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失恋から始まる冒険者生活 ~「依頼だから」と言い続けていたら世界を救っていました~  作者: 涙目


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第二話 おお!?

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 冒険者ギルドの中は騒がしかった。


 酒を飲んでいる男。

 笑っている女。

 依頼書を眺める冒険者達。


 大声。

 笑い声。

 木の机。


 見たこともない装備。

 見たこともない世界。


 ライトは思った。


「帰ろうかな」


 少しだけ。

 本当に少しだけ。


 だが。


 ぐうううううううう。


 お腹が鳴った。


「……」


 帰れない。

 生きるためには働かなければいけない。


 ライトは覚悟を決めて受付へ向かった。



「あの」


「はい?」


 受付にいた女性が顔を上げた。


 栗色の髪。

 優しそうな笑顔。


 ライトは少し安心した。


「あの、働きたいです」


 女性は目をぱちくりさせた。


「働きたい?」


「はい」


「冒険者登録かしら?」


「多分」


「多分なのね」


 少し笑われた。


「私はミーナ」


「ライトです」


「よろしくね」


「よろしくお願いします」


 ライトもぺこりと頭を下げた。


「年齢は?」


「十歳です」


「十歳?」


「はい」


 ミーナは少し驚いた。


 十歳でギルドへ来る子供は珍しい。


「保護者の方は?」


「村にいます」


「一緒じゃないの?」


「いません」


「そう」


 ミーナはそれ以上聞かなかった。


 何か事情があるのだろう。


「冒険者登録はできるわ」


「本当ですか!」


「ただし最初は簡単な依頼だけね」


「十分です」


 本当に十分だった。


 飯が食えればそれでいい。


「じゃあ登録しましょう」


 ミーナは銀色のカードを取り出した。


「これが冒険者カード」


「おお」


「身分証明にもなるし、お金も預けられるの」


「預ける?」


「持って歩かなくていいのよ」


「なんでですか?」


「なくしたり、盗まれたりするから」


「なるほど!」


 ライトは素直に感心した。


「便利ですね」


「そうでしょう?」


「いい人達なんですね。ギルド」


 ミーナは思わず笑った。

 そんな感想を言われたのは初めてだった。


「まずは登録ね」


 ミーナは横に置かれている水晶を指差した。


「その前に」


「はい?」


「文字は読める?」


「読めます」


 ミーナは少し安心した。


 依頼書が読めない新人は意外と多い。


「学校で習ったの?」


「学校?村長から習いました」


「村長さんが?」


「はい」


「熱心な人なのね」


「村長、物知りなんです」


 ライトは少し誇らしげだった。


「じゃあ、この水晶に手を置いて」


「こうですか?」


「そうそう」


 水晶が淡く光った。


 ミーナの前に文字が浮かぶ。


ーーーーーーーーーーー

名前:ライト


年齢:10


職業:未選定


スキル


歩行Lv1

ーーーーーーーーーーー


「これがあなたの情報ね」


 ミーナは表示された内容を見せた。


 ライトは覗き込む。


「みせんてい?」


「選定の儀を受けてない人の表示よ」


「せんていのぎ?」


 ミーナは瞬きをした。


「……知らないの?」


「初めて聞きました」


 ミーナは固まった。


「選定の儀っていうのはね」


「はい」


「十歳になったら教会で受ける儀式よ」


「きょうかい?」


「え?」


「え?」


 沈黙。


「教会を知らないの?」


「初めて聞きました」


 ミーナは頭の中が真っ白になった。


「神様に祈る場所なんだけど」


「神様?」


「神様も知らないの!?」


「御神木のことですか?」


「御神木?」


「はい、村の中心にある大きな木です」


「大きな木?」


「はい」


 ライトは頷いた。


「毎日みんな御神木にお祈りします」


「お祈り?」


「豊作になりますように、とか」


「へぇ……」


「怪我が治りますように、とか」


「そうなんだ」


「毎年みんなでお祭りもします」


 ミーナは少し驚いた。


 それなら確かに信仰に近い。


 村独自の風習なのだろう。


「だから、神様に祈る場所って聞いて、御神木かなって」


「なるほどね」


 ミーナは納得した。


 きっと辺境の村特有の文化なのだろう。


 そう結論付けた。


 ミーナは天を仰いだ。


「ライト君」


「はい」


「どんな村で育ったの?」


「普通の村です」


 ミーナは何も言わなかった。

 少なくとも、自分の知る普通の村ではない。


 だがライトは本気でそう思っている。


 ミーナは諦めた。


 きっと事情が複雑なのだろう。

 無理に聞いても仕方ない。


「簡単に言うとね」


「はい」


「十歳になると教会で職業を授かるの」


「職業?」


「剣士とか魔法使いとか商人とか」


「おお」


 ライトは素直に感心した。


「職業によって覚えやすいスキルが変わるのよ」


「便利ですね」


「便利なの」


「じゃあ俺も受けた方がいいんですか?」


「その方がいいと思うわ」


「お金かかります?」


「かからないわ」


「よかった」


 そこだった。

 ミーナは少し笑った。


 改めてステータスを見る。


 スキルは歩行だけ。

 だが未選定なら不思議ではない。


「まだ職業が決まってないからね」


「はい」


「魔法使い系の適性だったら、選定後に一気にスキルが増えるかもしれないわ」


