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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱灰


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水簸

視点:ベルタ


焼いて急冷した花崗岩、臼で粉々にした後、水に入れてキラキラ白い泥と黒い砂にわけます。

ドスン。ドスン。


重くて鈍い音が、朝から晩までずうっと響いている。

おにいさんが作った、足で踏む臼が、地面を揺らす音だ。長い横木の一方に座布団のような重い石が乗った杵がついていて、反対側の板をおにいさんが足でぐっと踏みつけると、杵が跳ね上がる。そして足をパッと離すと、杵は重いから、地面に埋め込まれた臼の中にドスンと落ちる。


おにいさんはこれを暇さえあればいつもも踏んでいる。


臼の中に入っているのは、この前、かまどの煙の道で真っ赤に焼いてから、水の中に放り込んでひびだらけにした、あのつぶつぶの石の砂だ。水から引き揚げたときはまだ粗いザラザラした砂だったけれど、おにいさんはそれを臼の中に放り込んで、何度も何度も木の杵で叩かせている。


「おにいさん、あし、痛くない?」


わたしが覗き込むと、おにいさんは汗をかきながら、いつものように説明してくれる。


「はい。ベルタ。大丈夫。石。細かい。砂」

「細かくなるの?じゃあかわってあげる」


わたしは柳の紐編みを置いて、おにいさんの真似をして、踏み板に足を乗せる。ぐっと体重をかけると、木の軋む音と一緒に、大きな杵がゆっくりと持ち上がる。だけど、そこから足を離して、杵がドスンと落ちる衝撃が足元に伝わると、それだけで小さなわたしの身体はひょいと浮き上がってしまいそうになった。

いつもは木の実を砕くためにわたしの仕事だけどそれはすぐに終わってしまう。

この石を粉々にする仕事はどうやらとても時間がかかるようだ。。


「わたし頑張った!おにいさんに代わる」

「はい。ベルタ。ありがとう。代わるます」


おにいさんは、わたしの頭を優しく撫でると、またひょいと足板に乗って、規則正しいリズムで唐臼を動かし始めた。

ドスン、ドスン、ドスン。

おにいさんの足の動きには、無駄な力がまったく入っていない。まるで畑の畝を歩くときのように、静かで、同じ速さで、ずっと板を踏み続けている。村の


ある日、おにいさんはようやく杵でつくのをやめた。


臼の中を覗き込むと、あの硬かった石の砂は、本当におにいさんの言った通りになっていた。白くて、きめの細かい、まるでパンを作るための粉みたいに、さらさらで綺麗になって臼の底にこんもりと溜まっていたのだ。


「わあ、すごい、真っ白だね。おにいさん、これなら、ほうせきになる?」

「いいえ。ベルタ。ゴミ。とる。水。入れる」


おにいさんは首を振ると、大きな、なみなみと水を張った木桶を運んできた。

そして、そのせっかく何日もかけてお砂糖みたいにした白い粉を、容赦なく木桶の中にざざーっと全部放り込んでしまったのだ。


「ああっ、もったいない!」


かわいそうに、白い粉はお水の中に落ちた瞬間、みるみる溶けて混ざり合ってしまった。

おにいさんは、太くて平らな木の棒を持つと、その桶の中を、大きな円を描くようにぐるぐると、もの凄い勢いできかき混ぜ始めた。

右へぐるぐる、左へぐるぐる。

透明だったお水は、あっという間に真っ白に濁ってしまい、まるで羊の乳か、薄い泥水のようになってしまった。せっかく臼で一所懸命叩いて、あんなに綺麗に揃えた粉だったのに、これじゃあただの泥遊びだ。わたしは、せっかくのお手伝いが台無しになってしまったような気がして、ちょっとだけがっかりして、桶の縁に顎を乗せて泥水を見つめた。


