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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱灰


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唐臼

視点:ベルタ


組木で立派な木材をつくり、唐臼が生まれました。ベルタは自分だけでできる仕事ができて一生懸命働きます。

おにいさんは、いつも何だか忙しそうにしている。


わたしたちは毎日、森から手頃な太さの薪や割木を、背負い籠に少しずつ入れてお家へ運んでいる。村の大人たちは「お前さんは本当に働き者だねえ」なんて笑って見ていたけれど、わたしは知っている。おにいさんの狙いは、ただの薪集めなんかじゃなかった。大きな木をそのまま運べばみんながびっくりしてしまうから、わざと小さく分けて、誰の目にも留まらないように運んでいるのだ。


薄暗いお家の奥、わたしたちが寝起きするかまどのそばで、おにいさんは一人で作業を始めた。


集めてきた木材は、一本一本なら八歳のわたしでも両手で持てるくらいの軽さだ。おにいさんは、石の小さなおのを使って、その木材の端っこに細かな凸凹をたくさん削り出していく。その手つきは迷いがなくて、まるで頭の中に最初から完成した形が見えているみたいだった。


「ベルタ。木。ここ押さえるです」

「うん!」


おにいさんに呼ばれて、わたしは喜んでそばに駆け寄った。

おにいさんが削った木と木を組み合わせると、まるでパズルみたいにカチッと噛み合う。だけど、それだけだと手を離したときに、バラバラと崩れてしまう。


「穴。入れるます」

「こう?」


手渡された乾いた硬い木のピンを、隙間にそっと差し込む。そして、近くにあった平らな石で、トントン、と軽く叩き込んでみた。

すると、不思議なことが起きた。さっきまでグラグラしていた二本の木が、まるで最初から一本の大きな木だったみたいに、がっちりと繋がって動かなくなったのだ。


「すごい! おにいさん、これ、外れなくなったよ!」

「はい。そうです。ベルタ」


おにいさんは嬉そうにわたしの頭を撫てくれた。

毎日、トントン、カチカチと、わたしとおにいさんだけの秘密のパズルは続いた。そうして出来上がったのは、大人何人分もの重さがある、信じられないほど太くて長い一本の組み木の丸太だった。おにいさんが踏む側は、薄い板を四角く箱みたいに組んであって、長さのわりに驚くほど軽い。中は空っぽの空洞になっているのだそうだ。それでも、全体としてはわたし一人じゃ絶対に持ち上げられない。


おにいさんは、家の太い柱のすぐそばに、二つの頑丈な杭を床深くへと打ち込んだ。その杭の間に、真ん中にぴったり穴を合わせて作った組み木の丸太を通し、ちょうど天秤みたいに、ゆらゆらと動くように支えた。


丸太の先には、おにいさんが小脇に抱えて持ってきた、丸くて大きな、ずっしり重い石が括り付けられている。その下の地面には、深い穴が掘られていて、大きな木の切り株をくり抜いた器が、ぴったりと埋め込まれていた。


「踏むます」


おにいさんはそう言って、切り株の器の中に、まだ殻がついたままのどんぐりや木の実をたくさん放り込んだ。これまでは、わたしは杵が持てなかったから全部おにいさんがやっていてくれた。とても大変なお仕事だけどお手伝いできなかった。おにいさんが端を踏むと杵が持ちあがって、足を離すと杵が落ちた。


「え、それだけ?」


あれだけ重たい杵が、踏むだけで上がって、落ちて、どんぐりや木の実の殻がくだけた。


「ベルタ。踏むます」


おそるおそる、その上に片足を乗せてみる。あんなに大きな石がついているし、丸太だってあんなに太い。びくともしないんじゃないかと思ったけれど、わたしがぐっと体重をかけると、木がギギィ……と小さく鳴いて、驚くほど軽い力でフワッと反対側の石が持ち上がった。


「わあ……! 軽い!」

「いいです」


おにいさんが頷いている。わたしがさらに体重をのせると、長い丸太が傾いて、大きな石はどんどん高く、天井に届きそうなくらいまで持ち上がっていった。


足を離すと、おにいさんがやった時と同じように、何の引っかかりもなく杵が落ちていく。ぱかんと割れる殻の様子もまるで同じだ。

切り株の器の中を覗き込むと、たった一回で、綺麗にパカパカとはじけ飛んでいた。


「すごい、おにいさん! 殻が、もう剥けてる!」


わたしは嬉しくて、何度も丸太の端に足を乗せては、ぎゅっと踏み込んだ。

踏み込むときは、わたしでも軽々と持ち上がる。一番上まで上げたら足を離す。ドスン!と落ちる。そのたびに、おもしろいほど殻が剥がれていく。おにいさんが手で使っていた杵よりとっても重いはずなのに、全然疲れない。おにいさんと二人だけの静かなお家の中に、心地のいい音が何度も響いた。


