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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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骨灰

視点:ベルタ


使い終わった骨炭をさらに高温で焼き切ります。

おにいさんは骨が好きだ。


まだ村のみんなは知らないかもしれないけど、少なくともわたしは知っている。


だから今日の焼き物を作る時に骨炭も箱に入れて焼くらしいことにも、わたしは驚かない。おにいさんは骨が大好きだからきっと一緒に焼きたいのだろう。


「おにいさん、また骨?」


「はい。骨です」


おにいさんはいつものようにとても真面目な顔で答えた。ふざけている様子はこれっぽっちもない。おにいさんにとってはこれが普通のことで、いつものお仕事なのだ。




そしてその隅の隙間。まるで余った場所をわざわざ埋めるみたいに、箱に入った黒い骨をいくつもちょこんと置かれていた。


「その黒い骨を、また火の中に入れて焼くの?」


「はい。白くなります」


おにいさんの言葉を聞いて、わたしはますます分からなくなった。


だって、骨は最初、白くて硬いものだった。それをおにいさんは一度炭焼きの箱の中に入れて、真っ黒な炭に変えたのだ。それなのに、今度はその黒い炭をもう一度窯の中に入れて、また白くするのだと言う。せっかく黒くしたのに、また白く戻すなんて、おにいさんは一体何をしているのだろう。


もしかすると、黒い骨がまた集まって元の骨になるということだろうか。それなら骨の中身を使ったソースがまたできるのかもしれない。


わたしが頷いているとおにいさんも嬉しそうに頷いていた。


おにいさんは骨を扱うときだけ、少し顔つきが変になる。わたしはそれを知っている。真っ平らな石の板を削っているとき。誰も見たことがないような新しい形の焼き物を作るとき。おにいさんはいつもそういう、目がきらきらした顔をする。つまり、おにいさんにとって骨を焼く作業は、とても楽しいことなのだ。


「おにいさんは本当に骨が好きなんだねぇ」


「はい。好きです」


今回もおにいさんはっきりと即答した。おにいさんが笑ったので、わたしも嬉しくなって少し笑った。


かまどの薪を入れ続けていたけど。夜には消すようだ。

わたしはお昼の間、小麦畑でバッタをたくさん捕まえたり、村中まわって骨をあつめたりして過ごした。おにいさんはどうしてそんなにも採ってこれるのかと、どうやら本気で驚いているようだ。

まだら模様の石を拾うときもわたしは白い石を見つけられたけどおにいさんは見つけられなかった。

もしかすると本当におにいさんとわたしでは見えるものが違っているのかもしれない。

まだらも無い真っ白で簡単に削れる石も欲しいと言っていたから普通に拾ってきて渡してあげた。

よく見つけられるなとわたしを褒めることも忘れて呆然としていた。

むふふ、わたしは凄いのだ。




次の日、焼き物窯を開いて、焼き上がった道具が丁寧に取り出していく。赤くて四角いやつ。筒になったやつ、よくわからないやつ、どれもうまく焼けているみたいだった。


そして、おにいさんが窯の奥の箱に手を伸ばしたとき。


「できました」


おにいさんが小さく声をあげた。わたしも急いで小さな頭を突っ込むようにして、おにいさんの手元を覗き込んだ。


「あ、白い!」


本当に白かった。形は確かに黒い骨のままだ。でも、色が全然違っていた。


窯に入れる前、あの骨炭は煤みたいに真っ黒だった。どこからどう見ても真っ黒な炭そのものだった。なのに、今おにいさんの手のひらの上にある骨は、息をのむほどに白い。冬の朝に村の地面に積もる新雪みたいだった。いや、お日さまの光を浴びてきらきら輝く、もっと吸い込まれそうな白さだった。


