【5話】 「雨の日のパチン」
朝からしとしと降り続く雨。
湿気のせいで、栗色のショートボブはいつもよりうねって扱いづらい。前髪を何度直しても、すぐにぴょんと跳ねてしまう。鏡を見るたびにため息だ。
「雨の日ってさ、髪の毛だけじゃなく、魔法も変わったりしないかな」
教室に入るなり、かえでがニヤリと笑ってきた。
「やめてよ、そんな実験みたいなこと」
「だってほら、科学的にも湿度って静電気に影響するんでしょ? 魔法にも影響あるかもよ?」
「……魔法が科学って言われても」
でも、内心ちょっと気になった。
授業中、こっそり指を構える。
パチン——。
……音は鳴ったのに、何も起きなかった。
「ほらね、湿気に弱い」
後ろからかえでの小声が飛んでくる。
やっぱり、昨日までと全然違う。魔法が“出ない”感覚が妙に心もとない。
⸻
放課後。
傘を持っていなかった私は、湊と相合傘で帰ることになった。
「ほら、ちゃんと入れ」
「入ってるってば」
「肩、びしょ濡れじゃん」
「……これは湿気で広がっただけ」
冗談半分で言い返しながら、歩幅を合わせる。
アスファルトに落ちる雨粒の音が、妙に心地いい。
ふと、魔法のことを思い出す。
「……試してみてもいい?」
「何を?」
「魔法」
「今?」
「湿気の中だとどうなるか」
「……お前さ、俺の傘の中で暴走とかやめろよな」
「しないって」
私は湊の横で、そっと親指と中指を合わせた。
パチン——。
その瞬間、傘の内側に小さな光の粒がふわっと現れ、ゆっくりと漂った。
蛍みたいに瞬く光が、透明なビニール越しに雨粒と混ざって見える。
「……今の、魔法?」
「たぶん」
「きれいだったな」
湊の声が、雨音に溶けるように優しく響く。
その笑顔を見て、心臓が一瞬跳ねた。
……湿気のせい、だよね?




