第四話 えっと
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
ライトは朝食を食べながら今日の依頼を探していた。
薬草採集。
銅貨五枚。
初めてのお金。
美味しかった夕飯。
全部満足だった。
「次は何にしようかな」
依頼書を眺める。
その時だった。
「ライト君」
ミーナの声だった。
ライトは振り返る。
「はい」
「教会は行った?」
「教会?」
ライトは首を傾げる。
数秒。
「あっ」
思い出した。
選定の儀。
職業。
完全に忘れていた。
依頼のことで頭がいっぱいだったのである。
ミーナはため息を吐く。
「行ってないのね」
「……はい」
「ちゃんと行ってきなさい」
「はい……」
少しだけ怒られた。
◇
教会は町の中央近くにあった。
「大きい……」
思わず見上げる。
白い建物。
高い塔。
色付きの窓。
村にはこんな建物はなかった。
というか。
「村長の家より大きい」
比べる相手がおかしい。
◇
中へ入る。
静かだった。
人の声も小さい。
なんだか落ち着かない。
「あの」
近くにいた女性へ声をかける。
「はい」
優しそうな神官だった。
「選定の儀を受けたいです」
女性は少し驚いた。
「今日ですか?」
「はい」
「お名前は?」
「ライトです」
「年齢は?」
「十歳です」
神官は頷いた。
「ではこちらへどうぞ」
◇
案内された先には大きな水晶があった。
ギルドの物よりずっと大きい。
「手を置いてください」
「はい」
言われた通り手を置く。
すると。
水晶が光った。
淡い銀色の光。
部屋中に広がる。
「おお……」
思わず感動する。
凄かった。
本当に凄かった。
魔法みたいだ。
いや魔法なのかもしれない。
よく分からない。
神官が表示を見た。
そして。
「……え?」
固まった。
ライトは首を傾げる。
「どうしました?」
「少々お待ちください」
神官は水晶を見る。
もう一度見る。
さらに見る。
何度も見る。
「故障でしょうか……?」
「壊れたんですか?」
「いえ」
神官は困惑していた。
表示されていた文字。
ーーーーーーーーーーー
名前:ライト
年齢:10
職業:《 》
スキル:
歩行Lv1 会話Lv1 採集Lv1
ーーーーーーーーーーー
神官は額を押さえた。
「職業が……ありません」
「ありません?」
「ありません」
「そんなことあるんですか?」
「ありません」
あった。
今あった。
「えっと」
ライトは考える。
職業がない。
職業なし。
「じゃあ無職ですか?」
神官はさらに困った顔をした。
「たぶん違うと思うのですが……」
◇
その後。
別の神官も呼ばれた。
さらに偉そうな神官も呼ばれた。
三人で水晶を見る。
「ありませんね」
「ありませんね」
「ありませんね」
結論は変わらなかった。
「どうすればいいんですか?」
ライトが尋ねる。
三人は顔を見合わせた。
そして。
「とりあえず生活に問題はありません」
「そうなんですか?」
「はい」
そこが一番大事だった。
ライトは安心する。
「お金は稼げますか?」
「稼げます」
「冒険者できますか?」
「できます」
「よかった」
ライトは心から安心した。
◇
教会を出る。
職業はよく分からなかった。
神官達も分からなかった。
でも。
「冒険者はできるらしい」
それで十分だった。
ライトは満足する。
そして再び冒険者ギルドへ向かった。
今日も依頼を受けるために。
◇
掲示板の前で依頼を探す。
薬草採集は昨日やった。
もう少し報酬の高い依頼がいい。
そう思って依頼書を眺めていると。
「それ取るの?」
後ろから声がした。
振り返る。
同じくらいの年齢の少女だった。
茶色の髪を後ろでまとめている。
腰には短剣。
胸には冒険者カード。
「はい」
ライトは頷く。
「森ウサギ討伐?」
「そうみたいです」
報酬は銅貨七枚。
薬草採集より二枚多い。
魅力的だった。
「初心者?」
「昨日登録しました」
「あー」
納得した顔をした。
「私はリリア」
「ライトです」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
リリアは依頼書を指差した。
「それ、森ウサギ十五匹ね」
「はい」
「数が多いの」
「そうなんですか?」
「一匹は弱い」
リリアは言う。
「でも逃げるのが速いから面倒」
「なるほど」
「私は嫌い」
リリアは本当に嫌そうだった。
「でも報酬いいですよ」
「銅貨七枚だもんね」
「はい」
大事だった。
非常に大事だった。
リリアは少し笑う。
「お金好きなの?」
「好きです」
即答だった。
数瞬。
「一緒に行く?」
「え?」
「私もその依頼受ける予定だったし」
「嫌いなのにいいんですか?」
リリアはバツが悪そうに横を向く。
「……危なっかしそうでほっとけないのよ」
「え?」
小さな声でライトには届かなかった。
リリアがライトへ向き直る。
「その代わり」
リリアは少し意地悪そうに笑う。
「足引っ張らないでよ?」
「頑張ります」
リリアは思った。
本当に初心者だ。
二人は森へ向かった。
◇
森へ入る。
「いた」
最初に見つけたのはリリアだった。
少し離れた場所。
角の生えた白いウサギ。
昨日見た森ウサギである。
「本当にいた」
「いるわよ」
リリアは石を拾った。
そして。
投げた。
ゴッ。
見事に命中。
森ウサギが転がる。
「おお!?」
「これが一番楽」
リリアは当然のように言った。
ライトも石を拾う。
投げる。
大きく外れる。
「難しい!」
「でしょ」
リリアは笑った。
何度も投げる。
外れる。
また投げる。
外れる。
もう一度投げる。
当たった。
「おお!」
偶然だった。
だが当たった。
少し嬉しい。
◇
その瞬間。
頭の中に声が響く。
――《投石 Lv1》を獲得しました。
「お?」
まただった。
教会で見たやつ。
歩行。
会話
採集。
そして今度は投石。
「最近よく聞こえるな」
ライトは首を傾げた。
リリアは気付いていない。
◇
夕方。
依頼は無事終了した。
リリアは十二匹。
ライトは三匹。
合計十五匹。
「お疲れ」
リリアが言う。
「お疲れ様です」
「明日も依頼受けるの?」
「受けます」
「ふーん」
リリアは少し面白そうに笑った。
「じゃあまた会うかもね」
「そうですね」
ライトは頷いた。
町に知り合いが一人増えた。
それは悪い気分ではなかった。
◇
こうしてライトは二つ目の依頼を終えた。
初めての討伐依頼。
初めての同世代の冒険者。
そして初めての新しいスキル。
冒険者の世界は、少しずつ広がっていく。
だがライトが考えていたのは一つだけだった。
「今日は銅貨七枚かぁ」
夕飯が昨日より豪華になる。
それが今のライトにとって、一番重要なことであった。
お読み頂き、ありがとうございます。




