LOG.29|どこでも輝く|Fan
港に着いた瞬間、
潮の匂いと、
魚の焼ける香りが混ざった、
独特の海の空気が広がっていた。
ミカ
「到着~!」
「わーい港だー!」
嬉しそうに車から降りるミカ。
初めての場所なのに、
風景のほうが
ミカに合わせて後ろへ下がっていく。
まるで、
この港の主役みたいにそこに馴染んだ。
まぁ…
よく考えたら、
インフルエンサーだもんなぁ。
何万人もフォロワーいるし…。
そりゃそうか。
シン
「にしても…」
「月曜なのに随分混んでるなぁ」
ミカ
「そりゃそうでしょ!」
「だってここ、めちゃ有名、」
女の子
「あの!」
ミカ
「え?」
女の子
「メイちゃんですよね!?」
ミカ
「あ、えっと…」
「うん、そう…」
女の子
「きゃぁ~!」
「恋リア見てます~!」
「インスタ、フォローしてます~!」
ミカ
「え~!」
「応援ありがとうございます!」
ミカが、耳打ちしてきた。
ミカ
「シン、集まる前に…」
「牡蠣の屋台行くわよ」
行くんかい。
ミカは、
慣れた様子で、
ファンと写真を撮って、
牡蠣の屋台へ直行した。
屋台で牡蠣を食った瞬間、
ミカは子供みたいに無邪気になった。
ミカ
「……うまっ!」
「やっぱ最高…!」
俺は、
正直早く帰りたかった。
男の子
「あれ…恋リアの…」
女の子
「ねえ…あの人って……」
ミカが目立ちすぎるのだ。
あまりに芸能人すぎて
周りがジロジロと眺めている。
ミカは俺の袖を
ちょこんと掴みつつ歩く。
港のざわざわが次々と、
ミカの背景になっていった。
ーーー
牡蠣も食べ終わって、
屋台をいくつか回り、
満足した空気になったところで
俺達は車に戻ろうと歩き出した。
シン
「よーし……」
「ぼちぼち帰るかぁ~」
その時だった。
ミカ
「おい!」
「約束は!?」
シン
「え?」
ミカ
「海!」
「海だよ!海!」
「何忘れてんのよ!」
だんっ、と
地面を踏むミカ。
港のざわざわした空気の中で
響き渡るほどの声量だった。
ま、また目立っちゃう……!
マズい……!
シン
「あ!」
「ごめん!そっか!」
「ご、ごめんね!」
子供がデパートで
親の袖を掴むみたいに、
ミカが小さく俺の腕を引く。
ミカ
「絶対忘れてると思った…!」
「帰りたそうだし…。」
「デート、嫌そうだし…。」
「ミカ、ホントに大事なの…海。」
「海見ると元気出るの。」
その言い方があまりに自然で、
わがままというより、
本音が溢れた瞬間に聞こえた。
シン
「……分かった、行こう。」
ミカ
「……うん!」
そうして俺たちは、
港から少し離れた海へ向かった。
ミーハーの群れから逃げるように。




