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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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ボーンスカベンジャー

視点:ベルタ


骨!骨!骨!! 村中の骨を拾い集めます。

おにいさんは骨が好きだ。

わたしは確信していた。もう絶対に間違いない。


最初は気付かなかった。おにいさんが猪を手に入れた時、最初はお肉を食べられることに喜んでいるのかと思った。しかしお肉は臭い。というか全部臭い。肉も脂もふらふらしながらそれこそ青い顔をしながら処理してくれた。

骨を扱うときは少し違ったのだ。中身はとても美味しかった、最高だった!それからさらにおにいさんは骨を炭にしたのだ。

おにいさんは真っ黒な骨炭をみて本当にうれしそうな顔をしたのだ。それを細かく砕いて粉にした。脂に混ぜて臭いをとったり、よくわからない脂汚れの汁に混ぜて奇麗にするためのどろどろにしたり。それだけでなく水差しに入れて水まで綺麗に変えてしまった。

あんなにたくさんあった骨がもうほとんどなくなってしまい、今のおにいさんは少し悲しい顔をしている。

ここまで来ると偶然のはずがない。好きなのだ。おにいさんは骨がたまらなく好きなのだ。


そしてわたしは、もう一つ重大なことに気付いていた。

おにいさんはあんなにも大好きな骨が村中の少し隠れた場所にたくさん落ちている事を知らないのだ。

あんなにも骨が大好きなのに猪が手に入るまで骨が手に入らなかったのだ。間違いない、おにいさんは骨を探すのが致命的に下手だった。ものすごく下手だった。

もしかしたらおにいさんは村の皆がおにいさんと同じように骨を使いつくしているから無いのだという勘違いをしているのかもしれない。

そんなわけない。わたしも目の前で見せつけられるまで、スープをとってスカスカになった骨が役立つなんて考えたこともなかった。

村の皆も同じだ。骨はゴミだし焼いたら臭いしでどこかへ捨てるしかないのだ。


「ねぇ、おにいさん。骨欲しい?」


「欲しいです」


ある日、骨の道具をこさえているおにいさんに声をかけたら即答だった。おどろいた、そんなにも欲しかったのか。


「村を探した?」


「探してません」


本当に探していないらしい。わたしは不思議で仕方がなかった。

あれだけ骨を手に入れた時に喜ぶのに、自分からは探そうとしない。意味が分からなかった。


やはり、おにいさんは知らないのだ。骨がどこに落ちているかを。


村の外れの深い藪の横。

干からびた川辺の泥の中。

村の犬たちが獲物を隠す寝床の近く。

そういう場所を、おにいさんは全く知らない。

わたしたち村の子供はみんな知っている。どこに何が落ちていて、どこに行けば面白いものがあるか。毎日泥だらけになって村中を走り回っているからだ。


でもおにいさんは違う。おにいさんは毎日の水汲みや畑仕事や食べ物探し以外の時間は何かを作っている。


そんなことばかりしているから、そこら中にある骨が見つからないのだ。


「じゃあ、私が持ってきてあげる」


おにいさんの返事を聞く前に、わたしは走り出していた。


まずは川へ行く。

春先に雪が溶けて川が増水した時、上流から流れてきたゴミが根っこに引っかかる特別な場所がある。大人は誰も気に留めないけれど、子供たちの秘密の宝物庫だ。

しゃがみ込んで泥をかき分けると、すぐに見つかった。白く干からびた羊の脚の骨だ。

「よし」

わたしはそれを拾い上げて胸に抱いた。


次は村の裏手へと回る。

気性の荒い猟犬が、いつも大人からせしめた肉付きの骨を齧っている場所だ。犬が飽きて飽食した後に残る場所を這いつくばって探す。

あった。鳥の細い骨だ。小さくて軽くて、油が抜けてカサカサしている。でも立派な骨だ。わたしはそれも拾った。


さらに足を伸ばして森の縁へ行く。

狐が夜に通り道にしている獣道だ。去年、大きな鹿の骨を見つけた場所の近くを重点的に探す。茂みをかき分けて、冷たい腐葉土を素手で掘り返す。


「あっ」


見つけた。ひんやりとした白い塊。ひっぱると、それは小さな獣の顎の骨だった。尖った歯がいくつも残っている。少し不気味だけれど、とても面白い。

わたしは拾った骨を全部お腹の前に抱え、落とさないように小走りで工房へ帰った。


「おにいさん!」


作業台の上に、拾ってきた骨をごろごろと並べる。羊の脚、鳥の細骨、歯のついた顎。

おにいさんは作業の手を止め、目を丸くしてそれらを見つめた。それから、じっくりと一本ずつ手にとって観察し始めた。


「すごいです。本当にすごいです、ベルタ」


おにいさんは心底感心したように言った。

わたしは嬉しくなって、ふんす、と鼻を鳴らして胸を張った。


「でしょ! 私には分かるんだよ!」


褒められた。おにいさんに褒められた。びっくりするくらい褒められた。褒めすぎではないだろうか。


おにいさんの顔を見ると本当に嬉しそうだった。きっと骨が大好きだから嬉しいに違いない。


こんなにも人を喜ばせられるなんて。胸の奥がじんわりと熱くなって、わたしも飛び上がりたいくらい嬉しかった。


だから次の日も探した。また見つけた。

さらに次の日も見つけた。

わたしが毎日骨を抱えておにいさんのところへ行くものだから、そのうち村の他の子供たちも真似をし始めた。


「なあベルタ、どこに行けばそんなに骨が落ちてるんだ?」


近所の男の子に聞かれたけれど、わたしは口元を尖らせてそっぽを向いた。


「ひーみーつ!」


本当は秘密でも何でもない。ただの川辺や犬の寝床だ。でも、少しだけ偉そうに言いたかった。だっておにいさんに一番に褒められるのは、わたしだけの特権なのだ。これはおにいさんとわたしの、特別な仕事みたいだったから。


