7.5 三界記
天より降り来たりし『創神の星槍』より放たれたる闇炎、古の王国とその周辺とを悉く焼き尽くしけり。
国一つを滅ぼしたるかの大火ののち、三柱の始祖神は各々己に近しき人々を伴ひて、滅びたる故国を離れにけり。
至高の始祖神レウカリアは、東の大地に赴く。
物質の始祖神ケルスは、地上を離れて天に昇り、雲居の上にあまたの島々を造りて、その一つに居を定めたり。
されども、闇炎の始祖神ヴァルダロスは、しばし焼け野原となりたる故国に留まる。
――闇炎も絶え、黒き焼野のみ残れる古き王国の跡に、大火を逃れてなほ命を保てる人々あり。
彼らは、身は炎に焼かれてすでに死ぬるべけれど、魂のいと強きゆゑに、焦げたる骸を離れず、なほその内に留めり。
かの闇炎神、かかる者どものうち、命の残りたる者には、魂魄を荒ぶらせ、その身にもとより備はりたる力を悉くあらはさしむ。
また、すでに死したる者には、骸を離れんとする魂をふたたび肉に結びて起たしめたり。
かくして、生ける者より生まれしものは、のちに魔族と呼ばれ、死してなほ起ちし者は、不死族と呼ばるるに至りけり。
されども、そのかみもつひにはその地を去り、ふたたび立たしめたる人々を従へて、遥か南の大地へと下りにけり。
かくして、三柱の始祖神は、東と天と南とに分かれ、各々その地に神国を建てり。
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東に至れる光神レウカリア、己が身に宿れる原初の神光を、己が身にのみ留めざりき。
かの御神はまづ、親しき者を召し寄せ、その身に宿れる神力の多くを分かち与へ給ひけり。
神力を受けたるかの人々は、人の身を脱し、老いも死も遠ざかり、凡人の及ぶべくもあらぬ力を具へて、つひに神となりぬ。
これぞ、後の世にレウコス神族と呼ばるる神々の始まりなり。
また、かの光神、民のうちにも神力を授けらるる者を、いくばくか置き給ひけり。
かの人々は神にはあらねど、人の身の限りをはるかに超ゆる力を得て、神々に仕ふる神使とぞ呼ばるる。
国土広まるほどに、その恩寵もあまねく民草に及び、人々は老いず、病まず、つひには死すら稀なる世となりにけり。
人々は林を伐り、野を墾き、道を通し、村を建て、荒ぶる獣どもを次々と退け、その住まひを遠き地へ広げゆきけり。
その昔、人は獣を恐れ、谷川や険しき山々に隔てられて、所々に分かれて暮らしけれど、この時より、散り離れたる人の地は初めて相連なり、一つの広き人の世をなしたり。
かくてレウコスの至高の神国はいよいよ栄え、人々は長き命と豊かなる糧とを得て、神々の庇護の下に安らかに暮らしけり。
――また、天に昇れる物質の始祖神ケルス、地上を広く治めんとは思はざりけり。
ケルスは雲居よりも高き天にあまたの島を造り、その一つに居を定め、己に親しき人々のうち、数少なき者にのみ神力を分かち、これをグウェルの神々となせり。
されど、かの神々は地上に下りて国を広げず、人の世をも治めず、天上の島々に籠りて暮らし、他の二神族と交はること稀なりき。
――南へ下れる闇炎の始祖神のなしたるところは、二柱のそれとはいたく異なりたる。
かの畏き神は、己が内に燃ゆる原初の闇炎を余人に分かつことを厭ひ、その力をただ己が身にのみ留め置きけり。
ゆゑに、これに従ふ者らは、レウカリアに仕ふる人々のごとく神とはならざりき。
されど、ただ人のままにも捨て置かざりけり。
闇炎の始祖神は神力を分かち与ふることなく、従ふ者らの魂魄をただ荒けくなし、魔族と不死族を次々と生ましむ。
かの闇炎神は、これらをつぶさに治むることを好まざりき。
下衆がいづこに住み、何を食らひ、たれと争ふとも、その多くを顧みざりけり。




