03
「「初めまして」」
まあ、当然のようにぶつかったあの子が! みたいなことにはならなかった。
あと、もこ系の女の子ではなかったことがよかったと思う。
なんなら私よりもでかい。
でも、でかいのにどこか自信なさげなのは気になる。
「えっと、りよだっけ?」
「は、はい」
「まあ、いきなりは無理かもしれないけどもう少しぐらい緩くいないと疲れるわよ」
あ、まてよ?
私よりでかいならもこを運んでもらえるようになるか。
別に頼るのは私だけにしてほしいとかないし、仲良くなるきっかけにもなるかもしれない。
「ゆまちゃん、りよのことよろしくね」
「あ、もう敬語じゃなくていい?」
外でならちゃんと大人に対しては敬語を使うから誤解しないでもらいたいところだ。
これは私なりに歩み寄っている結果だ。
「う、うん、ゆまちゃんすごいね」
「だってこれから家族になるんでしょ? だったら敬語なんて使っていても間に無駄な壁ができるだけだからね」
「はは、よろしく」
「うん、よろしく」
だが、流石にまだもこを召喚することはできそうにないな。
だから今日は大人しくしておこうと思う。
「ゆま、色々と案内をしてくるよ」
「うん」
ふぅ、じっとしているよりはまだ動けていた方がいいだろう。
部屋に戻ってゴロゴロしていると窓をノックされて近づいた。
「きた?」
「うん」
いや、今更なことではあるが家と家までの距離がちっか! という感じ。
棒とかに頼らなくても普通に届いてしまう距離感というのはどうなのだろうか。
普通はもっとこう、余裕がないとさ。
まあ、狭い土地にぎちぎちに作られているから諦めるしかないのか。
「興味がある、いきたい」
「んーもう少し待ってくれる?」
「分かった。でも、ここで話していたい」
「はは、それぐらいなら付き合うわよ」
そういえば今日は上の方で髪をまとめているのか。
普段はいつも下ろしたままだから新鮮だ。
「りとは?」
「さっきいったらお部屋でお勉強をしていた」
その真面目なところに助けられているところがあるから言いづらいことではあるが、土曜ぐらい遊びにいってくればいいと思う。
部屋で暇そうにしている妹を誘ってどこかにいくとかさ、彼女達のお父さんがいない間は父代わりみたいなところもあるのだから、と。
「でも、今日はあんまり集中できていなかった」
「はは、女の子からの連絡待ちだったりしてね」
「いてくれないと困る」
兄のことは好きでもそれとこれとは別だと言いたいのだろうか。
いやまあ、家族をそういう目で見てしまう人は少ないか。
「ゆ、ゆまさん、入ってもいい……ですか?」
「お……」
両親に言われたから……よね?
あれだけ気にしていそうに見えたのにここで一人で強気に行動できる子ではないはずだ。
「ゆ、ゆまさん?」
「あ、入っていいわよ」
もこには手だけで隠れるように促してからしっかりとお客さんの方に向いた。
「あ、あの……」
「うん」
「と、隣のお家の方にじっと見られています」
はぁ……興味を持っている状態なのにここで我慢しろと言う方が酷か。
「えっと、私の友達なのよ。隈部もこ、同級生の子なの」
「そ、そうなんですか」
なんかこれだと初対面の二人の相手に疲れてもこに甘えてしまったみたいじゃない……。
実際は違うとしてもりよからしたら頼ったみたいに見えてしまうことが問題だ。
なんだって初動が大事なのだ、そこでやらかしたら最初からやりづらくなってしまう。
「ゆま、そっちにいくからどいて」
「下から来なさいよもう……」
なんか上手くいかないな。
もこはりよの前まで移動して「おお、でかい」と言っていた。
「身長だけ無駄に伸びてしまいまして……」
「僕はこんな感じだから羨ましい」
いやまあ、滅茶苦茶小さいとかそういうことはない。
私の肩ぐらいまではあるし、そのことでついつい頭を撫でてしまうとかもないから助かっているぐらい。
同性同士だからとベタベタ触れていたら駄目なのだ。
「ふっ、胸の大きさは一緒」
「……そっちにも栄養がいってほしかったです」
なんだ、普通に話せているな。
よかった、いつもおどおどされていたら指摘したくなるし。
「ここら辺を歩いてみた? もしまだなら案内してあげる」
「ま、まだなのでその、よろしくお願いします」
「ん、任せて」
はは、もこお姉さんの誕生か。
二人きりにすると断れないりよが困りそうだから付いていくことにした。
あれだ、学校の場所を知っておけばあとは登校している最中に色々と見えてくるから問題ない。
「ここ、僕とゆまが出会った場所」
「玄関前で偶然、ということですか?」
「そう、あの日は危なかった」
「一応言っておくと遅刻しそうだった、ということよ」
「ああっ、ふふ、それがきっかけで仲良くなれるんですね」
な、なんだこの笑みは……。
自然なものの中にマイナス方向の要素が含まれている気がする。
Sっ気がある子ではなければいいが……。
「次は青いコンビニ、実はすぐ向こうに緑のコンビニもある」
「緊急のときでも助けてくれそうですね」
「僕もたまに真夜中にいってお菓子を買うときがあるから助かっている」
は……? なにをしているのか。
もう少しぐらい気を付けてもらいたいところだ。
「そこに小さな警察署、もう少し歩くと公衆トイレもあるからそこでも緊急のときに助けてくれる」
「結構お腹が痛くなってしまうことが多いので助かります」
公園もあるし、家と家の距離を考えなければ結構余裕のある場所かもしれない。
車通りが少ないのもいいと思う、ただ、その分自転車なんかに気を付けなければならないが。
「そして最後に、僕らが通っている高校」
「私も来週からお世話になります」
急に引っ越すことになったうえにすぐに新しい学校に登校か。
正直、自分がしなければならない立場ではなくてよかったと思った。
どんなことになっても気にならない人間や、かなりの陽キャラとかではないからそういうことになる。
「つまり、後輩のお友達ができたということ」
「嬉しそうじゃない」
「後輩のお友達が欲しかったから嬉しい」
寧ろこれまでなんで我慢していたんだか。
他の誰かといるのが大好きな子なのに――って、私のせい……?
