な人へ聞いて回る。


 その度に返ってくる言葉は同じだった。


「また?」


「有名なんだな」


 ライトが言う。


「うぅ……」


 エマが沈んだ。


「迷子で有名なの嫌」


「そうか」


「嫌だよ」


 かなり嫌らしい。


 しばらく歩いた所で。


「エマちゃん!?」


 大きな声が響いた。


 女性だった。

 二十代後半くらい。

 綺麗な服を着ている。


 そして。

 目が真っ赤だった。


「お母さん!」


 エマが飛び出した。


 女性も駆け出す。


 二人はそのまま抱き合った。


「どこ行ってたの!?」


「ごめんなさい!」


「心配したのよ!」


「ごめんなさいぃ……」


 今度は嬉し涙だった。


 ライトは少し離れた場所で見守る。


 見つかってよかった。

 本当にそう思った。


 しばらくして。


 女性がライトへ近付いてきた。


「ありがとう」


 深々と頭を下げる。


「娘を見つけてくれて」


「見つけたのはエマのお母さんです」


 ライトは正直に言った。


 自分は一緒に探しただけだ。


 女性は少し笑った。


「あなたが側にいてくれたからよ」


「そうですか?」


「ええ」


 女性は頷いた。


 そして改めて名乗る。


「私はローラ」


「ライトです」


「ライト君ね」


 どこか安心したような声だった。


「お礼をしたいのだけど」


 その言葉に。

 ライトの耳がぴくりと動いた。


「お礼」


「ええ」


「お金ですか?」


 即答だった。


 ローラが固まる。


 エマも固まる。


「お金好きなの?」


 エマが聞いた。


「好き」


 即答だった。


「どうして?」


「ご飯が食べられるから」


 真顔だった。


 ローラが目を丸くする。


 そして困ったように笑った。


「そうね。大事よね」


 とても大事だった。



 その後。

 三人は商会へ向かった。


 商店街でも一際大きな建物。


「大きい……」


 ライトは思わず見上げた。


「ここがうちよ」


 エマが少し誇らしげに言う。


「へぇ」


 素直に感心した。


 中に入る。


 忙しそうな人がたくさんいる。


 荷物を運ぶ人。

 帳簿を書く人。

 商品の確認をする人。


「働いてる」


 当たり前である。

 商会なのだから。


「働いてるわよ」


 ローラが笑った。

 だがライトの目は輝いていた。


「凄い」


「そう?」


「こんなにいっぱい仕事があるんですね」


 そこだった。


 ローラが思わず吹き出す。



 奥の部屋へ案内される。


 少し待っていると。

 一人の男性が入ってきた。


「エマ!」


「お父さん!」


 今度は父親だった。


 エマが飛び付く。


 どうやらこの人もかなり心配していたらしい。


 しっかり抱き締めている。


「無事でよかった……」


 本気だった。


 男性はライトへ向き直った。


「娘を連れてきてくれてありがとう」


 深く頭を下げる。


「私はこの商会の代表、ガルドだ」


「ライトです」


「ライト君か」


 ガルドは目を細めた。


「話は聞いた」


「そうですか?」


「迷子のエマを泣かせずに連れてきてくれたそうだな」


「探しただけです」


 ライトは首を傾げる。

 本当にそれだけだった。


 ガルドは少し考えた。


 机の上へ小さな袋を置いた。

 ちゃり、と音がした。


「依頼料だ」


「依頼?」


「エマを見つける依頼だ」


 ライトは袋を見る。

 そしてガルドを見る。


「受けてません」


 ガルドが固まった。


「は?」


「依頼書もありませんでした」


「いや」


「受けてません」


 真面目な顔だった。


 ライトにとって依頼とは。

 ギルドで受けるものだった。


 数秒後。

 ガルドは大笑いした。


「ははははは!」


「?」


「面白い子だな」


 そして苦笑しながら頭を掻いた。


「すまん。ならこれは依頼料じゃない」


「違うんですか?」


「ああ」


 ガルドは頷く。


「娘を無事に連れてきてくれた礼だ」


「お礼……」


 ライトは袋を見る。


 依頼ではない。


 けれどお金だ。


 少し困った。


「受け取ってくれないか?」


「でも」


「?」


「俺、そんなに凄いことしてません」


 本音だった。


 泣いている子がいた。

 一緒に探した。


 それだけだと思っている。


 ガルドは少しだけ真面目な顔になった。


「ライト君」


「はい」


「親にとって、子供は宝物なんだ」


 ライトは瞬きをした。


「エマが無事だった」


「……はい」


「それだけで十分なんだよ」


 ガルドは優しく笑う。


「だから受け取ってくれると助かる」


「助かる?」


「ああ」


「恩を返せない方が落ち着かない」


 ローラも頷いた。


「本当に感謝しているの」


 エマも服の裾を掴みながら言う。


「受け取って?」


 三人に見られる。


 ライトは少し悩んだ。


 そして。


「じゃあ……受け取ります」


 袋を受け取った。


 ガルドが満足そうに笑う。


「ありがとう」


「ありがとうございます?」


 お礼を言われる理由がよく分からなかった。


 けれど。

 みんな嬉しそうだったので。


 たぶんこれでよかったのだろう。


「それと、今後、困ったことがあったらうちの商会に来なさい」


「?」


「相談くらいなら乗ろう」


 ライトは少し考えた。


 そして頷く。


「ありがとうございます」


 お金もうれしかった。


 だが。

 頼れる人が増えたのも悪くない気がした。



 帰り道。

 エマが隣を歩いていた。


「ライト」


「ん?」


「ありがとう」


「うん」


「今度、お父さんの商会のお店案内してあげる」


「本当?」


「本当」


 ライトの目が輝いた。

 店がたくさんある場所。


 つまり。

 仕事もたくさんある場所だ。


「楽しみ」


「絶対違うこと考えてる」


 エマは呆れた。

 だが少しだけ笑っていた。



 こうして迷子捜索は終わった。


 依頼書はなかった。

 報酬もなかった。


 だが新しい縁ができた。


 商会。

 エマ。

 そして商人たち。


 ライトはまだ知らない。


 この出会いが。

 後に大きな依頼へ繋がることを。


 ただ今は。


「明日は何の依頼を受けようかな」


 そのことしか考えていなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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