「おにいさん、なんで? なんで白くなったの?」


「炭を燃やした後の灰と同じです」


それはわたしにもわかった。炭を燃やすとちょっと灰が残るのだ。骨の炭でも同じなのだろう。


わたしはおにいさんに見守られながら、その白い骨の塊を一つだけそっと持ち上げてみた。


「わあ、軽い」


持っていないみたいに軽かった。そして、指先にほんの少しだけ力を入れた。


ぽろり。


それだけで、硬かったはずの骨が、砂の城みたいに脆く崩れてしまった。わたしはびっくりして手を引っ込めた。


「おにいさん! 壊しちゃった!」


「はい。大丈夫です。粉にします」


おにいさんは怒るどころか、とても上機嫌だった。


おにいさんは崩れた白い骨の破片を一つ残らず綺麗に集めて、そっと器に移した。


どうしたって簡単に砕けて粉になってしまうのだ。おにいさんの大好きな骨が小さくなってしまわれてわたしはやり遂げた気分になった。


「おにいさん、その白い粉は食べられるの?」


「いいえ。食べられません」


「だよね。骨の粉だもんね」


わたしも自分で聞いておきながらそう思った。なんとなく、これは食べ物ではないことくらいは分かっていた。


でもおにいさんは、その食べられない白い粉を愛おしそうに眺めて、本当に嬉しそうだった。おにいさんは指の先で白い粉を少しだけすくい上げると、窓から差し込む夕方の光に透かしてじっと見つめた。それから何度も満足そうに頷いた。


「おにいさん、骨が綺麗に白くなってよかったね」


「はい。とても良かったです」


おにいさんは、本当に骨が好きなのだ。わたしは大人のおにいさんが子供みたいに笑うのが、とても面白くて大好きだった。


「おにいさん、その白い粉はこれから何に使うの?」


「いろいろ使います」


「やっぱりいろいろなんだ!」


「はい。いろいろです」


おにいさんは力強く頷いた。


一言で説明できない時はいつもいろいろというのだ。一度に聞いてもわからないので、その時が来るまで忘れていて、またわたしはびっくりするのだ。


「骨って、本当はすごいものなんだね」


「はい。すごいです。これで小麦ができます」


「うそだぁ。それくらいわたしにもわかるよ」


おにいさんの目はとても真面目だった。だから、それは嘘ではないのだろう。わたしには、わからなくてもいつかわかる時が来るのだろうか。


けど大事なことは、骨がたくさんあるとおにいさんはとても喜ぶということだ。おにいさんが喜ぶと、わたしも嬉しい。それに新しい何かがでてくるのだ。骨は黒い炭になって、また白い灰になって、そして何かいろいろになるらしい。村のあちこちに落ちている骨を拾い集めることには、とても大きくて素敵なことだ。それだけは、わたしにもはっきりと分かった。


おにいさんが器を静かに並べた。その中に眠っているのは、すべて元々は硬い骨だったものだ。大きな雄猪の骨、村の広場や森の近くで拾った動物の骨。わたしが頑張って両手で抱えて持ってきた大きな骨。それが今はおにいさんの手によって、雪のような白い粉になっている。


やっぱり不思議だった。


最初は普通の白い骨だった。次に火に入れたら真っ黒になった。そしてもう一度窯で焼いたら、もっと綺麗な白になった。


「つぎに使うときはまた黒くなるのかな」


わたしなりに想像してみて、答え合わせが楽しみになった。

次回、歯磨き粉


【作中技術解説】

骨灰:動物の骨を空気が十分に供給される高温の窯で完全に焼き切ったもの。一度蒸し焼きにして作った黒い「骨炭」から、余計な炭素成分が二酸化炭素となって完全に燃え尽きることで、純白のリン酸カルシウムの結晶(灰)だけが残る。


匣鉢:こうばち、 サヤ。焼き物を焼く際に、作品を保護するために使用する耐火性の容器。本作では耐火煉瓦と同じ耐火粘土に、一度焼いてから細かく砕いたシャモット(焼き物の粉)などを混ぜて、熱による膨張・収縮で割れないよう強度を高めている。本来はフタをして灰や煤を完璧に遮断するために使うが、今回お兄さんは「あえてフタを開けた状態」で使用。窯の中を吹き荒れる激しい熱風(ドラフト)から脆い骨を守り、空へ吹き飛んでしまうのを防ぎつつ、上部から酸素をたっぷりと取り込んで骨炭を完全に燃やし尽くしています。

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