わたしは杵で突く係になった。毎日、これを踏み踏みするのが、わたしの新しいお仕事だ。

ただ踏むだけでも楽しかったけれど、毎日やっているうちに、あることに気がついた。おにいさんと拾ってきた森の木の実を、どんぐりもクルミも一緒くたに混ぜて突いてしまうと、なんだか上手くいかないのだ。クルミの硬い殻を割ろうとして何度もドスンドスンやっていると、先に殻が剥けたどんぐりの実が、下の方で粉々に潰れて泥みたいになってしまう。


(あ、これは、種類を分けた方が絶対にうまくいくな)


そう気づいてからは、突く前に、どんぐりとクルミを自分の手できちんと分けるようにした。

どんぐりは、ほんの二、三回、優しく踏み踏みするだけで、おもしろいようにツルンと中身が剥ける。そのあとに、ゴツゴツして頑丈なクルミだけを集めて、今度は上まで高く持ち上げてから、ドスン! と強い力で一気に突く。


そうすると、どっちの中身も潰れずに、きれいに殻だけを取り出すことができた。


どんぐりは、そのまま食べると舌がピリピリしてすっごく渋い。だから、ちゃんと灰汁で火を通して、渋いのを抜くまでは食べない。わたしは渋いのを抜くことができるようになったのでとてもえらいと思う。


でも、ゴツゴツした殻からきれいに取り出せたクルミの白いお肉は、そのままでもびっくりするくらい美味しいのだ。口に入れると、カリッとして、じゅわっと甘くて香ばしい脂の味が広がる。


(ひとつだけ、お仕事のがんばったぶん)


わたしは、おにいさんにバレないように、一番おおきくて綺麗にむけたクルミのかけらを、こっそり口に放り込んだ。もぐもぐと急いで噛みしめながら、足元の板をわざと「ドスン!」と大きく踏み鳴らして、食べる音を隠す。


でも、おにいさんはやっぱり何でもお見通しだった。

がしがしと木を削る手を止めないまま、「ベルタ。クルミ。美味しいです」と、背中を向けたまま静かに聞いてくる。


「……! つ、つぶれちゃったやつを、お片付けしたの!」


慌てて言い訳をすると、おにいさんは小さく肩を揺らして「はい。いいです」と優しく笑った。怒るどころか、そのあと殻をむくために運んできてくれたカゴには、さっきよりも少しだけクルミが多く混ざっていた。


わたしがこのお仕事をすると、おにいさんも少しはのんびりできるのかな。

そう思って、わたしは杵を踏んだり離したりしながら、おにいさんがいる方を見た。


けれど、おにいさんはやっぱり休んでいなかった。

今度は、もっと平べったくて、木目のきれいな板をいくつも運んできて、またがしがしと削り始めている。おにいさんの手元には、真ん丸な、まるで車輪のふちがでこぼこしているものが見え隠れしている。あのギザギザしたでこぼこは、一体何に使うのだろう。触ったら痛そうなのに、おにいさんは愛おしそうに何度も指でなぞっていた。


おにいさんは、一つお仕事が終わると、すぐにまた、違うお仕事を始めてしまう。いつも、遠いところを見るような目で、何かを考えて、忙しそうに動いている。わたしたちが生き残るために、まだ誰も見たことがない新しい何かを、この薄暗いかまどの横で、たった一人で生み出そうとしているみたいだった。


わたしは、ドスン、ドスンと、心地いい重低音を響かせながら、休もうとしないおにいさんの小さい背中を、じっと見つめていた。

次回、花崗岩


【作中技術解説】

組木くみき:ホゾや溝を噛み合わせ、木釘やくさびで固定することで、高質量・高剛性の動的機械へと再構築しています。


唐臼からうす:ベルタ側、作用点の長さを十分に確保して軽い力で持ち上げられるようにしつつ、その内部を中空構造にすることで質量を極限まで削ぎ落としています。これにより、単純な足踏み構造でありながら、足を引くだけで鋭い自由落下打撃を行えるようにしています。


クルミ:多くの野性の木の実はタンニンなどの強いアク(抱合型アシルキナ酸等)を含むため、どんぐりのように長時間の浸水やアルカリ処理(灰汁抜き)を必須とします。一方で、クルミ(クルミ属)の種子は有害な毒素が極めて少なく、生(非加熱)のままで安全に高純度の脂質(不飽和脂肪酸)や良質なタンパク質を摂取できる数少ない貴重なエネルギー源です。

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