09
雨ばかり降っていてあの日、プールにいっておいてよかったという感想になった。
もしなにも遊んでいない状態でこれだったらきつい、夏休みなのに微妙な状態で過ごしたくはない。
それでも、家にいたら退屈な時間になってしまうからと外に出てきている状態だった。
普段はほとんど利用しない公園のベンチに座って考え事をしている。
地味に雨音がいい方に働いていた、家でもこうなることは変わらないのにやたらと落ち着く。
「あと三十分ぐらいは――りとか」
少し離れている状態でも分かった。
「りよさんに教えてもらってここに来たんだ。隣、いいかな?」
「うん」
課題ももう終わっているだろうから流石の勉強好き君でもダレたか。
まあ、少しぐらい役に立っていればいいと思った。
「雨ばかりだね」
「そうね」
「でも、こうしてすぐ会える場所にゆまさんがいてくれるのはありがたいよ」
「はは、どちらにしても外にいるけどね」
雨が降っているからなのか嫌になるぐらい暑くないのもここに繋がっている。
ただ、昔ならこんなことはしていなかった。
出かけることはできていなくても自然と他の誰かといられたから本当の一人の時間が欲しかったのだろうか。
「出会った頃からなにかと気にかけてくれているわよね」
「それはゆまさんじゃない? もこだけじゃなくて僕のところにも来てくれるからさ」
「あ、そうかも」
「はは、でしょ?」
ほとんどないとはいえ、もこが暴走した際に彼の存在は必要だった。
でも、いまとなっては友達としていてほしいからでしかない。
同性のもこに言うのとは違って異性の彼には言いづらいことだが……言うか。
「あんたは友達よ、これからもいてちょうだい」
「それは寧ろ僕が頼みたいことかな、卒業してからも一緒にいてほしい」
「ま、遠くへいったりしなければ余裕よ」
「うん、ありがとう」
あ、いや、もことは違うというのは嘘だったか。
最近はもこにだって言えていないことが多すぎる、距離感が近いからこその難しさがあるのだ。
それなのにもこときたらどんどんと……あれだと勘違いしてもおかしくない内容なのに。
「ゆまさんにお願いしたいことがあるんだ」
「なに?」
「もこの好意を受け入れてあげてほしい」
「はは、なんだ、てっきりあんたに告白をされるかと思ったわ」
「告白か」
なんてね、ないない。
「あのまま踏み込んでくると思う?」
「どうだろう。でも、最近の必死な感じを見るに、このまま終わらせるつもりはないんじゃないかな」
「なにを焦っているのかしらね」
「来年になったらゆまさん達も最終学年、つまり三年生になってしまうからじゃないかな」
冬なら分からなくもないものの、まだ八月だから仮にそういう気持ちがあるとしてもゆっくりやればいいのにとしか考えられない。
「あ、お腹が……」
「あんたもしかしてなにも食べていないとか?」
「うん、さっきまでお勉強をしていたんだ」
「や、なんでそれでここに来ることになるのよ」
結局、想像通りだというのも微妙だった。
なんかもう少しぐらい……そう、それこそ人の応援をしていないで自分も気になる異性とやり取りをしすぎて~みたいな風になってもらいたい。
「ちゅ、中途半端な時間だったし、それになんか急にゆまさんが作ってくれたご飯を食べたくなった……からかな」
「それなら帰るわよっ、軽くでいいならなにか作ってあげるわ」
「ありがとうっ」
うん、これならもこぐらい貰えなければ駄目だろう。
別にもこから逃げていたというわけではないが、今日もちゃんと一緒に過ごさないといけない。
あの距離感から一転、ゼロになったら精神的に終わる。
「ふふん」
「どうしたの?」
家に帰ったらリビングにもこがいた。
でも、上げたであろうりよがいないのが意外だ。
お客さんがいる以上、どんなにしたいことがあっても優先してしまいそうなのに。
「結局、心は正直、すぐにお家に帰ってきた」
