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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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定盤の据え付け

視点:ベルタ


おにいさんが冬を前にとうとう旋盤を作り始める。

冬が近づくと皆やれることが少なくなって糸をつむいだり、薪を集めたりするのにおにいさんはやっぱり変な事をしている。

作業は、真ん中に大きな木箱を据え付けるところから始まった。


おにいさんの足元には、これまで毎日毎日集めている変な材料がズラリと並べられていた。


ひとつは、川原やそこら中で拾ってきた固い石ころ。石ころは春からずっと集めて続けているから物凄い量になっている。けれど集めるのをやめようとはしないのだ。わたしはおにさんよりずっと集めるのが上手なので今もものすごく褒められる。おにいさんはわたしのようにぱっと見分けられないらしい。いろいろやるおにいさんなのにとても不思議だ。

この前も白い石ころが沢山あるところを見つけたから連れて行ったら本当に驚かれてしまった。よくそんな隠れた石を見つけられたなと。いや、隠れていないから。普通に見えるよ。


もうひとつは、素焼きの焼き物が割れたやつだ。これもトントンくだいて粉にしておいてある。砕くのも大変だから石ころと同じように使えばいいのにと言ったら嬉しそうな顔をして説明をしてくれた。秋も深まってきたので長い話があるのは退屈しなくてとてもいい。


そしてもうひとつは、白い石ころとか貝殻を焼いたやつだ。水をかけるとしゅわしゅわ砕けるから楽しい。おにいさんはこれを触る時はいつもこれでもかというほど気を付けている。わたしはいっかいも触ったことがない。


「おにいさん、それ何を作ってるの? また新しいかまど?」


おにいさんは木桶の中で、石ころと焼き物の粉と、それから白い石を焼いた粉をを棒で丹念にかき混ぜていた。

粘土とは違う、少し重たくてぬるりとした灰色のドロドロが出来上がる。

どうやら石をドロドロで固めるらしい。


「へえ〜……石を混ぜて、石の台を作るんだ」


わたしは棒で突っつくと怒られそうだったので、大人しくその様子を眺めていた。

おにいさんは慎重に木箱の中へそのドロドロを流し込み、トントンと外側を叩いて空気を抜きながら、上面を平らに整えていく。


そして、そのドロドロが少し固まりかけたところで、おにいさんは宝物でも扱うみたいに、大切そうに定盤を取り出してきた。いや、どう考えても宝物だな。土鍋という信じられないようなすごいものを割ってしまった時は怒りもしなかったし、わたしが怠けているときも何も言わずに違う仕事をしたり代わりに仕事をしてくれるおにいさんだけど、定盤に触ろうとするとすすっとかわされてしまう。


おにいさんが何日も何日もかけて、煤を塗り込んではゴリゴリと石同士を擦り合わせ、凹凸を削り落として作った、あのゾクッとするほどツルツルで真っ平らな石の板だからしかたがない。


その宝物を石の台の上面にべちょりと重ねてくっつけたのだ。


おにいさんは満足そうに息を吐き、額の汗を拭った。


むしろわたしが冷や汗をかいた。まさに宝物をそんなふうにべちょっておくなんて。石が固まるということはもう外せないということではないか。

おにいさんが満足そうに頷いているので多分いいのだろうけど、本当にいいのか?


固まりつつある灰色の石の台の上に、ぽんと乗せられた真っ平らな石の板。

上から見ると、木枠の中に収まったそれは、まるで綺麗でとっても平らなテーブルみたいに見えた。


「ねえ、おにいさん。ここで食事してもいい? こんなに平らなテーブルがあったら、スープも全然こぼれないし、すっごく使いやすいと思うんだけど」


わたしが目を輝かせて提案すると、おにいさんは一瞬だけ呆気にとられたような顔をした。

それから、ふっと苦笑いを浮かべた。


「ダメ」


「ええ〜っ、ダメなの? こんなに平らで美味しそうにご飯が食べられそうなのに?」


「これはだめ。けどテーブルは今度つくろうか」


「ほんと!? やったー!」


わたしは声を上げて喜んだ。

よくわからない石の台の話より、まっ平らでスープがこぼれないテーブルの約束の方が、ずっとずっと魅力的だったからだ。


おにいさんは嬉しそうに微笑みながら、固まり始めた台座の上で、大事な大事な定盤の位置をもう一度細かく調整していた。

次回、主軸台の質量構築


【作中技術解説】

ポゾラン反応と構造用コンクリート架台:工作機械において、切削時の振動抑制と剛性確保は加工精度に直結します。消石灰にメタカオリンを混ぜたポゾランコンクリートは、強固な水硬性人造石となり、木材よりもはるかに重量と防振性に優れた機械架台を提供します。


基準面としての石定盤の設置:加工精度を保証するための定盤は、傷や熱変化から保護すべき極めて高価・高精度なリファレンスです。防振架台の上に設置された石定盤は、旋盤の刃物台や芯出しガイドが走る「機械の絶対的な基準」として機能します。


木工旋盤と産業の精密化:木工旋盤は、材料を回転させて刃物を当てることで真円の棒や均一な凹凸を持つ部材を製作する工作機械です。高精度な旋盤を作るためには振動を吸収する重厚な架台と平坦なガイドが不可欠であり、これがのちの精密工学の基礎となります。

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