第三話 うまい……
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
ライトは町を出た。
昨日はミーナからギルドに置いてある薬草の実物を見せてもらい、魔物についても教えてもらった。
そして、そのままギルドの空き部屋に一泊した。
今朝はわくわくしすぎて早く起きてしまった。
人生初の依頼である。
これでやっとお金が稼げる!
銅貨五枚。
夕飯が豪華になる。
ライトは足取り軽く森へ向かった。
◇
森は静かだった。
鳥の鳴き声。
風の音。
葉が揺れる音。
「おお……」
ライトは少し感動した。
村にも森はあった。
だが町の近くの森は少し違う。
見たことのない植物がある。
見たことのない花がある。
全部新鮮だった。
「確か葉っぱの裏が白いんだよな」
昨日見せてもらった薬草を思い出す。
常緑草。
依頼の対象。
十本で銅貨五枚。
今のライトにとっては大金だった。
◇
しばらく歩く。
草を見る。
ひっくり返す。
違う。
また見る。
違う。
さらに見る。
違う。
「難しいな……」
思った以上に難しかった。
草は全部同じに見える。
だが諦めない。
銅貨五枚がかかっている。
◇
「あ」
見つけた。
葉の裏が白い。
形も昨日見たものと同じだった。
そっと摘み取る。
「一本」
嬉しかった。
初めての成果である。
少し歩く。
また見つける。
「二本」
さらに歩く。
「三本」
だんだん分かってきた。
葉の形。
色。
生えている場所。
「なるほど」
薬草にも特徴があるらしい。
◇
その時だった。
ガサッ。
「ん?」
茂みが揺れた。
ライトは身構える。
昨日聞いた話を思い出す。
森には魔物がいる。
弱くても危険。
無理なら逃げろ。
ミーナはそう言っていた。
再び草むらが揺れる。
そして。
白い何かが飛び出した。
「うわっ!」
思わず後ろへ飛び退く。
だが。
ピョン。
ピョン。
そのまま走り去った。
「うさぎ?」
頭に短い角が生えていた。
たぶん昨日聞いた。
森ウサギ。
魔物だった。
「本当にいたんだ……」
少しだけ感動した。
少しだけ怖かった。
でも向こうから逃げていった。
「よし」
依頼に戻る。
戦う理由もない。
今は薬草の方が大事だった。
◇
一時間後。
「八本」
二時間後。
「九本」
三時間後。
「十本!」
ライトは大きく息を吐いた。
集まった。
依頼達成である。
思わず笑顔になる。
「やった」
その瞬間。
頭の奥で声が響いた。
――《採集 Lv1》を獲得しました。
「おお?」
昨日も聞いた。
頭の中に響く不思議な声だ。
今度は聞き逃さなかった。
「採集?」
薬草を採ること?
よく分からない。
でも。
なんとなく薬草が見つけやすくなった気がした。
「不思議だな」
ライトは首を傾げた。
だが深く考えない。
今は依頼達成の方が大事だった。
◇
町へ戻る。
冒険者ギルドへ入る。
昨日ほど緊張しない。
もう知っている場所だからだ。
「あら、おかえり」
ミーナが気付いた。
「帰りました!」
「どうだった?」
「取れました!」
ライトは薬草を机へ並べる。
ミーナが確認する。
一本。
二本。
三本。
……
十本。
全部見終えたミーナが頷く。
「全部正解」
「本当ですか!」
「ええ」
ライトは思わず拳を握った。
「依頼達成よ」
「おお!」
胸が熱くなる。
それだけで嬉しかった。
自分の力で終わらせた依頼。
初めて稼いだお金。
ミーナが銅貨を並べる。
ちゃり。
ちゃり。
ちゃり。
ちゃり。
ちゃり。
銅貨五枚。
約束通りだった。
「どうしたの?」
「増えてる」
「増えてるわね」
「昨日は三枚でした」
「そうね」
ミーナは少し笑った。
本当に嬉しいらしい。
「おめでとう」
「ありがとうございます!」
ライトは銅貨を握りしめた。
温かかった。
自分で稼いだお金だった。
◇
その日の夕飯。
ライトは少しだけ奮発した。
普段なら買わない肉入りスープ。
そして焼き立てのパン。
「うまい……」
感動した。
働いた後のご飯は美味しかった。
村にいた頃も手伝いはした。
だが今は違う。
これは自分が生きるために稼いだお金だ。
だから嬉しかった。
◇
こうしてライトは人生最初の依頼を達成した。
派手な戦いはない。
魔法もない。
英雄譚にはほど遠い。
だが。
ライトにとっては大きな一歩だった。
自分で働き。
自分で稼ぎ。
自分で食べる。
それを初めてやり遂げた。
「明日も頑張ろう」
そう呟きながらパンをかじる。
お読み頂き、ありがとうございます。