「おにいさん、せっかくの粉が、泥んこになっちゃったよ。これじゃあもう、何にも使えないよ」

「いいえ。ベルタ。水。静か」


おにいさんは木の棒を桶から引き抜くと、じっと動きを止めた。

激しく渦巻いていた真っ白な泥水が、だんだんと、ゆっくりとした動きになり、やがてぴたりと静まり返った。


そのとき、ふしぎなことが起きた。


泥水が静かになった瞬間、桶の底に向かって、重たい砂の塊が、すうっと沈んでいくのが見えた。粗くて重い粒は、お水の中でじっとしていられないみたいに、すぐに底へ落ちて重なっていく。

だけど、水の中には、まだフワフワと浮いているものがあった。


それは、小さくて、信じられないくらい薄くて、ひらひらした、キラキラだった。おうちの窓から差し込む冬の日差しを浴びて、そのひらひらしたウロコみたいな小さな粒たちが、水の中でキラキラ、キラキラと、星のように眩しく光り輝いていたのだ。


「あ! おにいさん、見て! 光ってる! キラキラがいっぱい浮いてるよ! これがほうせき?」


わたしは嬉しくなって、水の中のきらめきを指差した。

やっぱりおにいさんは、石の中からほうせきを見つけてくれたんだと思った。これだけたくさんのキラキラが集まれば、きっと首飾りだって作れるにちがいない。


だけど、おにいさんは嬉しそうな顔をしなかった。それどころか、困ったように眉を八の字に曲げて、薄い平らな木へらをそっと水面に差し入れた。



おにいさんは、そう言いながら、木へらの先を使って、水面に浮いているキラキラした薄いウロコだけを、お料理のスープの灰汁をすくい取るみたいに、丁寧に、丁寧にすくい上げて用意しておいた、お椀に移し替えていったのだ。


「おにいさん、それ、捨てちゃわないの?」


わたしが不思議に思って覗き込むと、おにいさんはお椀の上に溜まっていく、濡れてぬらぬらと光るキラキラを指先でつつきながら頷いた。


おにいさんの手によってお皿の上に集められたキラキラの粉は、お水が抜けて乾いていくにつれて、おうちの中に差し込むお日様の光を浴びて、まるで本物の銀の粉みたいに、きれいにキラキラと輝き始めていた。


「おお、キラキラしている!これもほうせきなんだね!」


わたしが指でつっついている間も、おにいさんの手つきは驚くほど正確だった。

水面でひらひらと漂うキラキラの屑を、一つも見落とさないように、じっくりと時間をかけて、すくい取っていく。重い砂はすでに桶の底にがっちりと沈み込んで動かない。そして、その重い砂と、水面に浮くキラキラの間の真ん中の水には、まだお砂糖の粉よりももっともっと細かい、目に見えないほどの白い泥の成分が、フワフワと乳白色の霧のように漂っていた。


おにいさんはキラキラをすっかり退治してしまうと、今度はその、白く濁った上の方のお水だけを、お玉を使って、隣に置いてあった別の空っぽの綺麗な木桶へと、静かに、一滴もこぼさないような手つきで移し替え始めた。


底に沈んだ重い砂の層に届く手前で、おにいさんはぴたりとお玉を止めた。


「ベルタ。おしまい。待つ」

「待つの? また何日も?」

「はい。待つ」


おにいさんは、濁った白いお水だけが入った新しい桶に、埃が入らないように木の蓋をぴったりと被せた。最初の桶の底に残った、黒ずんだ重い砂の残骸は、乾かしてから小屋に置いておくようだ。


それから、本当に何日も待った。


毎日やることはたくさんあるのでたまに忘れるが、普段とは違うことをしたその泥水は気になっていた。それでもおにいさんはやっぱりその桶には触らなかった。


何日か経って忘れた頃に、おにいさんがようやく「ベルタ。見ます」と言って、桶の蓋を外した。


覗き込んでみると、あんなに真っ白に濁っていたお水は、すっかり澄み切って、底まで見通せる透明なお水に変わっていた。おにいさんは、桶をそっと傾けて、上の透明なお水だけを、取り除いていった。


