LOG.56|ミカ|Change the world
何度だって、やり直せる。
生きている限り、
人は変われるチャンスがある。
そう、何度だって。
その頃の俺は
仕事に命を燃やしていた。
整骨院の予約は常にパンパン。
昼飯はほぼ食えず、
スタッフと共に
大量の客をさばき続ける。
汗だくでヘトヘトなのに、
なぜか楽しくて仕方なかった。
口コミは勝手に増える。
金も増える。
その頃は確かに伸び盛りだった。
「シンさん、凄いですね!」
「オーナー!今日も満枠ですね!」
「シンさん」
「シンさん」
皆が、
俺を褒めてくれる。
俺は、
この街を獲った気でいた。
ふん。
バカが、二度と逆らうな。
この無意味な自信と傲慢が
俺の原動力だ。
誰よりも偉くなりたい。
俺の人生は、最高の人生なんだ。
ーーー
仕事の終わりは
だいたい夜10時すぎ。
仕事でパンパンになった頭を、
バーカウンターでリセットする。
そのルーティンが好きだった。
街灯の下を歩きながら、
胸の中はウキウキしていた。
リュウトと
ダーツでもしよっかな、ってね。
ーーー
カウンターのいつもの席につく。
別に時間を指定しなくても、
勝手にリュウトがいる。
このバーは俺達のアジトだ。
シン
「おす」
「お前…ベロベロじゃねーか」
リュウト
「うぃ~」
「もう呑んでるぞ~」
俺が席についた瞬間、
少し離れた席からチンピラと女が寄ってきた。
なんだ?
やっちまうぞ?
と、思った矢先…
チンピラがピシッと気をつけをした。
チンピラ
「リュウトさんご馳走様でした!」
「お先失礼します!」
リュウト
「お、帰んのかぁ~」
「もう外で喧嘩すんなよ、お前?」
「酒と女はシャバでしか出来ねーぞ」
チンピラ
「うっす!」
チンピラと女がバーから出た。
カランコロン
シン
「…なにあれ?」
「めちゃくちゃガラ悪いな…」
リュウト
「ああ、この前揉めて仲良くなったガキ」
「デス君って呼んでんだ」
「ウケんだろ?」
シン
「なんでそんな名前なんだ?」
「だっせーあだ名!」
「女もブッサイクだしよぉ~」
リュウト
「だろ?見る目ねぇよなぁ~」
「ギャハハ!」
フラフラしながら、
グラスの残りを飲み干すリュウト。
いつもよりベロベロか…?
まぁ、関係ねー。
いつも通りテキーラ呑ませてやる。
マスター
「お、シン来たか」
「リュウトに呑ませすぎんなよ?」
「さっきから呑まされて大変なんだ」
「ほれ麦焼酎。」
コトッ
シン
「あざす」
マスターの店は、
住宅街の中にぽつんとある。
情報の中心地だ。
マスター自身は、
60歳とは思えないイケおじで、
街のことを何でも知っている。
酒場のマスター、そのものだった。
シン
「なぁマスター」
「俺インスタ伸ばしたいんだ。」
「なんか、モデルの知り合いとかいない?」
マスター
「モデル? 珍しいこと言うなぁ」
「何言ってんだお前?」
「ほらリュウト、フライドポテトおまち。」
コトッ
リュウト
「あざっす!」
「うまそー!」
リュウト、若干復活。
シン
「マスター、ガチだって!」
「店も伸びてきたし…」
「撮りたいんだよ、インスタで映える動画」
「で、何万再生もブン回してさ!」
「社長として目立ちたいんだ!」
「そんでモテまくってよ…っと!」
言いながら俺はダーツを投げた。
ズギューンと
ダーツの機械が音を鳴らす。
リュウト
「は!?」
「またBULLかよ!」
シン
「はっはー!」
「1800奢りなリュウト!」
「マスター!」
「テキーラ2つ!」
マスター
「あいよ」
マスターが
カチャカチャとテキーラを出す。
リュウト
「またテキーラ…」
「さっきデス君と呑み対決したのに…」
マスター
「頑張れリュウト…。」
コトッ
コトッ
マスターが
リュウトの前に優しく
テキーラを置いた。
マスター
「でよぉ…シン」
シン
「ぷはぁ!」
「え?なに?」
マスター
「整骨院でモデルって…」
「微妙じゃねぇか?」
シン
「わかってねぇなぁ!」
「電気ビリビリを撮るんじゃねぇ」
「筋トレを始めるんだよ」
