【10話】 「中間試験と“無音のパチン”」
期末の足音が聞こえてくる頃、中間試験の範囲が発表された。
私は教室でプリントを見つめながら、思わずうめき声を上げる。
「数学と英語の配点高すぎ……」
「お前、試験のたびに同じこと言ってるな」
後ろから湊の声。席を回り込んで、プリントを覗き込んでくる。
「そりゃそうでしょ。去年も数学で赤点ギリギリだったんだから」
「じゃあ、勉強会だな。放課後、図書室で」
「ええ……」
「嫌ならまたテスト中に魔法暴発してもいいけど」
「やめて! それだけは絶対に!」
あの小テスト事件を思い出して、私はぶんぶんと首を振った。
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放課後の図書室。
机の上には教科書とノート、そして湊が持ってきた大量の問題集。
「ねえ、これ全部やるの?」
「当然だ」
「鬼畜……」
勉強を始めてしばらくすると、私はふと思いついた。
——音を立てないパチンができれば、試験中にこっそり魔法を使えるんじゃないか?
いや、もちろん悪用する気はない。
でも、無意識に鳴ってしまうのを防ぐために、音の有無をコントロールできれば安全だ。
「湊、ちょっと実験していい?」
「また魔法?」
「そう。今度は音を立てずにやってみたいの」
「……図書室で?」
「静かだからこそ練習になるじゃん」
私は親指と中指をそっと合わせ、力を抜く。
——すっ……。
音はしなかった。でも、机の上の消しゴムがわずかに揺れた。
「お、動いたな」
「ね、ね! 成功じゃない?」
「まだ弱いけどな」
その後も何度も試して、だんだんと動きが安定してきた。
湊は横で笑いをこらえながら、ノートに「無音パチン=微弱発動」とメモしている。
「なんか研究者みたいだね」
「まあ、研究対象はお前だけどな」
「言い方!」
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翌日。試験本番。
私は深呼吸して席につき、問題用紙をめくる。
一問目、解けた。二問目もまあまあ。
でも三問目で手が止まる。焦りがじわっと広がる。
(落ち着け、落ち着け……)
右手の指先に意識を集中させる。
——無音パチン。
机の端に置いてあった鉛筆が、そっと転がって手元に戻ってきた。
小さくガッツポーズを決め、再び問題に向かう。
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試験が終わったあと、昇降口で湊に報告した。
「ねえ、今日ね、試験中に——」
「おいおい、またやらかしたのか?」
「違う! 音を立てないでできたんだよ」
「……それ、試験中にやったのか?」
「……はい」
「お前……まあいいや、成功おめでと」
湊は呆れたように笑い、それから真顔になった。
「でもさ、音を消せるってことは、悪用もできるってことだ」
「……うん」
「だから、その線引きはちゃんと自分で決めろよ」
「わかってる」
その言葉は、まるで釘を刺すように私の胸に残った。
便利さと危うさが、同時にそこにある。
魔法をコントロールするって、そういうことなんだと初めて実感した。
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夕暮れの空は、少しだけ冬の匂いがした。
私は胸の奥で、小さく新しい決意を固めていた。