い、いやでもっ、私はあくまで待つこと前提でいるから何回もいって邪魔をしてしまっていたわけではないはずだ。
いつもりとを含めた三人で一緒にいた、そうだ、りとに原因があるのだ!
「ま、嫌がられない程度に仲良くしなさい」
「ん」
なんて、人のせいにしていないで考えて行動するか。
勝手に来てしまうということならそうならないように動かなければならない。
独占するのはやりすぎだった。
「なんか……近づきづらくなっちゃってね……」
「や、そこは兄として近づけばいいじゃない」
家が隣同士でもただの他人の私とは違う。
家族だ、家族なら踏み込んだこともできてしまえるというのに。
少し物寂しそうなようにも見えるし、こういうときに限って優しい顔にも見える。
家族相手にすらこんなんでいいのかね。
「どうせ三矢さんは空気を読んでいる状態なんでしょ? 付き合ってよ」
「空気を読む? はっ、なんで私がそんなことをしないといけないのよ。いまあの子から離れている理由はなんとなくこうしたくなったからでしかないわ」
最近お肉が無駄について困っていたのだ。
いやこれが実は本当のことで、本当に困っているから慌てている状態だった。
でも、そのことを彼には言いたくないからそういう形にさせてもらったのだ。
「うんうん、三矢さんってそういうところがあるよね、相手のことを考えて動ける子なのに敢えて『そんなつもりなんかないわよ』と否定するところがね。僕らが頼ったあの日だって何故か僕に任せていたことにしていたからね」
な、なんだこいつは……。
はぁ、そうやって自由に言えるのになんでいつもは自信なさげなのか。
「もこはたまに怖いからよ」
「もこが怖い? 三矢さんといるときなんてそれこそずっと三矢さんのことをキラキラした目で見ているぐらいだけど」
「や、流石にそれはないわよ、少なくとも食べ物には負ける存在よ」
というか、誘ったわけではないとしてもこの状態はよくない。
なにも言わずに出てきているうえにりとと過ごしていた~なんてことがバレたら終わる。
正直、まだ悪口を言ってくるぐらいならなんとかなるのだ。
だが、なにも言われずに去られてしまうのが一番ダメージを受けることになると私は知っている。
べ、別に自由にやりすぎて過去に自由に言われた、去られた~とかではないが!
いやもう……あまりに唐突すぎてあのときは不満の言葉すら出てくることはなかったなあ……。
うん、中学生時代は最悪だった。
「りと、あの子のことよく見ておいて」
干渉しすぎるのもよくない。
少し距離ができれば本来の正しい距離感に戻せる気がする。
「それは三矢さん――あ、三矢りよさんのことも?」
「ん? なんでフルネーム? まあ、興味があるなら近づけばいいんじゃない? 二人は自己紹介ぐらいしかしていないからゆっくり話してみるのもありだと思うけど」
一人とある程度仲良くなってからにしたいのか、単に興味が持てないのか、それとも、男の子自体が怖くて無理なのか。
こっちに来た時期が時期だけに実は、と考えそうになってしまう。
「うん、機会があったらそうしてみるよ」
「あんたの存在はありがたいわ」
「僕にできることならするよ、もこのことでお世話になっているからね――あ、ご飯作りに関しては僕自身がお世話になっているんだけど……」
「ああ、そういえば私の方はやらなくてよくなりそうだわ、いまは二人がやってくれているの」
おかげで、せいで? 家に帰ってからが暇だ。
ただ、あれだけ無表情でいることの多かった父がよく笑うようになったから出しゃばらないようにしている。
「そうなんだ」
「でも、まだ必要なら言いなさい。私も、自分にできることならするわ」
「うん、ありがとう」
さて、戻る――またか。
「来ていたのなら声をかけなさいよ」
「探すために走り回っていたら疲れた……」
「お疲れ様。また足を貸してあげようか?」
「ん、借りる……」
まだ十分はある、十分に休めるだろう。
それでも、空き教室はやめて教室の後方を陣取って休んでもらうことにした。
ボチボチ戻り始めてきているが、ここならそう迷惑もかからない。
「りよは?」
「もう戻った」
「そう、あの子はすぐに慣れてしまったわね」
あ、家では意外と話す時間があって友達ができたことなんかも教えてくれていた。
去られた私とは違ってどうやらやるようだ、見習わなければならない存在のようだ。
「強い、僕は同じようにできなかった」
「いまと比べたら確かにビクビクしていたかもしれないわね」
もう一年か。
しかも、そのうえで親が再婚して義理の妹ができたこともね。
