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失恋から始まる冒険者生活 ~「依頼だから」と言い続けていたら世界を救っていました~  作者: 涙目


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プロローグ 俺は一人で生きていくんだ!

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 ライトが十歳のとき、

 それは運命の出会いだった。


 春の日。

 村の広場に一台の荷馬車が止まっていた。

 新しく越してきた家族らしい。

 子供たちが遠巻きに眺めている中、

 ライトもその輪の中にいた。


 そして見た。


 長い耳。

 柔らかな金髪。

 穏やかな笑顔。


 とても、とても可愛らしい女の子だった。


 その瞬間、ライトの心は決まった。


「綺麗だ……」


 十歳。


 それは、初恋だった。



 その日の夜、ライトは眠れなかった。

 あの笑顔が頭から離れない。


 寝返りを打つ。

 また寝返りを打つ。

 さらに寝返りを打つ。


 父親がうるさそうに言った。


「寝ろ」

「無理」


「なんでだ」

「色々」


「十歳が色々言うな」



 翌日。

 ライトは偶然を装って村を歩いた。


 もちろん偶然ではない。

 完全に探していた。


 あの子を。


 そして見つけた。

 井戸の近く。

 女の子が水を汲んでいる。


 心臓が跳ねた。


 今だと思った。


 自分にとって人生で一番大事な瞬間だと思った。


 ライトは走った。

 全力で。


 女の子が振り返る。


「あら?」


 ライトは立ち止まり、

 深呼吸した。


 そして人生初の告白をした。


「好きです!」


 女性が固まる。


 ライトは続けた。

 勢いは止まらない。


「結婚してください!」


 村が静まり返った。

 鳥の鳴き声まで止まった気がした。


 女性は目をぱちぱちさせる。


「えっと……」


 そして。

 後ろから男が現れた。


「どうした?愛しの妻よ」


 女性の隣に立つ。

 自然だった。


 夫だった。


 ライトの頭が真っ白になる。


 さらに。

 女の子のお母親だと思っていた女性まで出てきた。


「おかあさん?」


 娘だった。


 女の子だと思っていた。

 違った。

 女性だった。


 しかも既婚者だった。

 夫もいた。

 娘もいた。

 全部いた。


 完璧だった。

 完璧に負けた。


 女の子だと思っていた

 困ったように笑った。


「ごめんなさいね」


 優しかった。

 本当に優しかった。


 だから余計につらかった。


 何かを言おうとして。

 咄嗟に出たのは。


「あの……背が」


 女性は悲しそうに顔を伏せる。


「私、ハーフエルフで中々大きくなれないの」


 いたたまれなかった。


 ライトは無言で帰宅した。



 夕飯。

 いつもならよく喋る。


 だが今日は違った。


 静かだった。

 恐ろしいほど静かだった。


 父親が箸を止める。


「どうした?」

「別に」


 母親も聞いてきた。


「何かあった?」

「別に」


 二人は顔を見合わせた。


 何かあった。

 間違いなくあった。



 翌日。

 噂はすでに村中を駆け巡っていた。


 村は狭い。

 情報が早い。

 早すぎる。


 畑仕事をしていた父親のもとに隣のおじさんが来た。


「聞いたぞ」


 父親は嫌な予感がした。


「何をだ」


「お前の息子」


 嫌な予感が強くなった。


「越してきた奥さんに求婚したらしいな」


 父親は天を仰いだ。


「しかも旦那さんと娘さんの前で」


 さらに天を仰いだ。


「男だな」


「やめてくれ」


 父親は真顔で言った。



 帰宅後。

 父親はライトを呼んだ。


「ちょっと来い」


 ライトが来た。


「昨日、何した」

「別に」


「嘘をつくな」

「別に」


 母親が横から聞いた。


「好きな人に振られた?」


 ライトが固まった。

 完全に固まった。


 父親が母親を見る。

 母親が父親を見る。


 そして同時に言った。


「図星だ」


 そこからが地獄だった。


「その……なんだ」


「……」


「次がある」

「終わった」


「終わってない」

「終わった」


「まだ十歳だぞ」

「関係ない」


「そうかなぁ!?」


 母親が隣に座った。


「ライト」

「……」


「失恋くらいで人生終わらないわよ」

「終わる」


「終わらない」

「終わる」


「終わらない」

「終わる」


「面倒くさいわねこの子」


 父親が助け船を出そうとする。


「父親も昔は」


 母親が即座に遮った。


「あなた振られたことないでしょ

「ない」


「黙ってて」

「はい」


 家の空気がいたたまれなかった。


 父親も。

 母親も。


 どう慰めればいいのか分からない。


 十歳の初恋。

 十歳の失恋。


 思った以上に重症だった。



 夜。

 父親が小声で言った。


「見張った方がいいか?」


 母親も小声で返す。


「さすがに家出まではしないでしょ」


「でも目が死んでたぞ」


「死んでたわね……」


「初恋だったんだな」


「初恋だったのね……」


 二人は少しだけ息子に同情した。



 翌朝。

 ライトはいなかった。


 机の上に紙が一枚。


 母親が拾う。

 読んだ。

 固まった。


 父親に渡した。


 父親も読んだ。

 固まった。


 紙にはこう書かれていた。


~~~~~~~~

 旅に出ます


 ライト

~~~~~~~~


 十秒。

 二十秒。

 三十秒。


 沈黙。


 そして。

 父親が叫んだ。


「バカヤロー!!!!!」


 村中に響いた。

 母親も叫ぶ。


「だから目が死んでたのよ!!」


「失恋で家出するか普通!?」


「したじゃない!」


「したな!!」


 後の祭りである。



 ライトは村の外を歩いていた。

 朝日が眩しかった。


 少しだけ泣きそうだった。

 でも泣かなかった。


 男だから。

 十歳だが。


 後ろを振り返る。


 生まれ育った村が見える。

 胸が少し痛んだ。


 けれど足は止まらない。


 その時。


 パチッ。


 何かが弾けるような音がした。


 その瞬間。

 胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。


「ん?」


 ライトは後ろを振り返る。

 しかし何もない。


「なんだ?」


 首を傾げる。

 だが変わった様子はない。


「まぁ、いいか」


 ライトは再び歩き出した。


 もう帰れない。

 失恋したからではない。


 求婚した翌日に家族総出で慰められたからだ。


 あの空気には耐えられなかった。


 ライトは歩き出した。


 旅たちの理由。


 それはライトにとって。


 大失恋だった。


「ぐすっ……俺は一人で生きていくんだ!」


 魂から叫び。

 ライトは一人。

 世界へ旅立つのであった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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