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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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コンポストトイレ

視点:ベルタ

寒い季節になる前にトイレの問題が気になり真面目たのでその対応をします。

「おにいさん、寒くなったらトイレどうしよう?」


木臼で麦の籾殻をしながらわたしは聞いてみた。煙道の端の方で大麦に水やりをしていたおにいさんは静かに手を止めてこちらに振り返った。


「今は家の中にトイレがあるけど、冬になって締めきったらくさくなるんじゃないかな」


「その通りだな。村の皆はどうしてるんだろうな」


「どうもしてないよ。外でしているから。冬は凄く寒いよ」


村のトイレなんて、敷地の隅に掘った穴の上に板を渡しただけのものだ。夏はハエが集まり、冬は凍えるような冷風が吹き上がってくる。


「ふむ。なら臭いのはそこそこで交換する回数を減らせられたら寒いのも耐えられるか」


当然のような顔で言い切ると、さっさと準備を始めて完成とか言い出した。

はやいはやい、何も作ってないよそれは。


本当におにいさんは特に何もつくっていなかったのだ。

家の隅にいつもあるトイレ。

おしっことうんちを別々にするのもすっかり慣れている。

おしっこは前へ、うんちは後ろへ。


「そのままでは臭うしかさばるから、これを使おう」


おにいさんが持ってきたのは、麦の脱穀で出るもみ殻と、煙道の炭焼き箱からかき集めた真っ黒な炭の粉だった。あと、棒。どう見ても棒だった。

トイレの中に籾殻と炭の粉を入れていた。


「用を足したら、籾殻と炭の粉を上からパサッとかけて、この棒でかるく二、三回回して混ぜ合わせてね」


「ええっ……混ぜるの?」


「そう。それで臭いも外に持っていく回数も減らせられる」


ぐるぐると回す手本を見せてくれたけど、今はもちろん使っていないので臭くはない。

麦の殻の匂いと炭の匂いがするだけ。


「さあベルタ。試してみてくれ」


「今でないからあとでね」




わたしはいつものようにトイレを使った。

変わったことと言えば籾殻と炭の粉を上からふりかけて、中身を一回、二回かき混ぜるだけだ。


「籾殻と炭の粉の匂いだこれ」


何がどうなっているのか、とにかくあのくさいのはわからないくらいになった。

こうして、快適なトイレ生活が始まった。

寒風が吹く夜でも、凍えることなく快適に使える。終われば、籾殻と炭の粉を振りかけて、かき混ぜ棒でと混ぜる。ただそれだけだ。


けれど、何日か経つうちに、わたしの中でひとつの大きな謎が膨らんできた。


「ねえ、おにいさん……」


ある朝、わたしはトイレの中をじーっと覗き込みながら首を傾げました。


「これ、おかしくない?」


「何がだ、ベルタ」


「だって、わたしとおにいさんの二人で、毎日毎日ここで用を足してるんだよ? なのに……なんで中身がちっとも増えないの!?」


そう、毎日使っているはずなのに、中の小山は、最初の頃とほとんど高さが変わっていない。わたしが粉を足してシャリシャリ混ぜているのに、まるで中で消えてしまっているみたいだ。


「いい質問だ」


おにいさんは満足そうに鼻を鳴らした。

そして嬉しそうに説明をし始める。なんでこんなに嬉しそうに話すのだろうか。

長い長い説明が終わったので、大事なところだけ聞いてみることにした。


「何ヶ月に一度捨てるだけでいいの?それまでは中身が増えないの?」


「まぁ、そういうことだ。理解が早くて助かる」


「……でも、おにいさん」


わたしはふと、籾殻と炭の粉を見て不安になりました。


「これ、毎日使ってたら、そのうち足りなくなっちゃうんじゃない?」


おにいさんは顎に手を当てて考え込みました。


「まぁ何とかなるんじゃないか? もし足りなくても今まで通りだ」


「どうしよう……! せっかくこんなに快適なのに、前に戻るなんて絶対に嫌だよ」


焦ったわたしは、周りを見回しました。


「そうだ! もみ殻がないなら、お外に落ちてる枯れ草や葉っぱじゃダメなの!?」


わたしは庭に走り出ると、干し草の屑や刻んだ藁を抱えて戻ってきました。


「これを代わりに詰め込もうよ。 ほら、草ならいっぱいあるし」


「待ちなさいベルタ」


おにいさんの制止を聞かずに、わたしは干し草と藁の屑を中にドサッと投入し、上から申し訳程度に炭粉をサラッとふりかけました。そして、かき混ぜ棒を握りしめて「えいっ! やあっ!」と力任せにシャリシャリ、グイグイと混ぜ合わせました。


「ふう……! ほら、これで嵩増しできたよ!」


わたしが胸を張ると、おにいさんは目を開いて頷いていた。


「なるほど、乾燥した藁屑や干し草の破片なら役に立つな」


わたしはおにいさんに見守られながら、さらに炭粉を上からたっぷりふりかけ、かき混ぜ棒を深くまで差し込んで、しっかりと全体を空気と馴染ませるように混ぜ合わせた。


「ちゃんとフカフカのままだ」


数日経っても、嫌なにおいもなく、温かい土のような匂いのまま、カラカラの状態を保ち続けた。


籾殻の代わりも用意できたから途中でなくなる心配もなくなった。

きっとこの冬はずっとこのまま使えるのだろう。

けど心配だからわたしは一生懸命麦を脱穀することにした。

次回、松の葉エール


【作中技術解説】

セパーレート構造:コンポストトイレにおいて、強烈な腐敗臭、アンモニア臭や硫化水素が発生する最大の要因は尿と便が混ざり合うことにあります。水分過多になると酸素が行き届かなくなり、嫌気性発酵、いわゆる腐敗が進んでしまいます。最初から受け皿を前後に分け、尿を別の容器へ回収することで、便側の水分量を極限まで抑え、無臭化の基盤を作ります。


担体としての籾殻と炭粉:便を微生物に分解させるためには、微生物のすみかと空気の通り道、間隙が必要です。籾殻は多孔質で潰れにくいため、内部に酸素を抱え込む強力な隙間を作ります。また、炭粉は表面積が非常に広く、強烈な消臭効果を発揮すると同時に、好気性細菌が繁殖する最高の定着床となります。ちなみにシリカが豊富な籾殻はいつまでもその形を保ちますが、干し草屑や藁屑は分解されやすいので担体としては不適当です。


好気性分解:水分がコントロールされ、かき混ぜることで十分な酸素が供給された環境では、好気性微生物が活発に活動します。便の固形分の大部分を占める有機物は、微生物の代謝によって二酸化炭素と水蒸気に分解されて空気中に飛散します。さらに代謝熱により便の70%程度を占める水分も蒸発して嵩が減ります。

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