「りとが急に来てね」
「お兄ちゃんを公園までいかせたのも僕」
「え、それならもこが来れば二人きりだったじゃない」
「あ……」
いまはご飯を作るか。
にしても、こんなことが当たり前になったなあ。
中学を卒業したぐらいのときは大丈夫なのかと心配になっていたぐらいなのにもこ達が引っ越してきて変わった。
心配しすぎで終わるか、中学のときみたいにまたなにかやらかして落ち着かない毎日になると考えていたのに――あ、いや、ある意味では落ち着かない毎日になっているが、それでもこれならいいどころか遥かにいい毎日だ。
「これはお兄ちゃんのせい」
「はは、人のせいにしないの。それに、りとがお腹空いたーって言ってきていなければいまここにはいないのよ?」
「なら……勝手に公園にいったゆまのせい」
「んーそれは別に外れているわけでも――って、だから人にせいにするなー」
『公園にいってくる』としかメッセージを送らなかったからこんなことになっているのか。
今度は軽くでも責められないように『いく?』という言葉を追加しておこうと決めた。
「いい天気ね」
やはり晴れの方が好きだ。
気持ちのいいぐらいの快晴なのでりよともこを誘って出かけることにした。
連絡先を知っているわけではないからみこの家に突撃して、可能そうならみこも含めた四人で遊びたい。
「りとさんはいいんでしょうか……」
「午前中が一番集中できると言ってたからゆまは邪魔をしたくないだけ」
「そ、そうですか」
帰るときはなにかお土産でも買おうか。
そうすればまた柔らかい表情で「ありがとう」と言うはず、もこからということにしておけば完璧だ。
「僕達が着く前にみこが出てきた」
「どこかにいく予定でもあるのでしょうか?」
無理なら無理と言ってくれればいい。
近づくと「こんにちは」と挨拶をしてくれたから返した。
「なんかこう……隈部さんが来る気配が伝わってきて出てきたんです」
「格好いい、僕にもそういう能力があってほしい」
「でも、先輩が来てくれたら似たような状態になりますよね?」
「確かに、みこは偉い」
天気がいいからお店にいってしまうのはもったいないか。
ん-だけど「運動をしましょう」と言っても格好的に向かないと。
「ということでみこも仲間」
「あ、はい」
「でも、これだけお天気がいいのにお店にいってしまうのはもったいない」
あ、こういうところかな? みなまで言わなくても分かってもらえる感じ。
「今度は海にいく」
「正直、この前はりとさんがいて恥ずかしかったので今回はもう少しぐらい気にせずに遊べると思います」
「え、そういうの気になるんだ」
「みこさんは大きいからですよ……」
「え、大きいのはりよさんだと思うけど」
……涙目になってしまう前に、それと広げられてもダメージを受けるばかりだからやめさせた。
まあ、こういう日にはいいか。
水着なんて持ってきていなかったから一旦帰って捕ってきて、またすぐに集まった。
先頭はもこに任せ、今日こそ最後尾を一人で歩いていく。
幼く見えても先輩のもこと、後輩なのにしっかりしているりよとみこ。
会話に参加したらいい雰囲気を壊してしまうからこの距離が最適だ。
「セルフ仲間外れは駄目」
「なによその言葉、初めて聞いたわよ」
「ん、だってゆまみたいな子しかしないことだから」
それこそしっかり組のりよとみこはしてしまいそうだが。
しかし、ここで必死になると意地を張ることは確定しているので合わせるしかない。
「あの二人、いい感じ」
「だからあんたも空気を読んでいるって言いたいの?」
「違う、あれを見ていたら僕もゆまと楽しく歩きたいと思った」
「はは、私好きすぎか」
「好き」
あ、ちょ、これ以上刺激しないようにしないと。
なんとかスイッチが入らないように努力し、問題なく少し離れた海までやって来られた。
「日焼け止め塗ったわよね?」
「ん、いっぱい塗った」
