LOG.7|ろくなもんじゃねぇ|Didn't you see it?
海からの帰り道の車内。
助手席のミカは
窓の外を見て、何も話さない。
ミカの思考が読めない…。
そんな時は
ミカの足を確認する。
足は…
パタパタしていた。
よし。
なら大丈夫だ。
すると、
赤信号で
車が止まった瞬間、
ミカが、ぽつりと言った。
ミカ
「ねぇシン。」
「ちょっと、疲れちゃった。」
その声は、あまりに自然だった。
ミカが
フロントガラスの向こうを指差した。
ミカ
「ねぇ、あそこ。」
「“休憩”って書いてあるよ?」
その建物は、
間違いなく“そういう場所”だった。
休憩4時間3800円。
シン
「え、まじで?」
「だってアレって、」
「ラブ、」
ミカ
「変な意味じゃないよ?」
こちらを横目で見ながら微笑む。
ミカ
「アタシ疲れたって言ったでしょ?」
「ただ休みたいだけ。休憩。」
少し間をあけて、
わざとらしく付け足す。
ミカ
「アタシに触ったら殺すけどね?」
シン
「…え?」
ミカ
「良いこと思いついた!」
口角をクイッと上げるミカ。
この顔のミカは
ろくな提案をしない…。
ミカ
「休憩する時さぁ、」
「条件つけようか。」
「シンがアタシに触ったら…」
「アタシもう、シンと会わない。」
「連絡、全部ブロックする。」
「だから4時間、我慢して?」
ほらな…。
ろくなもんじゃねぇだろ…。
シン
「無理っす。」
ミカ
「ちーなーみーにー!」
「アタシからシンに触るのはアリね!」
シン
「まった!異議あり!」
「頭イカれ過ぎです!」
「あまりに理不尽!」
ミカ
「やだ!異議なし!」
「ダメ!アタシからは触る!」
「だからアタシに触るの我慢して?」
「ね?ね?」
心底楽しそうなミカ。
楽しそうなミカ見るのは嬉しい。
でも、
触るなは無理だろ…
このゲームは断らないとマズイ…
ミカ
「ほら、曲がって〜。」
「シン、早く。疲れたの。」
「曲がんなさいよ、ほらぁ。」
「返事は ”わん”でしょ~?」
その声音は甘いのに、
逆らえない圧があった。
俺はブレーキを踏み、
ウインカーを出しながら言った。
シン
「…じゃあ、ちょっと休憩だけ。」
ミカ
「うん、休憩だけね?」
「んふ♡」
その笑い方は、
どう考えても、
休憩だけで済む顔ではなかった。
ーーー
ミカは部屋に入るなり、
黒ワンピを
ひょいっと落として
キャミソールになった。
ミカ
「歩き疲れた~。」
肩のライン、ウエスト、脚。
全部が、
“一点物の彫刻”みたいで、
しかも胸元の
見えてはいけない先端部が、
時折、チラッと覗く。
ミカ
「シャワー浴びよぉっと」
そう言って、
バスルームのドアを閉めずに、
半分だけ開けておくミカ。
その隙間から、
こちらを指さして、
ミカ
「見たら殺すからね!」
「絶対見るなよ〜?」
…シャアァァァァ
水音。
きらきらした湯気。
濡れた髪の影。
シャアァァァァ
半分開いたドアから、
見える寸前、が漂ってくる。
普通の男なら覗く。
それでも俺は覗かなかった。
どうしても…
ミカに
会えなくなるのがイヤだった。
ここで終わるわけにはいかない。
だから俺は、
ありったけの全パワーを、
理性との戦いに全投入した。
シャアァァァァ
天井を見て、拳を握りしめて、
息を止めて、
ミカの影を見ないようにした。
少し離れたシャワー室から、
シャンプーの香りが漂ってくる。
シャアァァァァ
…覗きたい。
それでも俺は、
ベッドのシーツを握りしめて、
歯を食いしばって我慢した。
シャアァァァァ…
キュッ
シャワーの音が止まった。
バタン!
勢いよくドアが開いた。
バスローブ姿で戻ったミカは、
タオルで髪の毛を拭きながら、
ベッドで耐えてる俺を見た。
目を見開いて、
驚いた顔をしていた。
ミカ
「アンタ…」
「……見なかったの?」
怒りでも呆れでもない。
“信じられない”
と
“約束を守った嬉しさ”
が混ざっていた。
やるじゃねぇか、
と聞こえてくるくらい
ミカは目をキラキラさせていた。
舐めんじゃねーぞ、ミカ。
この4時間、生き残ってやる。




