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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱 灰


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腐葉土

視点:ベルタ


いつもドングリを拾うナラの森で腐葉土を拾い小麦畑にまく。

 水くみの桶を地面に置いたところで、おにいさんがわたしを呼んだ。


「ベルタ。どんぐり。葉っぱ」


 おにいさんはそれ以上は何も言わない。でも、その目は「森に行こう」って誘ってるみたい。


 どんぐりはわかる。拾ってきたどんぐりを、灰を混ぜたお湯で何度も煮るんだ。そうすると、変な渋みが消えて、粉にするととっても美味しいパンやポリッジになる。

 そのままだと豚のエサにしかならないけどこの粉はおいしいから好きだ。


 でも……「葉っぱ」ってなんだろう?

 どんぐりを探すついでに、落ち葉も集めるってことかな。


 ひつじを連れて行くっていうことは、ひつじのごはん?

 でも、ひつじって地面に落ちて乾いた茶色の葉っぱなんて食べたっけ。いつもはもっと青い草をムシャムシャ食べてるよね。

 いや、そういえば食べていたな。あまり思い出したくない冬の話だ。

 雪が深くなって、地面の草が全部白く隠れちゃったとき。お父さんが、物置の隅に溜まっていた枯れ葉を、藁に混ぜてひつじたちに食べさせていたっけ。

 あの時のひつじたちは、今みたいに元気じゃなくて、骨が浮き出るくらい細くなって……。お腹を空かせて、仕方なくカサカサの葉っぱを噛んでいた。それを見ているのは、なんだか胸がチクッとして、すごく悲しかったんだ。


 でも、おにいさんが今、道ばたの乾いたナラの葉っぱを差し出すと、ひつじは「待ってました!」って感じで、自分から首を伸ばしてムシャムシャ食べた。

 無理やり食べさせられていた冬とは、全然ちがう。おやつを食べているみたいに、尻尾を振って喜んでる。


「わあ、食べた……! ひつじさん、枯れ葉も好きなんだね」


 ひつじが枯れ葉を食べている間におにいさんは何かをするようだ。


 おにいさんは、ナラの木の下にしゃがみこむと、そこに溜まっている真っ黒な場所を指さした。

 それは、ずっと昔に落ちた葉っぱが重なって、じっとりと湿っている場所だった。


「これ……土なの? それとも、葉っぱ?」


 わたしは思わず顔を近づけてのぞき込んじゃった。

 見た目は真っ黒い土みたいだけど、指先でつつくと、ボロボロに崩れた葉っぱの形がかすかに残っている。でも、普通の土よりずっと軽くて、森の奥の匂いがぎゅっと詰まったような、不思議な匂いがする。


 おにいさんは何も言わずに、その「よくわからないもの」を両手いっぱいにすくい上げた。そして、それをわたしたちが持ってきた柳の籠の中に、大切そうに詰めていく。


「おにいさん、そんなの集めてどうするの? 泥んこ遊びじゃないんだよね」


 わたしが聞いても、おにいさんは「ふふん」って鼻歌をまじえて笑うだけ。

 でも、その黒い塊をかき分けていると、たまに「ころん」と硬いものが顔を出すんだ。


「あ、どんぐり!」


 湿った黒い葉っぱの中から、つやつやしたどんぐりが出てくると、わたしは宝探しを見つけたみたいに嬉しくなっちゃう。これはあとでお鍋でコトコトして、わたしたちの美味しいごはんになる大事なもの。


 どんぐりはわたしの小さなポケットへ。

 よくわからない黒い葉っぱの土は、大きな背負い籠へ。

 おにいさんは、ひつじの籠にもそれを山盛りにして、そのままわたしたちの小麦畑へと向かった。

 この黒い土は、見た目ほど重くはない。石を運ぶときみたいに肩にずっしり食い込むわけじゃないから、最初は「楽勝だよ!」なんて思ってた。でも、いざ歩き出すと……これがもう、本当に大変!


 とにかく、かさばるの。

 私の背中よりも大きな籠に山盛りにしても、中身がふわふわしてるから、ちょっと歩くたびにカサッ、ポロッて籠の隙間からこぼれそうになる。それを落とさないように、背中を丸めて歩かなきゃいけない。


「おにいさん、これ、羽毛を運んでるみたい。重くないのに、歩きにくいよー!」


 前を歩くひつじさんのパニアも、黒い土がてんこ盛り。ひつじさんも、いつもの重たい荷物とは勝手が違うみたいで、なんだか足元を気にしながら、ひょこひょこ揺れて歩いてる。

 大きなカゴを背負ってると、森の細い道を通るたびに木の枝に引っかかりそうになるし、風が吹くとふわっと舞い上がりそうになる。まるで、背中に大きな「黒い雲」を背負って歩いているみたいな気分。


 おにいさんは、畑に着くと籠をひっくり返して、その「黒い塊」を地面にバラバラとまき始めた。

 わたしはそれを見ながら、足元の土をじっと見つめて考える。


 どんぐりは、わたしたちが食べてお腹をいっぱいにする。

 カサカサの枯れ葉は、冬にひつじが食べて元気をもらう。

 ……じゃあ、このよくわからない「黒い葉っぱの土」は、小麦さんが食べるのかな?


「ねえ、おにいさん。小麦さんも、お腹がすくの?」


 わたしが聞くと、おにいさんはまく手を休めて、畑の土を指でトントンと叩いた。

 わたしたちの畑の土は、お日様に照らされてちょっと硬くなっているけれど、おにいさんがまいた黒い土が混ざると、そこだけ色が濃くなって、しっとりとしたお布団みたいに見える。


 そういえば、小麦も、いつも一生懸命に根っこを伸ばしているよね。

 あの根っこがお口なのかな。

 そうすると黒い土を、目に見えないくらい小さな口で、もぐもぐって食べているのかもしれない。

 そう思ったら、なんだか畑全体が、大きなお口を開けて待っている生き物みたいに思えてきた。


「どんぐりは、わたし。枯れ葉は、ひつじさん。黒い葉っぱは、小麦さん。みんな一緒だね、おにいさん!」


 みんな誰かから宝物をもらって、大きくなっていくんだ。

 そう思うと、かさばって運ぶのが大変だった大きな籠も、なんだか急に「いいもの」に見えてきた。


 おにいさんはわたしの言葉を全部はわかっていないみたいだったけど、わたしの顔を見て、満足そうに頷いた。

「ヤー。ベルタ。グート」


 おにいさんがそう言って笑うと、わたしも嬉しくなっちゃう。

 よーし、小麦さんがお腹いっぱいになるように、また森へ行って「黒いご馳走」をたくさん運んでこなくっちゃ!

次回、炭化チャンバー


【作中技術解説】

腐葉土:広葉樹の落葉が微生物によって分解されたもの。保水性と通気性に優れ、土壌の物理性を改善します。

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