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不倫の神様  作者: 天狗
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10/70

LOG.10|2人のミカ|MIKA ≠ MEI









ミカと予定していた、撮影の日が来た。



3月20日。




時間ぴったりに、

店の前へ白いワンボックスが

滑るように止まった。


スライドドアが開く。


ミカが降りてきた。





…ん?



ミカ…だけじゃない?






その後ろから、


カメラマン、照明、メイク、

レフ板を持ったアシスタント、

機材持ち…。




プロの現場そのもの、


みたいな集団が、

次々と降りてきた。




金属の三脚が広がる音が、

店の空気を一瞬で現場に変えた。






シン

「えっ…?」





ミカ

「撮影のサポートです。」

「アタシが呼びました。」

「請求の料金は変わりません。」

「ご安心ください。」





ヒールの音を

コツ、コツと響かせて

俺の横を素通りする。



モデル料なんざ、

高くなっても どうでいい。


ただ、

ミカとの間に、

唐突に壁ができた気がした。



…そっちのほうが気になる。






クルーたちが一斉に会釈してくる。



その瞬間、

俺の店は完全に

メイの現場になった。








メイというのはミカのモデル名だ。


占い師につけてもらったらしい。




本名のミカは

限られた人間しか知らない。


ミカは表向き、

SNSも仕事も全部、

メイでやっている。






レンズを向けられた瞬間、

メイが全てを乗っ取り、

ミカが姿を消した。



港で牡蠣を食べてた少女と

同じ人間とは思えない。







ミカはクルーに囲まれ、

メイクされ、

ライトを当てられた。



その一瞬で、


目の温度がゼロになった。



表情は綺麗。

動きは優雅。

声も柔らかい。



なのに、

人間味が全部消えている。


まるで

違う生き物みたいだった。








クルー

「じゃあ来店シーンからー!」

「メイちゃん、次はこっちねー!」

「はい可愛い、メイちゃんそのままー!」







撮影は容赦ないテンポで進む。


ミカは俺にほとんど話さない。

必要な確認はクルーが聞きに来る。







クルー

「ここ使っていいですか?」

「背景はこちらの壁、借りますね!」

「施術シーンは照明どうしますか?」







それに対して、


俺が1つずつ返答すると、







クルー

「じゃあメイ、それでいくよ」




とクルーがミカに確認をとる。






ミカは…無言で頷くだけ。











ミカがクルーを呼んだ理由は、

プロ意識…だけじゃない…。






それくらいは、伝わる。






なんて、不器用なヤツなんだ。




ミカ、

お前は俺に似ている。







ーーー







撮影が終わった。





クルー

「ありがとうございました!」

「もし他にもお仕事あれば、」

「今後ともよろしくお願いします!」






と、電話番号を交換した。






ここで、

電話番号を交換したことを

俺は後から後悔することになる。



この時はまだ知らなかった…。







クルーが車に荷物をまとめ始め、

帰ってしまう雰囲気だったので、


俺はミカを引き止めた。





シン

「あの…ミカ、ちょっとだけ…」






ミカ

「メイ。です。」




目すら合わせてくれない。


氷製の槍みたいな声だった。





シン

「あ…あの、」

「ごめん……色々。」






ミカは、

ほんの一瞬だけ横目で俺を見た。


その一瞬…

心なしか、嬉しそうに見えた。



すぐに視線を逸らす。



また無表情に戻る。




その0.5秒の揺れに、

ミカの全部が詰まってた。






くるっと振り返るミカ。







クルー

「メイちゃーん、荷物積みますねー!」

「もう出ますよー!」






車のほうからクルーが呼びかける。






ミカ

「はーい!」





顔だけ、こちらに向けて

横目で俺を見るミカ。





ミカ

「じゃ、また。」





淡々。

氷製の槍を突き刺してくる。





クルーの車へ向かい、

”ミカの香り”が薄くなった。






ミカは車に乗ってすぐ、

俺にLINEを送ってきた。



ポン、と通知が鳴いた。









ミカ

『フォレスト来て。』









前と同じホテル。




体の血液が一気に巡った。






俺は…許されたのだろうか?




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