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02

「さあさあ、世にも珍しい魔獣たちのお出ましだよ!」


 オストンソンは、国王の援助もあって貴重な魔獣を見物させるための小さな見世物小屋を王都の中央広場に作った。


 最初は物珍しい一匹の魔獣だけだったが、そういった商才があったのか、人々が物珍しさに釣られただけなのか、はたまた立地が良かったからなのか、次第に扱う魔獣を増やし、今では王都の中央広場の一角を占める程の大きなテント小屋─屋根のある簡易な野外舞台施設─を建てるほどにまで成長した。


 ……のだが。


 ドシッ、ドシッ、クァーア。


 トテッ、トテッ、トテッ、ペタン。


「いやあ、今日おいでの皆さんんは運がいい、こいつらをじっくり思う存分ご覧になれますよ!」


 見世物小屋のステージの上でオストンソンが威勢よく声を張り上げるも、それに反応する者はほとんどいなかった。


 それも当然だ、大きなテントの…異国の曲芸師たちの観覧施設を真似させて作った見世物小屋(テント小屋)の中に居る観客の数は目視で数えた方が早い。


 魔獣たちをステージに上げたものの、動きは緩慢で世話係である係員たちに手綱を引かれてステージをただ歩き回るだけ。


 当初は魔獣そのものが珍しく、列をなして押しかけて来た見物人は拍手喝采で盛り上がり、その勢いのままに見世物小屋を新調したものの、出し物と呼べるほどの芸も無い為あっという間に客足は遠のいた。


 それでも今日は祝祭日だから客の入りが多い方だ。ここ最近は小屋を開けてもほぼ開店休業と言っていい状態のことが多い。


 客が全く入らない訳では無いが、その客たちは魔獣たちを見に来たのではなく、王都の中央広場という余暇を過ごすのに絶好の場所で屋根があり椅子がある有料の休憩場所としてやってきているだけなのが明白だった。


 なんとか笑顔を張り付けて、魔獣たちをまばらな観客に紹介するも、誰一人ステージを見ようとしない。


 もっとも、魔獣たちに何か芸をさせる訳でもなく、ステージの上を歩き回らせるだけでは早々に飽きられてしまうのも致し方ない事だが、そういった見世物仕事の心得に全く気が回らないオストンソンは何故飽きられてしまったのかが判らず、内心のいら立ちを隠せないでいた。


 雇った係員たちもほとんどが、ステージ上だというのに締まりもなく面倒くさそうな顔であくびを抑えようともしない。


 まっとうに作業服を着こなしている一人だけが、観客席から見やすい位置に魔獣を向かわせようとあくせくしているが、それが返ってオストンソンの神経を逆なでしてしまい、彼の癇癪はより一層高ぶった。


「くそっ、ちょっと前(数ヶ月)迄は小屋に入りきらないほどの客が押し寄せてきていたんだぞ!?あいつらあんなに夢中になって魔獣たちを持て囃していたクセに!」


 いっその事この見世物小屋を早じまいしたい気分だったが国王や宰相にあれほど頼み込んで王都の一等地(中央広場)を使わせてもらっている以上、そう簡単に音を上げる訳には行かない。


 もう少しで自分が『エスコートマン(人気の職業)を雇う側の立場になれる』所だったのに。


「チッ!」


 ガッ!


 係員たちがステージ上の魔獣を入れ替える際を見計らって、観客に気付かれない程度に憂さを晴らすべく、バックヤードからステージに登る階段をやや強めに蹴った。


 グアッ!


「うわっ!わわわっ。」


 敏感な魔獣が振動に驚いたのか軽く鳴き声を上げてその場逃げようとして、気持ちがたるんだ係員を引きずり始めた。


 係員ははかろうじて手綱を離さなかったが姿勢を崩してしまい、魔獣に引きずられる形で追いかけている。


 その係員の悲鳴に反応し他の魔獣たちは唸り声を上げ始め、ある魔獣は同じように自分の手綱を握る係員を引きずり逃げ出そうとし、ある魔獣は狩りの体勢で慎重に獲物を見定めるかのように姿勢を低くし唸りだした。


 ステージ上に起こった突然の緊迫感に、気の無い様子だった観客たちも一瞬も見逃さないように様子を伺いだした。


 オストンソンにも冷やかし客たちが、さっきまでとは打って変わって食い入るようにステージに集中しているのが分かる。


 ガオッ!


 グルルルル……


 ステージの上では、係員が握る手綱を振りほどこうとしたり、手綱をいっぱいいっぱいまで引き延ばしたりした魔獣同士が唸りながらにらみ合っていた。


 今にも襲い掛かりあいそうな一触即発の状況に、オストンソン自身も思わず手に汗を握り、固唾を飲んで見つめていた。


 体勢を立て直した係員が必死に引き離そうと引っ張るも、じりじりとにらみ合った魔獣たちがいう事を聞く訳はなく、とびかかりあうのは時間の問題に思われたとき。


「…支配人!支配人!…オストンソンさん!?早く魔獣を止めさせましょう!」


 慌てた声がオストンソンに話しかけてきた。


 係員たちの中でも唯一きちんと作業服を着こんだ男がオストンソンに進言してきた。


 折角の機会を台無しにされたオストンソンは少しばかり苛立ちを覚えたが、このステージ上で怒鳴る所を観客に見せる訳には行かないのでぐっとこらえた。


「うーん、他の係員たちが止めているし、ステージと客席の間には柵もある。魔獣たちが興奮しているとはいえ、少し経てば落ち着くはずだ。それに観客たちの様子を見てみろ、普段見られない姿だからかとても熱心にステージを見物しているぞ。」


「今日の魔獣たち、朝当番の奴が間違って体に悪いものを食べさせてしまって調子が芳しくないんですよ。水を飲ませて吐き出させはしたんですけどどうも動きにキレが無くて。…それにもし、このまま暴れれば手綱を引いている係員(同僚)たちだって危ないです!」


「はあ?客があんなに熱心に見ているのにか?客を喜ばせるのも見世物小屋の係員の仕事だろう。それに客をこれ以上がっかりさせて二度と来てもらえなくなったらどう責任を取るつもりだ?


「このままでは、係員(同僚)たちだけでなく、お客さんたちに被害が出てもおかしくありません!そうなれば二度と来るも来ないもありません。」


「客席を良く見てみろ。まばらに座っているわずかばかりの客に被害が出るほどの勢いだとは思えないがな。」


「ですが…このままでは魔獣たちが調子を悪くして倒れるか、機嫌を悪くして暴れ出すかでステージや柵も壊してしまいかねません!」


 『久しぶりに熱心にステージを見入っている客の興を冷めさせたくは無かったが、立てたばかりのこの施設が壊れてしまうのはもっと勘弁だ。』


 オストンソンは頭の中でそう計算し、しぶしぶ係員たちに命じて魔獣たちのにらみ合いをどうにか止めさせると、あからさまに観客はがっかりし、どこかからため息まじりの声が聞こえた。


「なんだ、どっちの魔獣が勝つかって夕飯を賭けていた所だったのにな。」


「しょうがない、こりゃ引き分けだ。」


 どうやらこの突然のアクシデントを余興として楽しもうとしていたようだった。


 観客たちの何気ないその一言に、オストンソンはハッとしてひらめいた。


「そうだ、次からのの興行はそうすればいいじゃないか!」


 予定の演目を早々に終わらせると普段はしない観客の見送りに参加したオストンソンは「次の興行は先ほどの魔獣同士の決闘の続きをお見せいたしますよ!」と丁寧に喧伝することを忘れなかった。


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