04
「もう始まりますねっ」
「そうね」
「ん」
なんでだ……。
出会ったときと同じように入口のところで遭遇したでもないのにこうなっていた。
二人きりがいい的なことを言っていたりよ的にこれは気になることではないのか?
それとも、口にしてしまったことを後悔する前にもこが来てくれて寧ろありがたいぐらいなのだろうか。
あと、同性同士で恋愛映画を観るのは……。
「ゆま、お腹が冷えたからトイレにいってくる」
「え、ええ」
まあ、上手くコントロールできれば苦労はしないという話か。
りよの隣で大人しくスクリーンに意識を向けていると「ただいま」と無表情娘さんが戻ってきた。
なんか目の前のそれよりももこを見ていた方がいいということでそちらに対象を変えると真面目な感じのもこだった。
もし私が絵を上手く描ける人なら描いて残しておきたいぐらい。
りよは――りよも真面目な顔でスクリーンを観ている。
いや、こうして左を見たり、右を見ている私の方がおかしいのか。
でも、やめたりはせずに、つまり全く内容には集中できなかった人間がいた。
「よかったですねっ」
「そうね」「よかった」
若干、前のめりな感じで観ていてくれて助かった。
そのおかげで変なことをしていたのに全く気付かれずに済んでいる。
ただ、これなら千数百円を払わなくても一緒にいるだけでできることだ。
「でも、途中で美味しそうなご飯を食べるシーンがあってお腹が空いてしまいました」
「同意見、あれは『食べろ』と言っているようなもの」
「なので飲食店にいきましょう!」
こうして一緒に歩いていると少し不思議な気分になる。
だって、解散になってからもりよとは別れることはないからだ。
「さっきからずっとりよを見てる」
「もこさんがですか?」
「違う、ゆまが」
「え、み、見られていたんですね」
少し後ろを歩いて――いたからだろうか。
ご飯にばかりしか意識がいっていないと思ったが、そうではなかったらしい。
兄とか友達が増えると取られたくないと自然に警戒し始めてしまうのかもしれない。
「友達同士なら分かるけどりよは家族になったからよ」
「えっと……もこさんは分かりますか?」
「ん、完全に慣れるまでにまだまだ時間が欲しいということ」
慣れとかそういう話なのだろうか。
こういうのは本当にふとしたときに考えてしまうことだ。
「頭が爆発しそうになったら僕のお家に来てくれればいい、少し離れれば落ち着くはず」
「ま、これからはこれが当たり前になっていくんだから受け入れるしかないわよね」
って、私ばかりが喋っていてもアレか。
黙っていたらもこが「ハンバーグが食べたい」と言い出したの話し合いに時間を取られることもなかった。
「私はこっちでいい?」
「はい」
「僕はどこでもいい」
席のことでも同じで。
今回はりよと並ぶことになったから先にメニューを見て選んでもらうことに。
「エビフライ……」
「エビフライがつくと百円ぐらいプラスになってしまうみたいね」
私はシンプルなハンバーグセットにしよう、これなら約八百円だ。
「あの、ゆまさんかもこさんにお願いがあるんですけど……その、コーンを食べてください」
残されるよりはいいからどんどんと教えてほしい、そうすればりよ自身のことをを知ることに繋がる。
「へえ、他にも苦手な物ってあるの?」
「か、貝類……ですかね」
「そうなのね。もこは苦手な物とかなにもないから食べてもらうといいわ」
「ん、任せて、なんでも食べられる」
私も豆類が含まれていたりするときは頼ってしまったりする。
その度に「ま、豆だって本当に食べたい人に食べてもらいたいだろうから」などと言い訳をしてしまっていた。
「もこさんは食べることが大好きでいっぱい食べるんですよね? それなにによく細いままでいられていますね」
それね。
食べた後に物凄く運動しているとかなら分かるが、食べたらすぐに寝転んでしまうぐらいの子だ。
太る、太らない前に体の内部に負担がかかりそうだからやめてもらいたいところだ。
日々気を付けておけばそこまで病院にお世話にならずに人生を終えられるかもしれないので、自分のことを考えてあれだけはやめておいた方がいいと思う。
「太らないのはいいけど身長にも影響しない」
「私みたいに身長だけが高まるよりはいいと思います」
「ゆまよりも大きくなってお家まで運んであげたかった」
「活かさないともったいないので私がゆまさんを運んであげますよ」
いや、頼るのは恥ずかしいからそのときはこない。
なにかを求められる前に料理が運ばれてきて助かった。
ハンバーグか、今度作ってみようか。
餃子とかもついつい市販の焼くだけの物を買ってしまうからたまにはみんなで一からね。
「エビフライ二尾のやつにしたから一尾あげる」
「え、も、貰えませんよ、お金を払わない限りは駄目です」
「じゃあゆま」
「食べたくて二尾にしたんでしょ? だからいいのよ、食べなさい」
二尾なら二百円ぐらいプラスなのだから。
交換し合いたいということならこの店は向かない。
「りよ、遠慮はよくない」
「あ、あれっ、なんで私だけ……」