「ならよし。りよは――なんか近づきづらいわね」
なんか私達よりもよくやれているような……。
あともう少し時間があれば「みこさんが好きなんです」とか相談を――いや、りよのことだからそのまま告白をしてしまうかもしれない。
みこは元々ここにいたわけで、私の父が再婚したことで運命の相手がやって来てくれたということなのか。
私がなにかできたわけでもないのに少し嬉しくなった。
「最悪、別れることになってもいい」
「二人が納得したらね」
と、言い終えた後に目の前までやって来たみこは腕を組む。
ああ……益々強調されて……。
「勝手に解散にしようとしないでくださいね」
「僕らが気にしなくても二人だけになればイチャイチャできるから?」
「はい? どこをどう見たらイチャイチャしているように見えるんですか?」
「そうですよもこさん、私達はただお友達らしくいるだけじゃないですか」
「二人とも無自覚とは……やれやれ」
あと、腕を組むのをやめてくれたのはいいものの、何故私は腕を掴まれているのか。
引っ張られ願望とかないよ? しかも、普通に歩いているだけでやばいよ。
「先輩も変な勘違いをしていませんよね?」
「でも、りよと仲良くなれたわよね、私はそれが嬉しいわ」
「仲良くなれたことは確かにいいことですが……なに目線なんですか」
「姉……?」
「まあ、先輩みたいなお姉さんがいてくれたら……楽しくなるんじゃないですか?」
いや、そういうお世辞を言ってもらいたいわけではないのだ。
私が含まれていたら一人でにやにやできないだろう。
「先輩、少しじっとしていてください」
「うん――うぇ」
「さあっ、みんなのところに戻りましょう!」
おいおいおーいっ、なんだあの後輩ちゃんは……。
でも、マイナスからプラス云々への話で言えばこちらもそうだよなあ、と。
みんなが見えるところまで移動して砂の上に座った。
「ゆまさん、誘っておきながら休む気満々なのはどうかと思いますよ」
「ちゃんと見ておくから安心しなさい」
「だーかーらーっ、参加してほしいと言っているのが分からないんですか!?」
「わ、分かったわよ」
なんでだ……。
私なんかを気にせずに遊んでいるもこを見習いなさいよマジで。
そもそも、泳ぐ気がない私が水着なんか着ていてどうするのかという話。
「さっき、みこさんとなにか変なことをしていましたよね」
「転びそうになったところを支えて――」
「抱きしめられましたよね」
近い近い。
分かっているのに最初は分からなかったフリをするところが質が悪い。
「前に住んでいた場所でもゆまさんみたいな人はいたんですよね、自然と年下の子に気に入られてしまう人が」
「ありがたいことね」
「……外にいるときはもこさんのゆまさんでいいですが、お家にいるときは私のゆまさんですから」
「はは、私でいいならだけど」
「笑っている場合じゃありません」
わあ、ここにも私ガチ勢がいたかーとでも喜んでおけばいいのか……?
「りよさーん!」
「いまは合わせなければならないのでいきましょう」
「そうね」
ではない。
というか、なにもしなさすぎて背中が滅茶苦茶暑く感じてきた。
この状態で汗をかかないというのは不可能だ、だから水に触れることにした。
だが、触れたら触れたで冷たく感じるという難しさがそこにある。
「ゆま、プールと海ならどっちが好き?」
「んープールの方がいいかもしれないわね」
「それなら夏休みが終わる前にもう一回いきたい」
「まあ、また一年お預けになるんだから二回ぐらいいってもいいのかもね」
そうすれば今度こそ私は見ていられる。
「あ、そういえば私は外にいるときはもこのらしいわよ」
「お家でもそう」
「んー流石にそれはりよに怒られるわよ」
「りよもみこも関係ない、ゆまは僕の」
確認してみるとりよとみこは少し離れたところに座って話しているだけ……。
自分から出しておいて一人で困っているアホがここにいた。