ある日、わたしはこれまでにない大物を見つけた。

いつもより少しだけ森の奥に入ったところだった。大きな倒木の根元、湿った落ち葉が分厚く積もった下に、眩しいくらい白いものが見えた。

わたしは夢中で葉っぱを払いのけた。泥を掘る。両手で掴んで、うんとこしょ、と引っ張る。

ずるりと抜けて出てきた。


「うわ……!」


大きかった。それは大きな鹿の肩甲骨だった。平べったくて、わたしの顔よりもずっと大きい。

持ち上げるとずっしりと重かった。泥がついていて冷たい。でも頑張る。小さな両手でしっかりと抱える。

歩くと足元がふらついた。途中で何度も落としそうになって、そのたびに抱え直した。泥が服につくのも気にせず、息を切らせて工房へたどり着いた。


「おにいさん……! おにいさん、見て!」


どんと、大きな音を立てて作業台にその骨を置いた。

おにいさんは一瞬、彫刻のように固まった。それから、目を限界まで見開いて鹿の骨を見つめ、破顔した。


「これは立派です。とても良い骨です。素晴らしいです。ベルタ!」


わたしの心がぴょんと跳ねた。

立派。素晴らしい。おにいさんの口から最高の言葉が飛び出した。


おにいさんは本当に嬉しそうだった。おにいさんはいつも冷静で、大人の癖に子供のわたしに対しても丁寧に変な言葉で話すけれど、骨を見る時だけは少し変になる。本人は大人ぶって隠しているつもりらしいけれど、わたしには全部お見通しだった。

目が違うのだ。おにいさんが真っ平らな石の板を作る時の目。焼き物の材料を集める時の目。そういう、一番真剣なことをしている時と同じ、きらきらした目になる。

つまり、おにいさんは本当に、これが欲しくてたまらなかったのだ。


「わたし、もっと探してくる!」


「ベルタ、無理はしない。怪我をしたら大変です」


「する! もっとすごいの探す!」


おにいさんは困ったように苦笑した。わたしはそんなの声も耳に入らないくらい気にせず、また村へ飛び出した。


村のどこに何があるか、わたしは全部知っている。

どこに犬が骨を持っていくか。どこにカラスが突いたゴミが落ちるか。どこで狼や狐が食事の残りを散らかすか。子供だから知っている。毎日毎日、遊びながら歩き回っているから知っている。

大人の、しかも頭の良すぎるおにいさんには絶対に分からない世界だ。だからこそ、わたしの出番だった。


ある日の夕暮れ、集めた骨の泥を落としていた時、おにいさんがぽつりと言った。


「本当に、本当にありがとう。ベルタ」


何気なく、本当に何気ない呟きだった。

でも、確かにそう言った。わたしの手がピタリと止まった。


「……ほんと?」


「本当です」


「すごく?」


「すごくです。俺は骨を集められない」


その瞬間、わたしは心の中で強く決めた。

もっと探そう。もっとたくさん集めよう。

だって、こんなに嬉しいことはない。おにいさんはすごいことをしている。何も無くても文句も言わずにだれも知らない何かを作っているのだ。

でも、骨探しだけは別だ。骨探しだけは、おにいさんはわたしに逆立ちしたって勝てない。わたしの方が何倍も上手なのだ。


村のどこに骨が落ちているか。どこに埋まっているか。どこへ行けば見つかるか。それはおにいさんじゃなくて、わたしが知っている。

だから頑張る。またおにいさんに驚いてもらうために。すごく嬉しいって言ってもらうために。


気がつけば、家の炭にはわたしが運んできた骨が小山のように積み上がっていた。

おにいさんはそれを見て、頭を掻きながらただただ嬉しそうなな顔をしている。


「本当にありがとう。ベルタ」


そう言いながら、おにいさんは。一本一本を大切そうに奥へと片付けていく。やっぱり好きなのだ。


わたしはそれを見て、ふふん、とにやにやした。

そして翌朝も、おにいさんから借りた小さな籠を片手に持って元気よく出かけた。


今日もきっと、村のどこかに骨が落ちている。

おにいさんには見つけられない。でもわたしなら見つけられる。

だから探す。見つける。持ち帰る。そして、おにいさんにいっぱいいっぱい褒められる。

それは、最近のわたしにとって世界で一番お気に入りの仕事だった。

次回、骨灰


【作中技術解説】

ボーンスカベンジャー:骨のスカベンジ。「スカベンジ(Scavenge)」とは、本来は動物が死肉を漁る行動や、ゴミ箱から使えるものを回収する行為を指す言葉です。鉄などの鉱物資源が絶望的に不足しているこのフランク王国農村において、おにいさんにとっての「骨」は、タダで手に入る最高純度の「リン酸カルシウム」という超重要工業資源です。自分で探す時間のないおにいさんに代わり、村を熟知したベルタがスカベンジャーとして機能することで、村の資源循環システムが回り始めました。


未利用資源の回収:中世の農村において、犬が齧り捨てた骨や川辺の漂流物は、大人にとっては単なるゴミ、価値ゼロの未利用資源です。しかし、視点が低く、好奇心旺盛で村中を毎日駆け回るベルタにとっては、これらは容易に発見できる宝探し兼、おにいさんにを喜ばせるものという価値の設定によって、村に埋もれていた貴重な資源を集める供給網になりました。

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