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失恋から始まる冒険者生活 ~「依頼だから」と言い続けていたら世界を救っていました~  作者: 涙目


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第一話 働かないと

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 旅に出て三日目。

 ライトは限界だった。


「お腹空いた……」


 お腹が鳴った。


 ぐううううううう。


 とても大きな音だった。

 周囲に誰もいなかったのが救いである。


 ライトは空を見上げた。


「旅って、思ったよりお腹が空くんだな」


 出発したときは違った。


 失恋の勢いがあった。

 家出直後の決意もあった。


 俺は一人で生きていくんだ。

 そんな覚悟もあった。


 しかし。

 腹は減る。


 覚悟では腹は膨れない。


 世の中は厳しかった。



 ライトは森を抜ける。


 すると。


「おお……」


 思わず声が漏れた。

 遠くに町が見えた。


 石の壁。

 立派な門。


 たくさんの人。

 荷馬車。

 商人。

 冒険者らしい剣を持った人たち。


 村しか知らないライトにとって、初めて見る本物の町だった。


「大きい……」


 村の何十倍あるのだろう。

 分からない。


 とにかく大きかった。


 ライトは少しだけ不安になった。


 知らない場所。

 知らない人。

 知らない生活。


 でも。

 今さら帰れない。


 帰ったら父親に怒られる。

 母親に泣かれる。

 そして村中に見られる。


『既婚者に求婚して家出した子』


 終わりだった。

 社会的に終わりだった。


「やっぱり帰れない」


 ライトは真剣な顔で頷いた。



 門番は意外と優しかった。


「一人か?」

「はい」


「家族は?」

「います」


「一人で来たのか?」

「はい」


 嘘はついてない。

 家出だけど。

 帰る気はない。


 門番は少し困った顔をした。


「大丈夫か?」


「多分」


「多分か……」


 信用できない返事だった。

 だが止められなかった。


 荷物も少ない。

 武器もない。


 見た目は普通の子供。

 危険人物には見えない。


「変なことするなよ」


「しません」


「そうか」


 門番は通してくれた。


 ライトは人生初の町へ足を踏み入れる。



 町は凄かった。

 本当に凄かった。


 驚くものしかない。


「店だ……」


 当たり前である。

 店である。


 しかし村に店は一軒しかなかった。

 だから感動した。


「パン屋だ……」


 パンのいい匂いがした。

 お腹が鳴った。


「肉屋だ……」


 肉の匂いがした。

 お腹が鳴った。


「食堂だ……」


 スープの匂いがした。

 お腹が鳴った。

 もうずっと鳴っていた。


 ライトは財布を取り出した。

 中身を見る。


 銅貨三枚。


 以上。


「……」


 現実だった。

 旅立つ前に貯めていたお小遣い。

 これが全財産だった。


 家から持ってきたパンは初日でなくなった。


 お腹が空く。

 思った以上に空く。


 この三枚がなくなれば終わる。


「働かないと」


 そう言った。


 初めてだった。


 家では手伝いをしていた。

 畑仕事もした。

 薪割りもした。


 けれど。

 自分が生きるために働くのは初めてだった。



 ライトは通りを歩く。


 そして。

 一人のおじさんを捕まえた。


「あの」


「ん?」


「働ける場所ってありますか?」


 おじさんはライトを見た。


 十歳くらい。

 荷物少ない。

 少し痩せている。


 事情ありだな。


 一瞬で察した。


「家出か?」


「違います」


「そうか」


 家出である。

 だがおじさんは深追いしなかった。


「働きたいなら冒険者ギルドだな」


「冒険者ギルド?」


「依頼を受けて金を稼ぐ場所だ」


 依頼。

 その言葉は分かる。


 村でも頼まれ事はあった。


 畑。

 荷物運び。

 草刈り。


「依頼をやると、お金がもらえるんですか?」


「そうだ」


「なるほど」


 ライトは真面目に頷いた。


「ありがたい組織ですね」


「まあそうかもしれん」


 おじさんは少し笑った。



 冒険者ギルドは大きな建物だった。


 看板が出ている。

 剣と盾の絵。


「ここか」


 ライトは見上げた。

 少し緊張した。


 中から怒鳴り声が聞こえる。

 笑い声も聞こえる。

 酒の匂いもする。

 怖そうな人もいる。


 帰ろうかなと思った。


 少しだけ。

 本当に少しだけ。


 だが。

 お腹が鳴った。


 ぐううううう。


「……」


 帰れなかった。

 食べないと生きられない。

 生きるためには働くしかない。


「よし」


 ライトは深呼吸した。

 そして扉を押す。


 重い扉が開いた。


 賑やかな空気があふれ出す。


 冒険者たち。

 受付。

 掲示板。


 見たこともない世界。


 ライトは一歩中へ入った。


 その時、突然。


 ”《歩行 Lv1》を獲得しました”


 頭の中に声が響いた。

 

「ん?なんだ?」


 ライトは突然のことに、聞き逃した。 


「なんかさっきより足が軽い気がする」


 その程度だった。


「まぁ、いいか。それより依頼だ」

 ライトの頭の中では完全に依頼(おかね)だった。


 そして少年は。

 冒険者ギルドの受付へ向かう。


 生きるための最初の一歩を踏み出すために。

お読み頂き、ありがとうございます。

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