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指パッチン練習してたら魔法が出るようになりました  作者: Naoya


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7/22

【7話】 「体育祭と勝利のスナップ」

九月の空は、思った以上に高くて青い。

 雲ひとつない晴天——体育祭日和ってやつだ。

 私はクラスTシャツにハーフパンツ、そして背中には「2-B 桐生《きりゅう》」のゼッケン。

 日焼け止めをこれでもかと塗りたくって、午前の競技を終えたところだった。


「ひかり、午後はリレーだろ? バトン落とすなよ」

「落とす前提やめてくれない?」

「だってお前、去年のドッジボールでボール持ったまま転んだじゃん」

「あれは事故!」


 湊《みなと》は笑いながら水筒を差し出す。

「ほら、水分補給しとけ。走る前に脱水とかやめろよな」

「ありがと……」


 何気ないやりとりなのに、こうやって世話を焼かれると少しだけ心が温かくなる。

 けど、それを顔に出したら負けな気がして、私は水を飲み干して無理やり話題を切った。


⸻


 午後のリレーが近づくと、クラスの空気が引き締まってきた。

 私はアンカー。湊《みなと》は第一走者。

 運動神経が特別いいわけでもないのに、このポジションになった理由は「雰囲気が速そう」——ほんと、人を見る目ないよね、このクラス。


「アンカーってさ、めっちゃ目立つじゃん」

「うん、だから絶対転ぶなよ」

「縁起でもない!」

「大丈夫。俺が一位で渡すから、お前はそのままゴールまで逃げ切れ」

「……それ、フラグじゃないよね?」


 スタート地点に並んだ湊《みなと》の背中が、妙に大きく見えた。

 ピストルが鳴る——パンッ!


⸻


 第一走者の湊《みなと》が走り出す。

 地面を蹴る音、観客席からの声援、風を切る音。

 湊《みなと》はカーブを鋭く抜け、トップでバトンをつないだ。

 第二走者、第三走者と、クラスメイトたちも必死に走る。


 そして、バトンは私の手に。


「ひかり!」

 湊《みなと》の声と同時にバトンを受け取った瞬間、心臓がドクンと跳ねた。

 ——パチン。


 足元の靴紐がギュッと締まる感覚。

 背中を押すような追い風が吹く。

 思わず体が前に飛び出していた。


(速い……!)


 足が驚くほど軽い。地面を蹴るたびに、体が浮くような感覚。

 コーナーを抜け、一直線のゴールが見えたとき——


「いけーーーっ!」

 クラスの歓声が耳を打つ。最後の一歩を踏み込み、ゴールテープを切った。


⸻


「やったな!」

 息を切らせながら振り返ると、湊《みなと》が笑ってハイタッチしてきた。

「……うん、たぶん」

「たぶんって何だよ」

「いや……なんか風がすごかった気がして」

「そりゃ走ってたら風くらい吹くだろ」


 そう言われても、あの追い風は普通じゃなかった。

 でも、ここで“魔法かも”なんて言ったら大騒ぎになる。だから黙っておいた。


⸻


 結果発表。

 2-Bは総合3位だったけど、リレーは見事1位。

 クラス中が盛り上がる中、かえでがスマホを片手に駆け寄ってきた。


「ひかり! これ見て!」

 画面には、ゴール直前の私の写真。髪が大きくなびき、背中のあたりから白い砂埃のようなものが舞っている。

「なにこれ……」

「奇跡の瞬間! まるで風が押してるみたいでしょ? これSNSにあげよ!」

「やめて! お願いだから!」

「もう遅い。#2Bの追い風ってタグつけたから」

「かえでぇぇぇぇ!」


 その日から、私の知らないところで“奇跡のアンカー”なんて呼ばれるようになった。

 嬉しいような、困るような——そんな体育祭だった

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