「ビジネスとしてな!」
マスター
「ほう」
シン
「今は怪我とか事故だけどよ」
「結果ばっか直してもダメだ。」
「何故、怪我や事故があるのか?」
「で、根本改善として運動よ。」
「やっぱ運動しないとダメだ。」
「ってことで筋トレコースだ。」
「まだ金額は決めてねーけど!」
マスター
「お前……」
「意外と考えてんだな…」
シン
「舐めんじゃねーぞ!」
「俺だって仕事は真面目だ!」
「で?モデルだよ!」
「いねーのか?モデル!」
マスター
「あ、あぁ…」
「いや実はよぉ…」
「遠い親戚がモデルなんだよ」
「恋愛リアリティショー出てたんだよ。」
「番組名は、忘れたけどな」
シン
「マジで!?」
「いんじゃねーかよ!」
「紹介してくれよ!」
「乳デカイ!?」
マスター
「お前なぁ…!」
「中学生かよ、脳みそ!」
「最初の質問がそれかよ!」
「それよりも顔だろ普通…」
「美人だぞ、見てみろ。」
その瞬間だった。
マスターがスマホを取り出し、
画面をこちらに向けた。
そこに写っていたのは、
事務所の宣材写真の
完璧すぎるほど綺麗なミカだった。
息が止まった。
正直に言う。
この時、
「綺麗だ」とか
「タイプだ」とか
そういう感想は出てこなかった。
ただ、
はっきり思ったことがある。
久しぶり。
早く会いたい。
早く触れたい、喋りたい。
何故か、
懐かしい感じがした。
初めて会った気がしない。
やっと会えたような、感覚。
マスター
「どうだ、ビビったろ?」
「多分安くモデル出来るぞ?」
「どうすんだ?」
シン
「あ、あぁ」
「えっと……」
ダメだ。
思考が回らない。
マスター
「…なぁ、シン」
マスターが
カウンターにスマホを置く。
マスター
「ちょっと聞け…」
「この子、俺の親戚なんだけどな…」
「モデル撮影するなら…」
「少し、条件がある。」
ピー
マスター
「撮影以外で会うな」
「連絡も俺を通せ」
「直接交換は禁止だ」
「ミカの事務所は管理が厳しい」
「頼むぞ、シン。」
ピー
シン
「……あぁ」
ピー
マスター
「条件守ってくれるなら…」
「今、ここに呼んでみるぞ?」
「LINEしてみるか?」
ピー
マスター
「…リュウトのスマホか?」
「なんか病院みたいな音だな…」
ピー
シン
「…さっきから、うるせぇ!」
リュウトのスマホが、
アラームを鳴らしていた。
勝手にオフにしておいた。
音がキモくて、
なんか凄く、嫌だったから。
シン
「とりあえず、呼んでくれ。」
マスター
「……ったく。」
「LINEしてみるぞ」
なんか…リュウト喋らねぇな?
ふと、リュウトを見ると
カウンターで潰れていた。
どうりで、
あの音で起きないわけだ……。
シン
「お、おい!」
「リュウト!やべーぞ!」
「モデルが来るぞ!」
「聞いてん、」
リュウト
「うぷ」
リュウトが
派手にリバースした。
シン
「うぎゃあ!」
間一髪、
ギリギリで俺は回避した。
今から
美人モデルと会うのに
汚れてたまるかよ!
マスター
「バカ!」
「無理するからだ!」
マスターが慌てて
カウンターから飛び出した。
その時、
置きっぱなしのスマホは
ミカを写したままだった。
それにしても…
ドストライクだ。
懐かしい感じは…
もしかしたら、
顔がドタイプなだけ…
なのかも…しれない!
今から会えるのか……!
こんな美女と……!
機嫌が良くなった俺は、
掃除を手伝うことにした。
シン
「手伝うよ、マスター」
マスター
「おい……!」
「やめろ、雪が降るぞ!」
シン
「ふざけんな!」
「俺だってやるぞ!」
「ちゃんと反省してなぁ、」
リュウト
「うぷ」
リュウト、
2度目のリバース…
せず!
リュウト
「んぐっ」
「ぐぅ………」
シン
「また寝た…。」
「…ふぅー!」
「ヒヤヒヤさせやがって」
マスター
「シン…」
「起きたらブチ切れとけ…!」
シン
「ぎゃはは!」
「任せとけマスター!」
引き続き、
2人で床を拭いた。
ミカが来るまでに、
掃除を完璧にしないと……!
早く……
早く会いたい……
ミカ…!




