第九話 ちなみに報酬は?
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
いつもの通り。
ライトは掲示板の前に立っていた。
薬草採集。
森ウサギ討伐。
荷物運び。
色々ある。
「今日は何にしようかな」
悩む。
依頼はたくさんある。
だが一日で受けられるのは一つだけだ。
その時だった。
「どうすんだよ!」
大きな声が響いた。
ライトが振り返る。
ギルドの入口近く。
三人の冒険者が険しい顔で話していた。
「今日出発だぞ!」
「俺に言われても困る」
「だから困ってるんだろ!」
「代わりなんかすぐ見つからねぇよ!」
かなり揉めていた。
ライトは首を傾げる。
何があったのだろうか。
◇
とりあえず知っている人に聞く。
ライトは受付へ向かった。
「あの」
「はい?」
ミーナが顔を上げる。
「喧嘩ですか?」
入口を指差す。
ミーナは苦笑した。
「ああ、違う違う」
「違うんですか?」
「荷物持ちが逃げたのよ」
「逃げた?」
「そう」
ミーナは頷く。
「護衛依頼があるんだけどね」
「はい」
「雇ってた荷物持ちが今朝いなくなったらしいの」
「大変ですね」
本当に大変そうだった。
出発直前である。
ミーナは少し考えた。
そして。
「あ」
何かを思い付いた顔になった。
「?」
ライトは嫌な予感がした。
「ライト君」
「はい」
「やってみる?」
「はい?」
次の瞬間。
ミーナは受付を飛び出した。
「ちょっと待っ──」
止める間もなかった。
◇
「いたわ!」
三人の冒険者が振り向く。
「代わり見つかった!」
「本当か!?」
「見つかったわよ!」
ミーナは満足そうだった。
ライトは状況がよく分かっていない。
そのまま連れて行かれた。
◇
三人の前に立つ。
一人は盾を背負った男。
一人は斧を持った大男。
一人は弓を持った女性。
全員強そうだった。
特に斧の人が怖い。
とても怖い。
「この子?」
弓の女性が言った。
「この子よ」
ミーナが頷く。
盾の男がライトを見る。
「荷物持ち引き受けてくれるっていうのは君かい?」
「???」
本当に分からなかった。
◇
「つまりね」
ミーナが説明する。
「荷物を運ぶ仕事よ」
「荷物」
「護衛はこの人たちがやる」
「はい」
「ライト君は荷物持ち」
「なるほど」
少し分かった。
荷物運びなら知っている。
ガルド商会でもやった。
◇
「ちなみに報酬は?」
ライトが聞く。
大事なことだった。
盾の男が答える。
「銀貨一枚」
「やります」
即答だった。
三人が固まった。
「早っ」
弓の女性が言う。
「早いな」
盾の男も言う。
だがライトは真剣だった。
銀貨一枚なら銅貨十枚分。
薬草採集二回分より多い。
森ウサギ討伐よりも多い。
今まで受けたどの依頼より高い。
それだけで十分だった。
「本当に大丈夫か?」
盾の男が聞く。
「荷物運びですよね?」
「そうだ」
「やります」
やはり即答だった。
盾の男が苦笑する。
「一応、危険はあるんだがな……まあいいか。俺はレオン」
「ライトです、構いません」
「こっちはダグ」
「……」
斧の大男が軽く手を上げる。
怖かった。
「アイラよ」
弓の女性も名乗る。
「よろしくお願いします」
ライトはぺこりと頭を下げた。
「じゃあ依頼主のところへ行くか」
レオンが言った。
「依頼主?」
「行商人だ」
レオンはギルドの外を指差した。
「名前はセシル」
こうしてライトは。
初めての長距離依頼へ向かうことになった。
◇
レオンはギルドの外を指差した。
「依頼主の名前はセシル」
ライトも外を見る。
そこには荷馬車が止まっていた。
そして。
荷馬車の横で女性が一人、箱を数えている。
「いたいた」
レオンが歩き出す。
ライトも後を追った。
◇
「セシル」
レオンが声を掛ける。
女性が振り返った。
「どうだった?」
「見つかった」
セシルが安心したように息を吐く。
「本当に?」
「ああ」
そして。
レオンはライトの肩に手を置いた。
「こいつだ」
セシルはライトを見る。
少し驚いた。
「え?」
視線が下がる。
さらに下がる。
「……子供?」
「十歳です」
ライトが答えた。
「十歳!?」
セシルが目を丸くする。
「大丈夫なの?」
セシルがレオンへ聞く。
「戦わせるわけじゃない」
「それはそうだけど」
「荷物持ちだ」
「それでも十歳よ?」
セシルは少し心配そうだった。
その時。
「大丈夫です」
ライトが言った。
全員が見る。
「荷物運びならやったことあります」
「本当に?」
「昨日やりました」
「昨日」
なんとも言えない空気になった。
「報酬は聞いてる?」
セシルが尋ねる。
「銀貨一枚ですよね」
「うん」
「大丈夫です」
即答だった。
やる気に満ちている。
セシルは少しだけ笑った。
「変わった子ね」
「よく言われます」
「本当に?」
「最近」
ミーナ。
リリア。
ガルド。
色んな人に言われた。
なので本当なのだろう。
「まあ、本人がいいならいいじゃないの」
アイラが言った。
「荷物持ちなら十分でしょ」
「私たちがいるんだから」
「そうね」
セシルも頷く。
人手不足なのは事実だった。
「じゃあ改めて」
セシルが手を差し出した。
「私はセシル」
「ライトです」
握手する。
「今回の依頼主よ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
セシルは少し笑った。
礼儀正しい子だった。
「出発は一時間後」
レオンが言う。
「それまでは荷物確認だ」
「荷物?」
「ああ」
荷馬車の後ろには箱が積まれていた。
かなり多い。
「これ全部ですか?」
「全部だ」
「おお……」
思わず声が漏れた。
ライトは近付いてみる。
箱。
樽。
袋。
色々ある。
「何が入ってるんですか?」
するとセシルが嬉しそうに答えた。
「調味料」
「へぇ」
「布」
「おお」
「干し肉」
「なるほど」
知らないものもある。
知っているものもある。
「行商人って色んな物を運ぶんですね」
ライトが言う。
セシルは頷いた。
「町ごとに売る物も買う物も違うからね」
「そうなんですか」
「例えばこの町は食料が多い」
「はい」
「でも隣町は布が安いの」
「へぇ」
ライトは感心した。
「だから運ぶのよ」
セシルが荷馬車を軽く叩く。
「必要な場所へ」
「なるほど」
少しだけ分かった気がした。
その時だった。
「ライト」
レオンが呼ぶ。
「はい」
「荷物持ちなら覚えておけ」
「はい」
「街道では周りをよく見ろ」
「見る?」
「ああ」
レオンは真面目な顔だった。
「戦えなくてもいい」
「はい」
「でも危険は見つけろ」
「そして、すぐに避難しろ」
ライトは頷く。
「分かりました」
◇
そして。
人生初の長距離依頼が始まろうとしていた。
銀貨一枚。
今までで一番大きな依頼。
ライトは少しだけ胸を躍らせる。
「頑張ろう」
そう呟きながら。
荷物の積み込みを手伝い始めた。
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