2. 養父からの期待
休みの日になると、養父マルティヌスはよくガラヌスを自分の仕事場へ連れていった。
軍営に併設された厩舎には、騎士のための軍馬が数百頭も繋がれていた。
ガラヌスはそこで飼葉を運び、馬房の藁を替え、毛を梳き、蹄についた泥を落とした。仕事を覚えるにつれて、手綱の扱い方や鞍の付け方も教えられ、やがてガラヌスも自分で馬に跨がるようになった。
ガラヌスが初めて自力で馬に跨った際、マルティヌスは驚愕するとともに、その週はずっと機嫌を良くしていた。
――厩舎のすぐ近くには騎士たちの訓練場があった。
馬上で槍を構えて標的へ突進する者。木剣を打ち合わせる者。鎧を身につけたまま何度も落馬し、そのたびに土を払って立ち上がる者。
魔族・邪神の侵攻から大天国を守らんと、魔族・邪神が支配する領域を大天国の元へ還さんと、彼らは日々、必死に稽古をさせられていた。
マルティヌスは仕事の合間を見つけてはガラヌスをそこへ連れていき、兵士の動きをよく見て覚えるように言って聞かせた。
また、マルティヌスは実際にガラヌスに木剣を持たせ、手取り足取り剣術を教えた。マルティヌスの剣技は、本職のそれと比べれば稚拙なものであったが、ガラヌスはその剣技の良いところだけを吸収していった。
後にはマルティヌスが教えてもない盾術までも自然と扱うようになった。
ガラヌスの身体が大きくなるにつれ、マルティヌスはガラヌスに槍も握らせ、突き方、構え方、間合いの取り方を何度も繰り返させた。
実は、養父自身が若い頃に騎士を憧れていたらしい。
だが、彼が騎士を目指そうと思った頃には、すでに農業科で馬の飼育と調教を専門に学んでいたそうだ。そのまま軍馬の調教師となり、結局、自ら武器を持って戦場へ出る道を選ぶことはなかったらしい。
だからこそ、ガラヌスには騎士になってほしいと考えていたのだろう。
「大天国を守る騎士」に。
あわよくば「栄誉の叙勲」を受け、ワリニウス・ピウス家初の「傑人」の当主となってほしかったのだろう。
そして実際、ガラヌスもまた、その期待に応えられるだけの素質を持っていたのだ。
彼は、大抵のことにはすぐに慣れた。初めて習う動きでも、何度か繰り返せばじきに要領を掴み、独自の運用を編み出した。
さらに、一度失敗した箇所があれば、剣でも槍でも、次には修正することができた。
マルティヌスが彼に費やす時間は次第に長くなっていった
兄や姉たちにもそれぞれ進路があったが、父がとりわけ熱心に面倒を見るのはガラヌスだった。
――期待されていることは、ガラヌス自身が一番よく分かっていた。
養父の期待を裏切りたくないとも思っていた。
だが同時に、その期待が積み重なるほど、自分が別の道を選ぶ余地が少しずつ狭くなっていくようにも感じていた。
皮肉なことに、戦闘の才に反して、彼は人を傷つける術を学ぶことについて深い意欲を持たなかったのである。
――十三歳の年。
ガラヌスは神盾大管区高等学校の軍事学部・騎士学科を受験し、首席で合格した。