「こういうとき、このままゆま相手に重ねても意味がないことを知ってるから」
これならりとも連れてきてあげればよかったか。
今度は連れてこようと決めた。
「梅雨か」
灰色に染まっているから朝から電気を点けることになる。
私は晴れの日の半分明るく半分暗い感じの方が好きだから早く終わってほしい。
夏はやはりイベント事よりも夏休みがあることが大きい。
「りと」
「来てくれたんだ」
また友達といなかった。
この前の女の人達はまた二人だけで楽しそうだ。
「少し廊下で」
「うん」
なにがあるというわけではないのに腕を掴んで勝手に早歩きに。
それでも、こちらに文句を言わずに見たときには柔らかい表情で「どうしたの?」と聞いてきてくれた。
「今度、四人で遊びましょ」
「うん――あ、そういえばこの前、三矢りよさんが来てくれてゆっくり話せたよ」
はは、またフルネームか、ただ、同じ三矢さんになってしまったから仕方がないか。
この人がすぐに名前で呼んだりできないことは分かっているし、それぞれのペースというものがあるからこれぐらいで抑えておかないと駄目だ。
「ゆまさんって名前で呼んでいい?」
「無理しなくても『三矢』とかにすればいいんじゃない?」
「そろそろいいかなって」
「まあ、あんたがそう呼びたいなら、私なんて最初の方からりとって名前で呼んでいるぐらいだしね」
いや待て、私が寧ろ早すぎたのか。
本人にとってはいいのかどうかは分からないものの、ちくりと言葉で刺されることもなくてよかった。
「んー」
こういうときこそ周りは賑やかであってほしい。
まあ、ここからでも話す声というのは聞こえているが、なんかそれでも物足りない。
んーりとが「喋ることができなければ死ぬ!」ぐらいの状態でいてくれたらこうはなっていなかったのだろうか。
もこも口数が少ない方だからどうしたってね。
「雨は嫌い?」
「雨が嫌いというか――いや、雨のせいでこうして薄暗くなっているわけだからそうなのかもしれないわね」
外が暗いと自分の内側まで暗く染まってしまいそうだからか、実際はマイナス思考をする方ではないからほとんど変わらないとしてもだ。
「雨は降らないと困るし、晴れ続けていてもそれはそれで文句を言うでしょうから気にするだけ無駄よ」
「一緒にいる友達のことは知りたいよ」
「あー……そういう顔はもことかだけに見せなさいよ」
怖い顔をされているよりはマシ……と言えるのかどうか。
全てを分かられてしまっているような気分になってくる。
「相手をしてくれてありがと」
「うん」
もこは今日、突っ伏しデーのようだった。
最初の休み時間からずっとその繰り返しだからどうせ夜更かしをしたとかそういう風に片付けている。
眠たいのに無理をされても困るからちゃんと休むことを優先してくれてよかった。
結局、本人が来てくれていたら私は喜々として相手をさせてもらっていただろうからね。
「あんた休みなさいよ」などと口にしつつも内側では舞い上がっているのは恥ずかしい。
私みたいな人間が、ではなく、私くらいの歳の人間が素直になれずに可愛げのないことを重ねていくのは微妙だ。
「あんたなにやってんの……」
「ここだとよく休まることが分かった」
私の席ともこの席でなにか変わったりはしないと思うが。
今日はほら、どこも照明に照らされていてほとんど一定の明るさだ。
暑くもないものの、なんとも中途半端な気温ということもそこに加わっている。
「……実は今日、朝のときに人にぶつかって怒られた」
「あ、そうだったの?」
「僕が悪いけど……それで怖くなって突っ伏してた」
そういえば去年も似たようなことがあったな。
一緒に帰る約束をしていたのにそのせいで先に帰られ、私はなにも知らずに学校で待ちぼうけをくらうことになった。
あのときはいまほど気に入っていなかったからちくりと言葉で刺す――ことはできなかった、理由を聞いたらもっと駄目になったぐらい。
「告白をされたとかじゃなくてよかったわ」
「告白なんか一回もされたことが」
「もこ?」
「一回あった、しかもこの前」
まあ、相手のことを考えてペラペラ話さないというのは大事だ、受け入れなかったということなら尚更ね。
「へえ、誰から?」
「ゆま」
「って、私かーい」
「『私が気になっているのはもこね』と言ってくれたから」
私の中には可愛い以上の強い気持ちがあるから違うとも言えない件だ。
でも、こんな教室で続けるようなことではないから頭に手を置くことで躱そうとした。
「もっと普段から頭を撫でてほしい」
「いいの? 奇麗にしてあるから気にしているものかと思っていたんだけど」
「撫でられた程度で汚くなったりはしない」
「いやそりゃ、汚い手で触ったりはしないけど……」
「足りない」
抑えるのに結構体力を使うのだからもう少しぐらい考えてほしいところだ。
私が積極的に出していけば疲れてしまうのはもこだとも分かった方がいい。
「我慢してた?」
「ま、まあ」
「はぁ……」
え、なんでため息をつかれなければならないのか。
撫でるどころか攻撃したくなった、が、そこはなんとか抑えて「そうなのね」と返しておいた。




