第五話 報酬がいいので
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌日。
ライトは再び森へ来ていた。
隣にはリリアがいる。
「本当に来た」
「来ますよ」
「ふーん」
リリアは少しだけ笑った。
森ウサギ討伐。
報酬は銅貨七枚。
ライトは気に入っていた。
危険は少ない。
報酬も悪くない。
何より。
「夕飯がおいしい」
「なにそれ」
リリアは呆れた。
◇
森の中を歩く。
その時。
「いた」
リリアが指差した。
森ウサギだった。
木の根元で草を食べている。
ライトは石を拾った。
狙う。
投げる。
外れた。
「惜しい」
「本当ですか?」
「半分くらい」
「遠いなぁ」
もう一度。
石を拾う。
投げる。
今度は当たった。
ゴッ。
森ウサギが転がる。
「やった!」
「おめでとう」
リリアが拍手する。
少しだけ誇らしかった。
そのまま討伐を続ける。
一匹。
二匹。
三匹。
少しずつ慣れてきた。
外れる回数も減る。
狙った場所へ飛ぶようになってきた。
その時。
茂みが大きく揺れた。
ガサガサッ!
「!?」
ライトが振り向く。
飛び出してきたのは森ウサギではなかった。
犬ほどの大きさのネズミ。
頭には短い角がある。
「角ネズミ!」
リリアが叫ぶ。
「逃げて!」
ネズミはライトへ向かって突っ込んできた。
速い。
本当に速い。
だが。
ライトは動かなかった。
いや。
動けなかった。
怖い。
怖かった。
今まで生き物と戦ったことなどない。
村では畑仕事ばかりだった。
だから足が止まった。
「ライト!」
リリアの声。
その瞬間。
頭に浮かんだのは依頼だった。
そして。
ギルドの夕飯。
昨日の肉入りスープ。
銅貨七枚。
生きる。
働く。
食べる。
逃げたら。
無くなる。
「嫌だ」
ライトは石を掴んだ。
投げる。
思い切り。
全力で。
ゴッ!!
角ネズミの鼻先に命中した。
角ネズミが怯む。
その隙に。
リリアの石が飛んだ。
再び命中。
角ネズミが倒れる。
静寂。
「はぁ……」
ライトは大きく息を吐いた。
膝が震えている。
「大丈夫!?」
リリアが駆け寄る。
「大丈夫です」
「全然大丈夫そうじゃない」
「怖かったです」
「当たり前でしょ!」
リリアは呆れた。
だが。
少し安心もした。
逃げずに立ち向かったからだ。
「でも」
ライトは倒れた角ネズミを見る。
「逃げたくなかったんです」
「なんで?」
ライトは真面目な顔で答えた。
「せっかくお金が稼げるようになったので」
リリアは黙った。
「……本当にお金好きね」
「大事です」
当然だった。
その瞬間。
頭の奥で声が響く。
――《投石 Lv2》になりました。
「お?」
まただった。
今度は獲得ではない。
レベルが上がったらしい。
「投石レベル2?」
「何が?」
リリアが首を傾げる。
「頭の中の声です」
「また聞こえたの?」
「はい」
「今度は何て?」
「『投石レベル2になりました』って」
リリアは一瞬きょとんとした。
そして納得したように頷く。
「ああ、神の啓示ね」
「神の啓示?」
「スキルを覚えたり、レベルが上がった時によく聞こえるやつ」
「みんな聞こえるんですか?」
「聞こえるわよ」
ライトは少し驚いた。
「じゃあ、投石レベル2になったんですか?」
「たぶんね」
「たぶん?」
「確認してないから」
リリアは肩を竦める。
「ギルドに戻ったらカード更新できるわよ」
「更新?」
「ギルドの水晶と同じ様にカードに表示されるの」
「おお」
「今どんなスキルを持ってるかも見られるし」
「便利ですね」
「便利よね」
互いに笑い合う。
リリアは少し考えて。
さらに教えてくれた。
「生活系は比較的覚えやすいかな」
「歩行とか?」
「そうそう。あとは採集とか」
「投石は?」
「それは人によるかな」
「そうなんですね」
少し考えてからライトは尋ねた。
「リリアさんは何の職業なんですか?」
「私は《狩人》」
リリアは胸を張った。
「だから投石とか追跡とか覚えやすいの」
「なるほど」
「職業系は滅多に覚えられないけどね」
「そうなんですね」
また一つ賢くなった。
「ライトの職業は?」
「《 》です」
「え?」
「空欄でした」
リリアが固まった。
「……空欄?」
「はい」
「そんなことあるの?」
「教会でも言われました」
「えぇ……」
リリアは困惑した。
だが本人は気にしていない。
「でも冒険者はできるそうです」
「そういう問題かなぁ……」
リリアは首を傾げた。
やっぱり変な人かもしれない。
そんなことを思いながら、
二人は依頼を続けた。
◇
夕方。
二人は依頼を終えて町へ戻る。
「また明日も来る?」
リリアが聞いた。
「来ます」
即答だった。
「森ウサギ?」
「報酬がいいので」
リリアは吹き出した。
「それに」
リリアが目を瞬かせる。
「石が当たるようになってきたので」
リリアは少しだけ笑う。
「分かった、じゃあまた明日」
「はい」
こうしてライトとリリアは少しだけ仲良くなった。
まだ友達と呼ぶには早い。
だが知り合いよりは近い。
お読み頂き、ありがとうございます。




