【12話】「夕暮れの告白」
放課後の昇降口。文化祭準備でちらかった教室を後にして、私は上履きを脱ぎかけて止まった。昇降口のガラス戸の向こうで、背の高いシルエットがじっとこちらを待っていたからだ。
「……湊?」
夕暮れの橙色が差し込み、彼の輪郭を縁取っている。少し乱れた黒髪、肩で揺れる制服のジャケット。真剣な眼差しの中に、不器用な優しさが混じっている。
「遅かったな」
「ちょっと片付けしてたから……」
そう言い訳しながらも、内心は胸が熱くなっていた。なんで待ってるの、なんでそんな顔するの、って。
二人で並んで歩き出す。まだ準備の音が残る校舎から離れ、夕方の風が髪を撫でた。歩幅を自然に合わせてくれている湊に、気づくと指先が少し震えていた。
「なぁ」
「……なに?」
「この前のこと。もう、隠さなくていいんじゃないか?」
心臓が跳ねた。喉がきゅっと狭まる。
――この前のこと。それって、私がうっかり見せちゃった魔法のことだ。
「い、いや、それは……」
言い淀む私の視線を、湊はまっすぐ受け止めてくる。沈黙が落ちた。すれ違う生徒の足音が遠ざかり、聞こえるのは自分の心臓の音ばかり。
「もうバレてる。俺、見たからな」
優しい声。追い詰めるんじゃなく、ただ認めてくれている声だった。
「……でも、怖くない?」
「は?」
「だって、私、普通じゃないんだよ。指パッチンしたら教科書が浮いたり、消しゴムが飛んだり……。そんなのおかしいでしょ?」
声が震えた。今までずっと抱えていた不安が、堰を切ったみたいに零れる。
けど、湊は少しだけ笑って、歩みを止めた。
「おかしいか? 俺は……面白いと思ったけどな」
「……え?」
彼は振り返り、私の頭にそっと手を置いた。指先が髪をかすかにすくい、体温がじんわり伝わる。
「ひかりはひかりだろ。魔法が出ようが出まいが。昔からそうだ。俺にとっては……そのままでいい」
胸が詰まる。言葉にならない。私は思わず視線を逸らし、赤く染まる夕空を見上げた。
気づけば、指先がむずむずしていた。感情が溢れると、魔法が勝手に反応する。パチン――。
次の瞬間、夜の訪れを告げるように、ふわりと光の粒が舞い上がった。まるで蛍の群れみたいに、二人の間を漂う。
「……きれいだな」
湊の声が低く響く。光に照らされた横顔は、どこか大人びて見えて、私は思わず見惚れてしまった。
「魔法も……」
言いかけて、彼は少し言葉を選ぶように沈黙した。喉仏が上下する。
そして、勇気を振り絞るみたいに続けた。
「……魔法も、お前も。俺は嫌いになんてなれない」
世界が止まった。息ができない。
顔が一気に熱くなる。胸がぎゅっと締め付けられて、どうしようもなく恥ずかしい。
「な、なに言ってんのよ、ば、バカッ!」
思わず叫んで、顔を隠すように前に走り出した。後ろで湊が「おい、待てって!」と追いかけてくる声が聞こえる。
でも振り返れない。今の顔を見られたら、もう絶対戻れない気がして。
足音が重なる。肩が触れ合いそうな距離。
心臓はまだドキドキしていて、でもそのリズムが不思議と心地よくて――。
夕暮れの通学路に、二人の笑い声が混じった。