多分、いまのことを中学時代の私に話しても信じないと思う。
「あんたなに言ってんの?」と呆れたような顔をされながら言われてしまうことだろう。
「僕、逃げられてる?」
「いまは邪魔をしないようにしているの」
鋭いところがあるのは最初からそうだから変に躱そうとはしない。
正直に話して、彼女にも正直なところを吐いてもらう。
それができてやっと友達と言えるのではないだろうか。
「りよと仲良くできたら変わる?」
「そうね」
「それなら早く仲良くなる」
そのままやめるかと思えばそうではなく、こちらの目を見ながら「それでもまだ休ませてもらう」と。
髪も目も黒色で、どちらかと言えば可愛い系なのに初めて奇麗だと感じてしまった。
もうやばいのかもしれない。
「あんた、全然休む気がないじゃない」
「だって、ゆまがじっと見てくるから」
「は、はあ!? 見ていないけど!」
「その状態で目を閉じていたら心臓に悪い」
よ、よし、ちゃんと警戒してくれているようだ。
「いい子だから寝ましょうね~」
「いいの? その気になったら一瞬」
「ちゃんと起こしてあげるから寝なさい」
「ん――すやぁ」
危なかった。
想像していた以上にやばい人間だったからより気を付けようと改めたのだった。
「ゆまさんゆまさん」
「ん……?」
って、でかあ……。
なにをどうしたらここまででかくなれると言うのか。
あと、私の心臓のためにも寝起きを襲う――来るのはやめてもらいたいところだ。
「えっと――あ、もこならあともう少しぐらい待たないとスヤスヤよ」
まだ五時半……こんな時間に目を覚まして昼に起きていられるのだろうか。
「いえ、私はゆまさんと二人きりで過ごしたかったんです。それで、物足りなさを感じないためにも五時半ぐらいから動いた方がいいかなと思いまして」
「もしかしてあんた、前の学校のときもそうだった?」
「は、はい――あれ、もしかして駄目でしたか?」
うわマジか。
まあ、もう二つの意味で寝られそうにないから付き合うか。
それでも、人として最低限にやることの歯磨きと顔洗いをしてからではあるが。
「で、なにがしたいの?」
「そうですね、お出かけ、ですかね」
「買い物にいきたいとか? 食料品の方なら大歓迎よ」
「んー確かにそれはしなければならないことですが……」
お弁当だけは自分で作るように戻した。
これなら味を知るのも私だけで出しゃばってはいないから。
いやあのね、なにもしなさすぎるのもそれはそれで微妙なのだ。
最近は二人が色々とやりすぎて早くもお年寄りみたいな生活になってしまっていたぐらいだ。
「まずは映画を観て、それからなにか食べられたらいいですね」
「や、デートか」
同性とするのだとしても気になる子としなさいよ、と。
それこそ、無駄な意地を張っていないでもこを誘えばいい。
「で、デート、それもいいかもしれませんね」
「あんた……熱でもあんの?」
「ちなみに、私は平熱で三十七度あります」
「そ、そう」
マイペースか。
でも、どうせ今回も私が負けているところが見える見える。
「じゃ、映画ね。それまでは――」
「私、ゆまさんが作ってくれたご飯を食べたいです」
交代することになったものの、数回は食べてもらったからそう違和感もない。
不味い物を提供しているつもりもなかったからね。
「ならなんでいつもはやっているの?」
「お母さんがまだまだ恥ずかしがって気にしているからです」
そうかあ? もう前々からいたみたいに朝からリビングで盛り上がっているが。
私にだって明るく話しかけてくれて、それを楽しく感じてしまっているぐらいなのに。
というか、もしそうなら可愛いかよ。
やっぱり、どれだけ歳を重ねようと女の子は女の子のままということなのか。
「慣れたらお母さんを楽にさせてあげたいから交代交代でやりたいですね。朝はお母さん、夜は私達みたいに」
「早起きには慣れているから朝から私でもいいわよ?」
「あれ、私が入っていませんね……」
「ほら、あんたはまだまだ来たばかりで他に集中したいこともあるだろうからね」
と、任せている人間が言うのはおかしいか。
「となると、私がお母さんと協力してやらないといけないわね」
「ま、待ってください、なにもできないのは嫌です」
「ふふ」
「えぇ……なんでそこで笑うんですか……?」
あまりにも真剣に困ったような顔だったからだ。
普段はもこにだってベタベタ触れないようにしているものの、気になったから軽く頬を引っ張っておいた。
「い、いふぁいです」
想像通りに伸びてくれて続けそうになったが、そこはなんとか変えてやめておいたのだった。




