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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱灰


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ロケットマスヒーター

視点:ベルタ

集めてきた石と泥を使って、おにいさんはお家の中に「不思議なお城」を築き始めます。

それは、村の誰もが見たことのない、妙な形をしたかまどでした。

小さな火種をその穴に投げ入れたとき、凍てつく家の中に「奇跡」が起きます。

 おにいさんの「まほう」がいよいよ形になりはじめた。

 お家の中に運び込まれたのは、たくさんのいしと、あのベタベタした赤茶色のつち。おにいさんはまず床の上に平らな石をきれいに並べると、その上に粘土を厚く塗って、頑丈な土台を作っていく。


 石を積み上げながら、まず真ん中に作ったのは細い筒だった。

 それは足の「ひざ」みたいに直角に折れ曲がった形をしていて、横から枝を入れる口があり、その奥で真っ直ぐ上に向かって筒がつながっている。


「……L」

 おにいさんが、また聞いたこともない言葉をつぶやいた。

「える?」

 わたしが真似して言うと、おにいさんは少しだけ口角を上げて、こねた粘土で石の隙間を丁寧に埋めていく。次にその「ひざ」みたいな筒を囲むように、さらにもう一回り大きな石の円筒を築きはじめた。


「……ドラム」

 おにいさんが、また呪文を唱える。

 真ん中の折れ曲がった筒を、外側の大きな筒がすっぽりと飲み込んでいく。二つの筒のあいだに指が入るくらいの隙間を残しながら、外側の壁を高く積み上げた。


 さらに外側の筒の根元に小さな穴を開けて、そこからお家の中へと続く、わたしが座れるくらいの短い道を粘土と石でこしらえていく。

「……エンドウ」

 おにいさんが、また変な名前をつけた。熱い空気がなべの下を通ったあと、その道を通っていくための出口だ。お家の中が煙たくならないように出口のまわりも粘土で固めると、大きな筒のてっぺんにお父さんの古い土なべを置いた。

 なべの底がまるで大きなふたみたいに、石の筒をぴったりと塞いでしまった。


 石を積んで、粘土を塗って、また石を積む。

 おにいさんの手つきは、まるでお祈りを捧げているみたいに静かで迷いがなかった。お父さんたちのかまどは石の上で火を燃やすだけだったけれど、おにいさんが作っているのは二重の壁を持った、まるで小さなお城のような形をしていた。


 粘土がまだ湿り気を帯びているそのお城を、おにいさんはしばらくじっと眺めていた。それから一番下の横穴に、細く折った乾いた枝を差し込む。

「……ベルタ」


 名前を呼ばれて振り返ると、おにいさんはお父さんたちが使っていた古いかまどへ歩いていった。そこには昨夜から灰の中で眠っていた、確かな赤さを持つ「火種」が隠れている。

 おにいさんは乾いた麻の繊維をその赤味にそっと押し当て、優しく、でも力強く息を吹きかけた。


 ふー、ふー。

 灰が舞い、小さなオレンジ色の光が麻をじりじりと焦がしていく。やがてパチッと音がして小さな炎が立ち上がると、おにいさんはそれを消さないように大切に両手で包み込んで、新しい石の筒のところまで運んできた。

 そして、その小さな命を横穴の奥へとそっと滑り込ませた。


 その瞬間だった。

「……ゴォッ!」

 低い地響きのような音が、お家の中に響き渡った。

 いつもなら目にしみる煙が漂うはずなのに、どこにも行かない。煙は吸い込まれるみたいに穴の奥へ消えていき、かわりに「ゴボゴボ」と、目に見えない怪獣が空気を食べているような激しい音が石の筒の中から聞こえてきた。


 わたしはびっくりして、おにいさんの服をぎゅっとつかんだ。

「おにいさん、火が、吸い込まれてる!」

 おにいさんはわたしの肩を優しく抱き寄せると、ふたとして置いた土なべを指さした。


 あんなに少ない、たった三本の枝なのに。

 なべの中の水がもう小さな泡を立てはじめていた。大きな薪を何本燃やしても、部屋中が煙で真っ白になってもなかなか沸かなかったお湯が、もう。


 おにいさんの作ったお城は、中で火を燃やしているのに外からは見えない。その火をなべの底へ、これでもかというほど叩きつけているみたいだった。その証拠に、外側の石の壁がじんわりと熱を持ちはじめている。


「……あたたかい」

 わたしがぽつりと言うと、おにいさんはわたしの言葉を繰り返した。

「……ア、タ、タ、カ、イ」

 おにいさんの顔が火の光に照らされて、とっても優しく見えた。


 お家の中が、お日さまの当たる丘の上にいるみたいにぽかぽかとしていく。おにいさんは道で拾った細い枝だけで、この奇跡を起こしている。

 お父さんが「どうしようもない」と諦めていた大きなマツの木も、このストーブの中なら、何日もわたしたちを温めてくれる宝物になるだろう。


 石を積んでなべで蓋をした不格好な塔。

 熱で粘土が乾き、ひび割れていく様子をなぞりながら、おにいさんは何かを計算するように目を細めていた。でも、わたしたちにとってそれはどんな教会の祭壇よりも、神聖でありがたいものに見えた。


 おにいさんは激しく沸き立ったお湯を見て、満足そうにうなずいた。

 まだ何も食べていないけれど、ゴーゴーと鳴り続ける力強い音。それは、わたしたちがこの冬を生き延びられるという、おにいさんからの約束の声に聞こえた。

次回、お湯を沸かして飲む

【作中技術の補足】


ロケットマスヒーター: 断熱された筒が強力な気流を生む高効率暖房。煙まで燃やし尽くすため、細い枝だけでお湯が沸き、部屋も汚れません。


ヒートストレージ: 煙の通り道(煙道)を粘土で固め、熱を蓄えさせる仕組み。火が消えたあとも石や土が熱を持ち続け、お家を温め続けます。


シャモット: この話で作成したロケットマスヒーターは熱で割れます。お兄さんはその焼けて硬くなった破片を砕き、次の粘土に混ぜる材料シャモットにします。運転しながら補修を繰り返し、ストーブ自体の強度を上げていきます。

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