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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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Vブロック

視点:ベルタ


おにいさんが新しい測定・加工用治具「Vブロック」を粘土から削り出しますが退屈なのでベルタは最初と最後だけ見ます

おにいさんはまた変なものを作っていた。

いつもの平らな石の上に、四角い焼き物と三角の焼き物が並べて置いてある。この前作っていたやつだけど何に使うのかはよく分からない。おにいさんは毎回説明しようとしてくれるのだが、やっぱり分からない。難しい話を聞いていると、どうしても眠くなってしまう。

「今日は何を作るの?」

わたしが覗き込むと、おにいさんは手元にあった棒を拾い、地面の土にさらさらと絵を描いてくれた。

なるほど、四角に溝をつくるらしい。。


「へぇ」


そう相槌を打ってみたものの、やっぱり全然分からない。わたしは作業台の上にある、四角いを見た。おにいさんが最近一生懸命削っているやたら真っ直ぐな四角い焼き物だ。どうやらこれを削って溝を作るようだ。

削るだけだから見ていても少しも面白くない。

おにいさんは平らな石の上に四角い焼き物を置き、別の四角い焼き物を当て、さらに三角の焼き物を当てて細い線で印を付けている。地味だ。とても地味な作業だ。

最近のおにいさんは焼き物ばかり作っている。焼き物はただの土の塊で、削り終わった焼き物もほとんど形がかわらないし、動いたりもしない。見ていても退屈だった。


「つまんないねそれ」


「そうだね」


手元を動かしたまま、おにいさんが苦笑混じりに言った。


「じゃあバッタ取ってくる」


「はい。おねがいします」


「たくさん取ってくるね」


「はい。いってらっしゃい」


わたしは背負った袋の紐を直すと、勢いよく走り出した。

つまらなくてもおにいさんがやると決めたことは邪魔しない。わたしは別の事をすればいいのだ。

最近は村の友達とみんなでバッタを取るようになっていた。おにいさんが食べられるようにしてくれるからだ。

最初は飛び跳ねる虫を食べるのは嫌だった。だけどよく考えたらヘビとカエルの時も同じことを考えていたけど今では普通に食べている。エビもそうだった、同じように嫌だったけど今では普通だ。おにいさんが用意してくれたバッタの焼き干しは足も羽も頭もとってあったのでむしろ見た目はエビよりはマシだった。案の条、普通に食べられた。エビは泥臭いけどバッタは牧草の匂いだ。わたしはこっちのほうがいい。だから今では普通に食べるし、わたしは全力で捕まえにいく。


緑の茂る草むらへ入ると、足元から元気よく一匹が跳ね上がった。

目の端に入ったら網を振る、あんまり考えなくてもすぐに捕まえられる。


袋の中に放り込むと、また別のやつが飛んだ。それを追いかけて、しゃがみ込んで捕まえる。逃げられても追いかけて、また捕まえる。おにいさんの難しい話を聞いているより、こっちの方がずっと体が動いて楽しい。

何度もそれを繰り返しているうちに、気が付くとお日様がだいぶ傾いていた。空が赤く染まり始めている。袋の中を覗くと、たくさんのバッタが重なり合って元気に跳ねていた。今日も大漁だ。わたしは満足してお家へと戻った。

「ただいまー!」

おにいさんはまだ平らな石の前にいた。案の定である。おにいさんは何かを作り始めると、ご飯のことも忘れてずっと座り込んでいる。

わたしは背中の袋を下ろして中身を見せた。


「いっぱい!」


「はい。とても上手です」


「でしょ!」


ぐっと胸を張る。おにいさんはいつもちゃんと褒めてくれるから、明日もまた頑張ろうという気持ちになる。

ふと、おにいさんの作業台に目が向いた。

四角い塊の真ん中が、斜めに深く削り取られている。確かにそれは、おにいさんが地面に描いた溝がついた四角そのものの形をしていた。


「できたの?」


「はい。できた」


わたしは手を伸ばしてそれを持ち上げようとしてみた。見た目よりもずっしりと重くて、中身が詰まっている感じがする。


「何に使うの?」


「丸い棒。回す」


おにいさんは棚から木の棒を持ってきた。そして、それを斜めの溝へそっと横たえる。

いつもなら台の上でころころと転がってしまうはずの木の棒が、溝にすっぽりとはまってぴたりと止まった。

わたしは面白くなって、木の棒を何度も指で突っついて転がしてみた。本当だ。手を離すと自然に一番深いところに落ち着いて、嘘みたいに動かなくなる。少しだけ面白いおもちゃみたいだ。

おにいさんは平らな石の上にその溝がある四角を置き直した。そして、別の四角い焼き物の角を溝に置いた。

ぴたり。

驚くほど隙間がない。おにいさんがよくやるように、わたしも作業台の高さまでしゃがみ込んで、向こう側の光が漏れていないか覗き込んだ。確かに、どこにも隙間が空いていない。


わたしはさらに顔を近づけて覗く。ただの粘土を焼いたものなのに、どうしてこんなにぴったりくっつくのだろう。ただ削っただけなのに、何だか不思議な感じがする。


「なんでぴったりなの?」


「平ら。真っ直ぐ。斜め」


一生懸命説明しようとしてくれているがはっきり言ってまったくわからない。

わたしは首を傾げてしばらく考えた。やっぱり言葉の意味はよく分からない。

でも、一つだけ分かったことがある。おにいさんは朝からずっと、地味に粘土を削ってこれを作っていた。そして、言った通りにちゃんと絵に描いたものを作り上げた。それはやっぱり、ものすごいことなのだと思う。


「おにいさん、頑張ったね」


「はい。ありがとう」


わたしは完成した溝の冷たい表面を撫でた。角はどこを触ってもきれいに尖っているし、左右の傾きも全く同じに見える。

おにいさんは時々、いや半分くらいこういうよく分からないことをする。村の誰もそんなことをやっていない。それなのに、一日中ずっと石や木や粘土を熱心に削っている。

今のわたしには何になるのかさっぱり分からないけれど、いろんな物を食べられるようにできるおにいさんがやるのなら、いつか美味しいものになるのかもしれない。


「えらい!」


わたしはおにいさんのたくましい腕を、ぽんぽんと上から叩いた。


おにいさんは嬉しそうに笑った。それを見てわたしも一緒に笑う。


きっと明日もおにいさんは、平らな石の上で何か変なものを作っているのだろう。今度は何を作るのだろうか。その時もおにいさんはよくわからない説明をしてくれるのだろうけど、次こそは目に見えておもしろいものだといいなぁと思った。

次回、ハイトゲージ


【作中技術解説】

Vブロック:上面にV字型の溝が彫られたブロック状の治具です。円柱や丸棒をこの溝に載せると、中心が自動的に固定されて転がらなくなるため、丸い部品に正確な穴を開けたり、中心線を引いたりする際に不可欠な測定・加工用工具となります。

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