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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱灰


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羊にパニア

視点:ベルタ

おにいさんがもたらした「パニア」という単純な道具が、単なる効率化を超えて、精神的な自由を広げていきます。

おにいさんが、柳の枝でまたなにか作り始めた。


「それは何になるの?」


隣に座り込んで、わたしはその手元をじっと見つめた。柳の枝が、みるみるうちに姿を変えていく。


剥がされた皮は前にわたしが紐にした。そうわたしが紐にしたのだ。自分で何かで来るのはなんて素敵なことだろう。


皮を剥かれた柳の棒は、月明かりみたいに真っ白で、つるつるしていた。

おにいさんはそれを丁寧に、同じ太さになるように割っていく。


おにいさんは、縦に並べた白い棒の間に、さっきの紐を交互に通し始めた。

「うえ、した、うえ、した……」

わたしがリズムに合わせて口ずさむと、おにいさんは「ウエ、シタ」と言いながら、編み目をきゅっと引き締める。

白い棒の間を、茶色い紐が縫うように走る。その繰り返しが、まるで冬の間に編む織物みたいで、見ていてもちっとも飽きない。


最初はただの板みたいだったのに、おにいさんが指で形を整えると、それはだんだんと丸みを帯びて、深い「籠」の形になっていった。

でも、不思議な形。


「ねえ、おにいさん。それ、ふたつ作ってるの?」


わたしは思わず身を乗り出して聞いた。

籠なら、村のみんなもよく編んでいる。冬の間に柳で編む籠は、麦を入れたり、摘んだ薬草を入れたりするのにつかっている。

でも、おにいさんが作っているのは、わたしが知っている「籠」とは少し違っていた。


普通、籠は底から上に向かって広がるように編んでいく。

けれど、おにいさんは編み上がった平らな面を、まるで粘土を丸めるみたいに優しく曲げて、深い袋のような形に仕立てていく。

真っ白な柳の筋が、おにいさんの手のひらの中で「ぎ、ぎぎ」と小さく鳴いた。


「これじゃ、背負えないよ?」


わたしは自分の背中を指さした。

村で使う大きな背負い籠は、背中に当たる部分が平らで、肩に掛ける紐がついている。

でも、おにいさんが作ったのは、同じ形の深い籠が二つ。それが幅の広い、丈夫な紐の帯で繋がっているだけ。

これじゃあ、肩に掛けることもできないし、抱えるには大きすぎる。


一つの大きな籠じゃなくて、中くらいの籠が二つ。それが太い帯で繋がっている。


おにいさんが出来上がったばかりの道具を掲げて見せてくれた。

編みたての柳は、森の匂いとお日様の匂いが混ざったような、とてもいい香りがした。


おにいさんがひつじの背中にその籠をひょいと跨がせたのを見て、わたしは目を丸くした。


「これ、ひつじが持つっていうこと?」


ひつじは、背中に急に現れた白い籠に少しだけ耳を動かしたけれど、嫌がる様子もなく「めえ」と小さく鳴いただけ。

最近元気になったひつじさん。いつもは草を食べてふんをするだけだった。でも、荷物を持ってもらうなんて考えたこともなかった。


おにいさんは笑って、空になった水桶を二つ、籠の中にすっぽりと収めた。

それからわたしたちは、一緒に川へと向かった。

わたしはひつじの首をなでながら、隣を歩く。ひつじの首は柔らかくて温かい。


歩きながら、わたしはふと思った。

……もしかして。

お家から川まで、あの重たい水桶を運ぶのは、わたしじゃなくてこの子なの?


桶に半分まで水を入れるだけでも、腕がちぎれそうになるくらい重い。

これまでは、おにいさんが運んでくれていた。もっと昔はわたしがこぼさないように少しずつ歩いていた。お家に着く頃には、足もお腹もびしょ濡れで、腕は棒みたいに動かなくなる。少ししかできないから何度も歩いた。

でも、もしひつじさんが運んでくれるなら。


「……すっごく、楽ちんになる!」


そう気づいた瞬間、なんだか足取りがふわふわと軽くなった。


川に着くと、いつものように水桶に水を汲む。


おにいさんの言う通り、ひつじの背中の籠に、水を入れた桶を一つずつ差し込む。

ひつじが少しよろけたけれど、おにいさんが反対側の籠に手をついて支えてくれた。


最後にもう一度、左右の重さを確かめる。ひつじは、重たそうにするどころか、平気な顔をして草を食んでいる。


お家への帰り道、いつもなら水桶を持つだけで精一杯なのに、今は両手が空いている。

道端に、乾いた枝が落ちているのが見えた。わたしはそれを拾って、籠の隙間に差し込んだ。

あそこの平らな石はおにいさんが前に拾っていたやつに似ている。


「これも持って帰る?」


おにいさんは頷いて羊の籠に乗せた。片方だけだとひつじが傾くので反対側にも適当な石を乗せていた。


ひつじは草を見つけては何度も立ち止まって食んでいたけどまったく気にならなかった。


水を持ってないからわたしは全然つかれない。それどころか、立ち止まるとただ歩くだけだった道にいろいろなものが落ちていることがわかった。


「あ、これも前に拾った石だ」


そういえば、あっちの茂みの根元にも、かまどに入れればよく燃えそうな乾いた枝がたくさん落ちている。


「あっちのも拾ってくる!」


わたしはひょいひょいと軽い足取りで駆け出した。ひつじを見るとまだ草を食んでいる。おにいさんをみると手鎌で草を刈り取っていた、そうかあれもあつめるのか。


お家に着く頃には、ひつじの背中にはお水だけじゃなく、薪や石もたくさん載っていた。

昔は何度も往復しなきゃいけなかったのに、たった一回で、水も汲めたし何でもかんでも気になるものを抱えることもできた。


お家についておにさんが桶を下ろしてくれて、わたしはひつじを撫でた。次は草を食べさせにいかないとね。その時もこの籠を付けていってまた何かを持って帰ってこよう。


わたしは重いものは持てないけど、もっと何でもできるようになる。

次回、腐葉土


【作中技術解説】

パニア:家畜の背の両側に荷を振り分けるための籠。人間が背負う場合、荷重は垂直に脊椎へかかり、関節を消耗させる。しかし四足歩行の羊やロバにパニアを装着すると、重さは四本の脚に分散され、さらに動物の重心に近い位置で保持される。これにより、人間が十数キロの水を運ぶ苦痛から解放され、子供でも「家畜を誘導する」という軽作業で同じ成果を得られるようになる。

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