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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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スコヤ

視点:ベルタ


おにいさんが定盤の上に四角い土器を置き削っている。時間を見つけては削っている。削りおえた四角い土器は最初と同じように四角だった。

おにいさんが何かを作っている時は、あまり話しかけない方がいいとわたしは最近思うようになっていた。


言葉が十分に通じないせいもあるが、理由はそれだけではない。わたしには退屈に見える作業も、おにいさんはただ目の前のことだけを見つめて、楽しそうに手を動かし続ける。


今日もそうだった。


毎日の水汲みや羊に草を食べさせて薪を拾ってした後、おにいさんは平らな石の上に四角い土器の塊を置き、ひたすら擦り合わせている。シャリ、シャリ、と静かな音が響いていた。少し擦っては持ち上げ、朝日の光に透かすようにして細かく眺める。それからまた水を一垂らしして、細かな砂を振っては擦る。その繰り返しだった。


何をしているのかと聞かれれば、わたしには全然わからない。


なぜならいつまでも、その見た目がほとんど変わっていないからだ。


お昼寝から起きた後もおにいさんは同じ姿勢で同じ四角い土器を磨いている。


そこまでいくと、さすがに呆れを通り越して笑ってしまった。


まるでおにいさんの下半身から木の根が伸びて、地面にそのまま生えてしまったかのようだった。


「まだやってるの?」


「はい。磨いている」


わたしが声をかけると、おにいさんはようやく泥のついた顔を上げて、少し気恥ずかしそうに笑った。


不思議とこういう時はお互いの意味が伝わる。わたしが呆れていることも、自分がそれほどおかしな執着を発揮していることも、おにいさんはちゃんと理解しているらしい。


それでも、手元の作業は絶対にやめなかった。


むしろ、その顔は時間が経つほど楽しそうですらある。


わたしはそのことが一番不思議だった。


この村には、土を耕して麦を育てる畑仕事が好きな人はいる。

生まれ落ちた仔羊を我が子のように可愛がる、羊が好きな人もいる。


だが、ただの焼き物の塊を一日中削るのが好きな人なんて、わたしは生まれてから一度も見たことがなかった。


おにいさんの前には、同じような土器の塊が三つ並んでいる。どれも大人の拳より少し大きいくらいの、ただの四角い塊だった。


最初は、おにいさんがよくやる「新しい便利な道具」を作るのだと思っていた。しかしどうも様子が違うらしい。スープを温める鍋でもないし、麦を盛る器でもない。森で木を切る刃物の柄になるようにも見えなかった。


ただ四角い。どこまでもひたすら四角いのだ。


おにいさんは、その四角さをさらに四角にしようとしているように見えた。


わたしは少しため息をつき、膝を折ってその隣にしゃがみ込んだ。


おにいさんはちょうど、三つのうちの二つの塊を平らな面同士で押し当てているところだった。少し角度を変え、合わさった隙間から光が漏れていないか覗き込む。それが終わると、今度は別の塊に取り替えて、また位置を変えて擦り合わせる。


何を見比べているのかは、わたしの目にはさっぱり分からなかった。どれも同じ茶色い土の塊にしか見えない。


わたしがじっと手元を覗き込んでいるのに気付くと、おにいさんは少し嬉しそうに、地面の乾いた土に指で線を引いた。


縦の線。

それに交わる横の線。

そして、二本の線が寸分の狂いもなく交わる綺麗な角。


次に近くから落ちていた木切れを二本拾い上げると、一つを地面に寝かせ、もう一つをその上に立てた。当然、ただ置いただけの木切れは少し傾いて斜めになる。


おにいさんは大袈裟に首を振った。


それから、自分が今しがた磨き上げた土器の塊を指差し、再び地面に描いた直角の角をトントンと示した。


「……まっすぐ?」


「マッスグ」


わたしが首を傾げながら尋ねると、おにいさんは顔を輝かせて、嬉しそうに何度も何度も頷いた。


どうやらそういうことらしい。


まっすぐにするための道具。


それなら、わたしにもほんの少しだけ理解はできた。冬の寒さを凌ぐ家を建てる時も、羊が逃げ出さないように柵を作る時も、柱が曲がっているよりは真っ直ぐに立っている方が頑丈で良いに決まっている。