お水が全部なくなると、桶の底に、それだけが残っていた。


「わあ……」


わたしは、思わず小さく声を上げた。

そこに沈んでいたのは、川原の黒い泥とも、畑の茶色い土とも、ぜんぜんちがうものだった。

まるで小麦粉のように滑らかで、非の打ち所がないくらい、驚くほど真っ白で、綺麗な泥の塊が、ぽってりと、静かに横たわっていた。

おにいさんが人差し指の先でそれを少しだけすくい上げると、泥は指の形に合わせて、とろりと柔らかく形を変えた。そこには、あの固かった斑点の石の面影なんて、もうどこにも残っていなかった。


「ベルタ。触る。どうぞ」


おにいさんに促されて、わたしも恐る恐る、人差し指の先でその白い泥に触れてみた。

ひんやりとしていて、お肌にしっとりと吸い付くようで、なんだかとても気持ちがいい。お砂糖のようにザラザラもしていないし、きららみたいにチクチクもしない。ただただ、優しくて、綺麗な白い粘土だった。


おにいさんが、嬉しそうに目を細めて、わたしの顔を覗き込んできた。

わたしは、指先についた真っ白な泥を見つめながら、ふふっと笑った。


「うん。ほうせきにはならなかったけど、冷たくて、とってもきれいな粘土だね、おにいさん」

「はい。ベルタ。粘土。きれい」


おにいさんは、わたしの指の白い泥を見て、満足そうに何度も頷いていた。

川原で石を拾って、焼いて、水に入れて、臼でついて。この頑固だった石が、こんなに静かで優しい白い泥に変わったことが、わたしにはなんだか、とても誇らしかった。


ほうせきみたいなキラキラした飾りはできなかったけれど、この真っ白な泥が、わたしのほうせきになる。そのことが、今のわたしには、もうはっきりと分かっていた。


わたしはもう一度、そのぽってりとした白い泥に触れて、そのなめらかな心地よさを、心ゆくまで楽しんだ。

次回、B層


【作中技術解説】

水簸:粉砕した鉱物を水に混入させ、粒子の大きさと重さによって「水の中を沈む速度が異なる」という流体物理の法則を利用した比重分級技術です。粒度分布が不均一な状態の鉱物であっても、これらを水に混ぜて激しく攪拌すると、形状や比重特性により、まず雲母を回収、その後ゆっくり沈殿することで長石と石英の粘土が回収できます。

自生粉砕:硬い花崗岩の砂を木製の臼と杵(唐臼)で叩く際、通常であれば木肌が削れて木屑が大量に混ざり、道具もすぐに損耗してしまいます。しかし、お兄さんはこれまでの工程で石をヒートショック(急冷)して脆化させており、さらに作業が進むにつれて「先に細かくなった石の粉」が臼の底にクッションのように敷き詰められます。これにより、杵の衝撃は直接木臼を傷つけるのではなく、石の粉同士が激しく擦れ合って自らをさらに細かく砕く「自生粉砕」へと転換されます。

ミネラル肥料:水簸の最初の桶の底に残った「黒ずんだ重い砂」は、花崗岩から長石・石英・白雲母を引き算した残り滓、すなわち「黒雲母・角閃石・磁鉄鉱」などの有色鉱物ゆうしょくこうぶつです。

これらは磁器に混ざると致命的な色濁りを起こす天敵ですが、自然科学の視点で見れば、白い長石や石英にはほとんど含まれない「鉄(Fe)」「マグネシウム(Mg)」「カリウム(K)」といった植物の成長に必須のミネラルが極限まで濃縮された天然のサプリメントです。お兄さんが「ヒートショックと唐臼で極限まで微粉砕した」ことで、岩石のままであれば溶けないはずのミネラルが、土中微生物の酸でじわじわ溶け出せる状態になっています。

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