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螺旋の乙女 〜乳白色のセラミックパンク〜  作者: 麻澱灰


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賦役とサボりのアルゴリズム

視点:ハンス


農民にとって、領主から課せられる「賦役(労働による納税)」は、生活を圧迫する最大の懸念事項でした。

自分たちの生活を守るための「農民の知恵」として、彼はサボりの極意を伝授しようと試みます。

今日は最悪の日だ。領主の直営地での賦役の日。

村の男たちがゾロゾロと集まる中、俺は隣に立つ「黒くて黄色い男」を横目で見た。こいつ、あんなに詰め詰めで自分の仕事をこなしているくせに、賦役にまで真面目な顔をしてついてきやがった。


「おい、いいか、お兄さん」

俺は、鎌を砥ぐふりをしながら、低い声で釘を刺した。

「あんまり真面目にやるんじゃねえぞ。ここで『できる』って思われたら、来年はもっときついノルマを押し付けられる。適当にサボらねえと、後々自分の首を絞めることになるんだ。……ま、言葉が通じてるか怪しいが、俺は教えるべきことは教えたからな」


監視の兵士がこちらを向いた。俺は瞬時に「ベテランのモード」に切り替える。

「見ろ、これが俺の磨き抜いた技だ!」


俺は大げさに腰を落とし、顔を真っ赤にして踏ん張り、力いっぱい鎌を振り上げた。

ザシュッ! と鋭い風切り音。だが、実際に刈り取ったのは地面から浮いたスカスカの枯れ草数本だけだ。土を叩かず、石を避け、筋肉に負荷をかけない完璧な「空振り(No-Op)」。

監視が目を離した隙に、俺は鎌を杖にして、遠くの雲を眺めながら鼻をほじった。これが賦役を生き抜くための、農民の知恵――いわば「空実行のループ」だ。


ふと横を見ると、お兄さんが俺を見ていた。

「……ダンケ、ハンス」


男が、少しだけ口角を上げて笑った。

こいつが笑うのを初めて見た。まるで、俺が教えた「サボりの設計図」の中に、とんでもない最適化のヒントを見つけたような、不気味な笑みだった。


「……ッ!?」

次の瞬間、俺は自分の目を疑った。

お兄さんが鎌を構えた。俺の動きを一度見ただけで、完全にトレースしていやがる。


お兄さんは、俺よりもさらにダイナミックに、まるで戦士が剣を振るうような華麗な予備動作を見せた。

誰が見ても「なんて熱心に働いているんだ!」と感動するような完璧なフォーム。

だが、振り下ろされた鎌の先が、地面スレスレでピタリと止まる。

刈り取られたのは、たった「一本」の草だけ。


残りの力はすべて慣性で逃がし、最小限のエネルギーで「働いているフリ」を最大化している。

一を刈るために百の動作を見せる。それも、俺みたいにガサツじゃなく、機械みたいに正確なリズムで。


こいつ、一度で覚えやがった……!

それも、俺の技をさらに洗練リファクタリングして、より「高効率なサボり」に昇華させてやがる。


監視の兵士が「あいつは感心だな」と言いたげにうなずいているのを見て、俺は背筋が寒くなった。

こいつは化け物だ。

新しい道具を作るだけじゃない。

この村に何百年と受け継がれてきた「サボり」という伝統芸能すら、一瞬で解析して自分のライブラリに組み込んでしまった。


俺は怖くなって、慌てて自分の「空振り」に戻った。

隣で、黒髪の化け物が、美しい動作でたった一本の草を刈り続けていた。

次回、賦役の残滓と収集


【作中技術解説】

賦役ふえきと労働生産性のジレンマ:中世初期の農民にとって、生産性の向上は必ずしも幸福に直結しませんでした。技術革新によって収穫量が増えたり作業が早まったりすると、領主側が「余力がある」と判断し、さらなる徴税や過酷なノルマを課すことが一般的だったからです。ハンスのサボタージュは当時の農民が過度な搾取から身を守るための、合理的かつ普遍的な自己防衛策と言えます。

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