【19話】「忍び寄る影」
幻視の一件から数日が経った。
私はまだ胸の奥で揺れていた。湊に頼りたい気持ちと、蓮の忠告に応えたい気持ち。どちらも本物で、どちらも捨てられない。
(……自分の答え、見つけなきゃ)
そう思いながらも、学校生活はいつも通りに過ぎていった。授業、休み時間、部活の声。普通の日常のはずなのに、どこかで緊張が抜けない。自分の中で「また魔法が暴走するんじゃないか」と警鐘が鳴り続けていた。
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放課後。昇降口で靴を履き替えていると、不意に背中から声をかけられた。
「桐生ひかり、だよな?」
反射的に振り返ると、見知らぬ上級生が二人立っていた。三年生らしく制服の袖口がゆるく、髪型も校則ぎりぎり。表情には余裕と挑発が混じっている。
「えっと……はい」
「この前の文化祭、見たぜ」
にやりと笑う片方が続ける。
「小道具が勝手に浮いたやつ。あれ、お前の仕業だろ?」
「……っ!」
背中に冷たい汗が伝う。喉がからからになって言葉が出ない。
「面白いことできるんだな」
「なあ、ちょっと手伝ってくれよ。うちの部の出し物で“目玉演出”をやりたいんだ。お前がいれば簡単だろ?」
淡々とした口ぶりなのに、逃げ場を塞ぐような圧を感じる。
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「それは……」
断らなきゃ。わかってる。でも、声が震えて出てこない。
“利用される”という危険が頭では理解できても、体がすくんで動けなかった。
彼らは私の沈黙を見て、さらに顔を寄せる。
「協力してくれるよな? 俺たちも困ってんだよ」
「お前なら、誰にもバレずにできる。な?」
足が震えた。指先が勝手にパチンの形を作りそうになる。
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「ひかり!」
鋭い声が廊下に響いた。
振り向くと、湊が駆けてきた。
私の肩を強く引き寄せ、二人の上級生を睨みつける。
「お前ら、何してんだ」
「別にぃ。ただのお願いだよ」
「お願いって顔か? 脅してんだろ」
湊の低い声に、二人は肩をすくめる。
「断るなら断るでいいさ。俺たちはちょっと“力”を借りたかっただけだからな」
そう言い残し、挑発的な笑みを浮かべたまま廊下を去っていった。
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取り残された私は、足の震えが止まらなかった。
湊は黙っていたが、やがて私の方を向いて言った。
「だから言ったろ。危ないんだって」
「……ごめん」
「謝るな。けど、もう一人で抱えるな」
その声は優しかった。でも胸が痛む。
私はまだ、自分でどうすればいいのか答えを見つけられない。
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その夜。
布団に横になっても、上級生たちの言葉が耳に残っていた。
「目玉演出」
「お前がいれば簡単だろ」
魔法を面白半分で利用しようとする人が現れる。
それがどんな危険を呼ぶか、想像するだけで息が詰まった。
そして思い出す。
——湊の「俺が守る」という声。
——蓮の「自分で立て」という忠告。
二つの声が頭の中でせめぎ合い、心臓が痛いほど鳴る。
(私……どうすればいいの?)
答えはまだ見つからない。けれど、逃げてばかりもいられない。
カーテンを開けると、夜空に小さな星が瞬いていた。
「……自分で、選ばなきゃ」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥でかすかに光が灯った気がした。




