LOG.9|お仕事ですので|03 / 20
ミカを送り届けたあと、
俺はしばらく運転席で固まっていた。
香水の香りだけが残っていた。
今すぐ、
車内から消したい香りだった。
俺がタバコでも吸ってりゃ、
今、タバコ吸いまくって、
この嫌な香りを相殺してやるのに!
…吸ってればよかったな。
ーーー
翌日…
LINEは空白のまま。
現実が追いつくまで時間がかかった。
施術中でも、
港で笑ったあの横顔ばかり浮かんだ。
仕事を終えて、
店を閉めて、
夜風の中でひとりになった時。
いてもたってもいられず…
マスターの店に電話をかけた。
シン
『やっほ』
『ミカさ、最近来てる?』
マスター
『お、なんだシンか。』
『ミカ、来てねぇぞ?』
『撮影の日程は決まったんだろ?』
シン
『あ、うん…』
マスター
『なんだよ…?』
『撮影前にまた一緒に呑みたいってか?』
シン
『いや、まぁ…』
『そんなとこだよ』
マスター
『うちの店で会うならいいけどよ』
『二人で会うなよ?』
『約束は守れよ?』
シン
『わかってるよ…』
『またな、マスター』
マスター
『おい、いいのか?』
『俺から連絡してみるか?』
シン
『あぁ、いや、いいんだ。』
『大丈夫…』
『ホントに深い意味はないんだ』
『なんとなく、撮影前にさ、』
『改めて呑んだ方がいいのかなって』
『そう思っただけだよ』
マスター
『そうか、わかったよ』
『またいつでも呑みにきてくれよ』
『またな』
電話を切った瞬間、
肩に岩が乗ったように
ズシンと重くなった。
マスター、ごめん。
全部言えるはずがない…。
ーーー
それから数日後…
施術の片付けが終わった頃。
スマホの通知が、鳴った。
画面を見ると、
消えたはずのLINEが
ひとつだけ復活していた。
違う。
復活じゃない。
新規トーク。
でも名前は、ミカのまま。
開くと、
数行のメッセージ。
ミカ
『インスタ撮影の件ですが、』
『こちら、お仕事ですので伺います』
『日程は3月20日でよろしいでしょうか』
絵文字もない。
呼び捨てもない。
“わんちゃん”もない。
でも…来るんだ。
仕事だけは切らない。
でも感情は切る。
そのミカの矛盾した距離感。
でもそんなことはどうでもいい。
シン
『お久しぶりです』
『はい。その日で大丈夫です』
『よろしくお願いいたします』
既読だけつき、返信なし。
そして、撮影の日が、近づく。
ミカに会えると思っただけで、
目に入るもの全てが綺麗に見えた。
店の蛍光灯でさえ、
街の街灯でさえ、
イルミネーションに見えた。
そんな気分だった。
俺は、
覇気を取り戻した。
そして
3月20日が、近づく。
早く、ミカに会いたい…!




