LOG.30|有名って、なに|Wave,Mika
港を出て、
俺達は夕方の海へ向かう。
ハンドルを切るたび、
ミカは少しずつ静かになっていった。
でも、助手席で
足のパタパタだけは速くなる。
ミカの足は、感情を隠せない。
楽しみな時は、動く。
シン
「ねぇメイさん、」
「さっきの、よくあるの?」
ミカ
「ん~?」
外の景色を見ながら、
返事をするミカ。
シン
「さっきの、写真とか」
ミカ
「あぁ…」
「あるよぉ…。」
こっちを向かずに、
答えるミカ。
ミカ
「…だから、なに?」
足のパタパタが、
ピタッと止まった。
シン
「え、い、いや」
「深い意味はないよ」
「なんとなく、さ。」
「知らない世界だから…」
「す、凄いなぁ~って…」
ミカ
「…そ。」
なんか…
これ以上、
深掘りされるのはイヤそうだ…。
…やめとこう。
シン
「う、海!」
「海、楽しみだね!」
ミカ
「…ぷ!」
「あはは!」
「バカじゃないの!」
「不器用すぎだよ!」
よかった…!
笑ってくれた!
結果オーライ!
ーーー
海に着いた瞬間、
ミカは背伸びして、
深く息を吸った。
ミカ
「……海の匂いってさ、」
「なんか、落ち着くよね。」
さっきの無邪気な声じゃない。
どこか、
ふわりと力が抜けた声だった。
そのままミカは、
ふっと砂浜に駆けていく。
両手を広げ、
少女のように走った。
ミカ
「わぁ~!」
「海だぁ~!」
シン
「ちょ、転ばないでね!」
ミカ
「つめたっ!」
「でも……気持ちい〜」
ーーー
しばらくして、
ミカは俺の方へ振り返った。
夕日を背にしたその姿は、
もはや神聖にさえ見えた。
ミカ
「ねぇシンー!」
ててて、と
小走りで俺を迎えに来るミカ。
ミカ
「あっち、歩こ?」
「あの堤防のところ!」
俺の袖を、ちょん、と引く。
人がいない端の、
堤防の方へ歩くと、
海の音だけが響いた。
ザザーン…
ザザーン…
ミカ
「今日ね、」
「ずっと楽しみにしてたんだ〜」
ザザーン…
ミカ
「美味しい牡蠣も食べれたし…。」
「海も来れたし…。」
「何も考えないで済むから…」
「とっても楽しかった。」
「シンとも会えたし。」
「……でもさ、」
ザザーン…
ザザーン…
ミカ
「やっぱシン、落ち着く。」
「本当に、会ったばっかなのかな?」
シン
「えっ」
ザザーン…
ザザーン…
その横顔は、
不自然なほど静かだった。
ミカ自身が
言葉の重さに気づいてなかった。
シン
「え、えっと、」
ふいに、
ミカが俺の手を取った。
ためらいのない指。
ミカ
「…あったかい。」
「ねぇ、エスコートして?」
「歩いて?」
シン
「う、うん……」
…その再会みたいな違和感、
ちゃんと、返事したかったよ。
少し歩いたところで、
ミカは急に立ち止まり、
俺の胸にガバッと顔を埋めた。
ミカ
「今日、ありがとね。」
その声は笑っているのに、
どこか哀しかった。
少女みたいな無邪気さと、
壊れかけた大人の不安が、
ぐちゃぐちゃに混ざっている。
ミカ
「ねぇシン……」
「ミカのこと、どう思ってる?」
「懐かしい、以外でね。」
問いただすためじゃなくて、
確かめるための声。
返事を待たずに、
強く俺の胸を掴む。
ミカ
「ミカのこと嫌い?」
ザザーン…
ザザーン…
シン
「……嫌いじゃないよ。」
俺なりに、
一所懸命ひねりだした、
傷つけないオブラートの言葉。
その瞬間、
ミカはふっと息を吐いた。
短く、呆れたように。
ミカ
「アンタ…」
「しぶといのね…」
なんだかミカは悔しそうだった。
きっと、
他の男は
あっという間にデレたんだろう。
しかし、
俺は基本的に、他人に興味が無い。
そういう意味では
簡単には転ばない男かもしれない。
ミカは胸から離れて、
海風で揺れる髪を
耳にかけながら振り返る。
さっきまでの無邪気なミカじゃない。
魔性のミカの目。
夕日が沈む海を背に、ミカは歩き出す。
その横顔は…
やっぱり俺には、悔しそうに見える…。
ミカ
「よし。帰ろっか。」
俺は、
海を背景にしたミカに見とれていた。




