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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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主軸台の質量構築

視点:ベルタ

定盤の上に主軸台を据えるおにいさん。シムを挟みながらずっと定盤と主軸の平行さを計っている。

お部屋の中はかまどと煙道のおかげでポカポカだ。それにもまして今日のおにいさんはいつになく上機嫌だ。

石ころとどろどろを固めて定盤をのせたテーブルに、さらにその上にものすごく重そうな塊を載せようと頑張っていた。


「さあベルタ、盛り上がってきたな!」


「いや、そんなことないけど?」


わたしの疑問をまるで聞かなかったように、おにいさんは頬を緩ませたままとても楽しそうに説明を始めるのだった。


「いいかベルタ。この定盤の平面と棒を完璧に平行にするんだよ!」


おにいさんは定盤の上になんとか台という塊を嬉しそうになでながら、喋り続けている。


正直なところ、何を言っているのかはさっぱり分からない。

ただ、おにいさんがこの作業を始めてからずっとご機嫌で、いつもより口数が三倍くらい多いことだけは分かった。


「へえー、すごいんだねえ」


わたしは適当に相槌を打ちながら、お腹の前で腕を組んだ。

おにいさんの難解で楽しそうな独り言に付き合うのもいいけれど、わたしにはわたしで、今すぐやらなければならない大事な仕事があるのだ。


「おにいさん、わたしは雌鶏を見てくるね」


「おお!それは大事だ。頼んだ」


わたしは足音を立てておにいさんの元を離れて雌鶏を見に行った。


わたしの雌鶏のうち一羽が、大事な仕事をしているのだ。3羽分の卵を温めている。

煙道端っこ、突き当たり、一番ほんのりと温もりが伝わる特等席に、特別な巣箱を用意してあるのだ。


巣箱を覗き込むと、ふっくらと羽毛を膨らませた母鶏が、じっと動かずに卵を抱きかかえていた。


「温かそうで良かったねえ」


そっと声をかけると、「ルルル……」と短く喉を鳴らして、満足そうに目を開いていた。

満足なのかよくわからないけれど温かく過ごせるのはきっといい事だろう

他の2羽が産んだ卵も一緒に抱え込まされて大変そうだけど、この温かい煙道のおかげで寒さもしのげているみたいだ。


わたしは小さな籠から大麦のくずを取り出して足元に撒いてやり、水を入れた深皿を新しく替えてあげた。


「もうすぐヒヨコちゃんに会えるかな。楽しみだね」


母鶏の頭を優しく撫でてから、わたしはお部屋へと戻った。


部屋に戻ると、おにいさんはまだ定盤の前でうずくまっていた。


何やら薄い亜麻仁油紙を定盤と台の隙間に挟み込んでは、真剣な顔で棒の高さを計っている。

いつの間にか台に差し込まれていた真ん丸の棒だ。


「まだやってるの? それって、出来上がったら何ができるの?」


わたしが尋ねると、おにいさんはパッと顔を輝かせて振り向いた。


「これが完成すれば、なんと丸棒を作れるんだ!」


何を言っているんだおにいさんは?いまそこの台に刺さっている信じられない程の丸棒はなんなのだ。

第八車の車軸にもとんでもなく丸い棒を差し込んであるし、このびっくりする程大きなテーブルと棒付きの台を作ってまで丸棒を作る意味はあるのだろうか。


「丸棒はおにいさんが作ったよ?」


「これよりさらに丸くなるんだよ。つまり大八車の車輪よりさらに回る、それはもうくるくる回る」


「へえー! あの大八車の車輪よりも回るの!?」


わたしは目を見開いた。


あの大八車の車輪は、おにいさんと二人でグルグル回したとき、手を離しても止まらないくらいシュルシュルと回り続けて、すごく面白かったのだ。


あんなに回るものよりもっと回るなんて、なんだか想像がつかないけれど……よく回る、と聞いてわたしはあることを思いついた。


「ねえ、おにいさん! そんなによく回るならさ、わたしの糸紡ぎのコマを作ってよ。前に作ってくれたコマより回るやつがいい」


「もちろん作ろう!それはもうよく回るやつを作ろう!」


「やったね!すっごくよく回る綺麗なコマがあったら、糸つむぎがもっと楽しくなると思うんだ」


やらなきゃいけない仕事で最悪の一つが糸つむぎだ。これと比べたら水汲みも薪拾いも脱穀もなんてことはない。

想像すると悲しくなってきた。なんで糸を少し作るだけであれだけ時間がかかるのだろうか。しかも両手がふさがるし景色もまるで変わらない。

糸が紡げない割に神経も削るから、もう最悪だ。


わたしが色々と考えていたけれど、おにいさんはコマ作る約束をして満足したのか、またすぐにと怪しげな作業に没頭し始めた。


紙を挟んでは棒の高さを計り、一人でうなずき、棒を回す。

その姿はどこかおかしくて、だけどとても楽しそうだ。


「よし、おにいさんが楽しそうだから放置しておこうっと」


わたしはくすっと笑うと、楽しそうに作業を続けるおにいさんをそのままにして、自分のお仕事に戻ることにした。


おにいさんは嬉々として台の傾きを変えながら、きっと頭の中で、わたしのために作る真っ直ぐでピカピカな糸紡ぎのコマの形を思い描いているに違いないのだった。

次回、スリーブとワークの連結


【作中技術解説】

主軸台の設置:

旋盤における主軸台は、ワークを保持して回転させる最重要ユニットです。定盤の基準平面に対して主軸の回転軸が完璧に平行になっていないと、削り出す円筒が円錐状にしなるテーパー誤差が発生します。定盤上にしっかりと固定し、薄いシムを挟んで微調整する工程は、機械の精度を決定づける極めて重要な作業です。


煙道熱を利用した余熱抱卵:ロケットマスヒーターなどの煙道周辺は、低温で持続的な輻射熱が得られる格好の保温スペースとなります。寒冷期における鶏の抱卵は多大な体力を消耗しますが、煙道脇の適温ゾーンに巣箱を配置することで、雌鶏の体温維持を補助し、孵化率を高めつつ親鶏の衰弱を防ぎます。


ドロップスピンドルの真円度と回転慣性:手紡ぎに用いられる紡錘は、はずみ車を回転させた慣性力で繊維に撚りをかけます。旋盤によって真円かつ同心円状に加工されたコマは、回転時の偏心が極めて少なく、一度の回転で長く回り続けるため、細く均一で上質な糸を効率よく紡ぐことが可能になります。

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