「魔法使い!」


 ライトの目が輝いた。


「魔法って何ができるんですか?」


「火を出したり、水を出したりね」


「火!?すごい!」


 少しだけ憧れた。


「でもまずは働こうね」


「はい!」


 現実は厳しい。


 お腹が空いている。

 魔法よりご飯だった。


 ミーナは立ち上がった。


「依頼を見に行きましょうか」


「お願いします!」



 二人は掲示板の前へ向かう。


 ライトの目が輝いた。


「凄い……」


 壁一面に依頼書が貼られている。


 全部仕事。

 全部お金になる。


「全部依頼ですか?」


「全部ね」


「夢のようだ……」


 ミーナは思わず吹き出した。

 そんな感想を言う子供は初めてだった。


 そして一枚の依頼書を取った。


「新人向けならこれね」


「なんですか?」


「薬草採集」


「薬草採集かぁ」


 ライトは依頼書を眺める。


「簡単そうですね」


「Fランク向けだからね」


「Fランク?」


 そう聞き返した瞬間。


「先輩、カード発行できました」


 後ろから声がかかった。


「ありがとう、ちょうどよかったわ」


 ミーナが他の職員から銀色のカードを受け取る。

 そして、ライトの方へ向き直った。


「登録完了よ」


 ミーナがカードを差し出した。


 それを受け取り、カードを見る。


 だが何も書かれていない。


「ミーナさん?」


「ステータスって言ってみて」


「ステータス」


 言葉にした瞬間。


 カードが淡く光る。


 文字が浮かび上がった。


ーーーーーーーーーーー

名前:ライト


年齢:10


職業:未選定


スキル


歩行Lv1


ランク:F

ーーーーーーーーーーー


「これで正式に冒険者ね」


「おお!?」


 ライトは目を輝かせた。


「ランクF?」


「そう、新人の証よ」


「さっき言ってたFランクって、それですか?」


「そうそう」


 ミーナは頷いた。


「冒険者にはランクがあるの」


 ミーナは指を折る。


「F、E、D、C、B、A、S」


「いっぱいありますね」


「FとEは見習い」


「見習い」


「危険な依頼は受けられないわ」


「そうなんですか」


「基本的には先輩やギルドの指導付きね」


「なるほど」


「Dから一人前」


 ライトは目を丸くした。


「一人前」


「ええ」


 ミーナは頷く。


「好きな依頼を選んで、自分の判断で受けられる」


「おお」


「誰かに守られなくても生きていけるって認められるの」


「おおお……」


 その言葉は少しだけ格好良く聞こえた。


「C以上はベテラン」


「はい」


「BとAは上級冒険者」


「凄そうですね」


「凄いわ」


 そして最後。


「Sは別格」


「別格」


「国に数人しかいない」


「へぇ……」


 ライトは感心した。


 だが。


「Dランクになればいっぱい稼げますか?」


 ミーナは吹き出した。


「そこなの!?」


「大事です」


 真顔だった。


「まあ、今よりは稼げるわね」


「じゃあDランク目指します!」


 ライトは力強く宣言した。


 Sランクには興味がない。


 まずはご飯である。


 依頼書をもう一度見る。


ーーーーーーーー

 依頼内容。


常緑草十本


報酬:銅貨五枚

ーーーーーーーー


「五枚!?」


 ライトは目を見開いた。


 今の全財産より多い。


「やります!」


「元気ね」


「今日は食べられそうです!」


 ミーナは首を傾げた。


「今日は?」


「はい」


「今の所持金は?」


「銅貨三枚です」


「……」


 ミーナは黙った。


 遠くから来た家出少年だと思っていた。


 思っていた以上だった。


「宿は?」


「決めてません」


「夕飯は?」


「まだです」


「寝る場所は?」


「考えてません」


「考えなさい」


 ミーナはため息をつく。


「一応、ギルドの宿泊部屋があるわ」


「部屋があるんですか!?」


「雑魚寝だけどね」


「凄い!」


 ミーナがじろりと睨んだ。


「お金に余裕ができたら、ちゃんと宿を借りなさい」


「どうしてですか?」


「一人で生きるなら、ちゃんと生活ができるようにならないとダメ」


「……わかりました」


 ミーナは困ったように笑う。


「ギルドにいる間は、支給品でよければ食料もあるわ」


「本当ですか!?」


 ライトの目が輝いた。


 ミーナは苦笑する。


 どうやらこの少年、


 本当に明日のことしか考えていなかったらしい。


「明日の朝、森へ行きましょう」


「え?今日じゃだめなんですか?」


「夜になると魔物が活発化するから朝に行きなさい」


「魔物?」


 ミーナは額を押さえた。


「魔物も知らないの?」


「初めて聞きました」


「そう……」


「はい」


「なら、薬草の見分け方と一緒に魔物についても教えるわ」


「お願いします!」


 その瞬間。

 頭の奥で何かが聞こえた。


  ――《会話 Lv1》を獲得しました。


「ん?」


「どうしたの?」


「今、なんか聞こえた気が……」


「空腹じゃない?」


「そうかもしれません」


 実際お腹は空いていた。


 ライトは納得した。



 こうしてライトは冒険者になった。


 まだ見習い。

 まだFランク。

 まだ何者でもない。


 だが、生きるための仕事を手に入れた。


 明日は人生最初の依頼。


 薬草採集。

 失恋して家出した十歳の少年は、ようやく冒険者としての第一歩を踏み出すのだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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