けれど、そこまで一日を丸ごと潰すほどの手間をかけることなのだろうか。


みんな自分の目で見て、だいたいの感覚で合わせて木を切っている。多少曲がっていようが隙間があろうが、家はちゃんと建つし、柵だって何年も壊れずに立っている。


おにいさんは、村の人たちとは違う考え方をしているのだろうけどどうだろうか。

あるいは、ほんの少しの歪みが気になって仕方がなくて、ただ真っ直ぐに直したいだけなのかもしれない。


わたしには、そのこだわりがもたらす意味がよく分からなかった。


外に行き、お友達と遊ぶことにした。


一面の麦畑がざわざわと音を立てて揺れ、まるで緑色の冷たい海が波打っているかのようにうねる。放牧地では、羊たちも強い日差しを嫌って、少しでも涼しい木陰を探して固まりながら移動していた。


何があるわけでもないけどお友達と走り回り花冠をつくり遠くまで石を投げたりして過ごす。


わたしはもう一度畑を一回りして枝や石を拾い集めてから戻り、我が家の土壁にもたれかかって、ふうと息をついて休んだ。


視線の先では、おにいさんがまだあの茶色い焼き物と格闘している。


もう一体何時間やっているのだろう。自分なら、最初の1時間で嫌になってとっくに放り出している。


しかしおにいさんは、どれだけ時間が経っても全く飽きた様子を見せない。むしろ、日が傾き始めるにつれて、その目つきはどんどん鋭く真剣になっている気がした。


西に傾いた光が、おにいさんの汗ばんだ額を照らしている。


それを作業の邪魔にならないように見守っているうちに、わたしは膝を抱えながら少しだけ考えた。


もしかすると、おにいさんの目には、自分たちには見えない何かがはっきりと見えているのかもしれない。


わたしにはどれも同じ泥の塊にしか見えないあの土器も、おにいさんには一つ一つ違う形として映っているのだろうか。


考えてみれば、わたしも群れの中から一頭一頭の羊の顔を完全に見分けられるし同じようなものかもしれない。


ならおにいさんは、この村の誰も気に留めないような四角の違いや平らさの違いが、恐ろしいほど鮮明に見えてしまう人なのかもしれない。


そう思えば、この異常な集中力にも少しだけ納得がいった。


もっとも、それが子供の自分にとって面白い遊びかどうかは、全く別の話だったけれど。


それからさらにしばらくした頃、不意におにいさんの手がピタリと止まった。


おにいさんは、三つの塊を地面に丁寧に並べた。

そして、そのうちの一つを台座のようにして立て、もう一つの塊の面を横からそっと当てる。

位置を変える。

さらに三つ目の塊を別の角度から当てる。


それを何度か慎重に繰り返した後、おにいさんは胸いっぱいに溜まっていた息を、満足そうに深く吐き出した。


どうやら、ようやく成功したらしい。


何がどう成功したのかは、やっぱりわたしには分からなかった。見た目は朝の段階と何一つ変わっていないように思える。わたしの目には、ただの四角い土の塊のままだ。


それでも、おにいさんが世界で一番大切な宝物を見つけたかのように嬉しそうに笑っているから、きっとこれはとても良いものなのだろう。わたしは心の中でおにいさんに頑張ったねということに決めた。

次回、三面直交


【作中技術解説】

ブロックスコヤ:直角測定ブロック。正確な直角を持つ土器の塊は、現代の金属加工でいう「ブロックスコヤ(直角測定ブロック)」の役割を果たします。

完全な平面(定盤)に対して、この正確な直角ブロックを滑らせるようにして当てることで、対象物が本当に歪みなく直角に立っているかを正確に検査・測定できるようになります。焼き物を三面すり合わせで極限まで平らに、そして直角に仕上げたこのブロックは、村全体のすべての「ものづくり」の精度を数段階引き上げるための、絶対的な「基準器」となります。

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