【18話】「風の幻視と揺れる心」
放課後の教室。窓の外はすでに夕闇が迫っていて、蛍光灯の白い光がやけに冷たく感じられた。
私はひとり、机に座ったまま指先を見つめていた。
(……どうしたらいいんだろう)
湊に支えられて安心する自分。
蓮の「自分で考えろ」という冷たいけど真っ直ぐな言葉。
二つの想いが頭の中でせめぎ合い、答えが出ない。
「頼ってばかりじゃダメ。でも、一人で抱えるのも怖い……」
呟いた瞬間、指が無意識に動いた。
——パチン。
乾いた音が教室に響き、空気が一瞬ざわめいた気がした。
次の瞬間、窓の外に見慣れない光景が広がっていた。
⸻
そこは、風に吹かれる草原だった。
夕焼けに照らされ、金色の草が波のように揺れている。
でも、ここは学校の中のはずだ。私は息を呑んだ。
「……幻視?」
視界の奥に人影が現れる。
ひとりは湊。いつものように笑って手を差し伸べてくる。
「大丈夫だ。俺がいる」
その笑顔に胸が温かくなる。指先が自然と伸びそうになる。
けれど、反対側には蓮が立っていた。
腕を組み、真っ直ぐな視線で私を見据えている。
「桐生、自分で立て。甘えてばかりでは何も変わらない」
その言葉に胸がチクリと痛む。
⸻
足元の草原がざわめき、風が強く吹いた。
二人の声が交互に頭の中に響く。
「俺が守る」
「自分で選べ」
「支えてやる」
「一人で立て」
両腕を引かれるような感覚に、呼吸が乱れる。
心臓が早鐘を打ち、視界が揺れた。
「やめて……どっちも正しいのに、選べない……!」
叫んだ瞬間、風が爆発するように吹き荒れた。
草原がかき消され、視界が真っ白になった。
⸻
気がつけば、私は教室にひとりで座っていた。
机の上のノートが床に落ちて、ページがばさばさと舞っている。
幻じゃなかった――魔法が暴走して、私の心を映し出したんだ。
胸に手を当てる。
そこには確かに、二つの気持ちが同時に存在していた。
湊に頼りたい気持ち。
蓮の忠告に従って強くなりたい気持ち。
そのどちらも、私の本心だった。
⸻
ノートを拾い集めながら、私は小さく呟いた。
「……どっちかを捨てるんじゃなくて、きっと私にできる答えがあるはず」
まだ見つからない。けど、探さなきゃ。
そう思った瞬間、胸の奥の不安が少しだけ軽くなった。
窓の外に目をやると、夜空に小さな星が瞬いていた。
まるで「自分で探せ」と言われているみたいに。




