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階段と梯子

《突き当たりの扉を抜けると、階段があります。》

 ルミナスの指示通り、三人は階段へ向かう。

 カナタは、低くしなくてもいい姿勢を、低く保ちながらそっと移動する。足音さえ気をつければいいものの、どうしても気持ちがそうさせた。

 カナタは、大好きな映画で学んだ。映画のエージェントたちは、そっと歩く時に背中を必ず折り曲げる。それから、パッと壁に張り付くのだ。手の平は、開いて。べったりと、壁に張り付ける。それから、ゆっくりと通路の先を覗き込むのだ。

 映画の主人公になりきってカナタが通路を覗いていると、二人に白い目を向けられる。

「何してるのよ…。遊びじゃないのよ?」

 カシューは、そう言って通路を目視しようともせず、平然と横切って行った。カナタは、声にならない驚きの表情で、カシューを目で追った。ウェイブは、カナタの肩に手を置き残念そうに首を振る。カナタに同情の視線を送ってから、先へ行ってしまった。


 扉を開くと螺旋階段の踊り場に出た。カンカンカンと、階段を降りる金属音が、階下から聞こえてくる。

 三人は、音を立てないように、そっと階段を上がる。しかし、金属で組まれた階段は、いくら慎重に歩いても音を立てない方が難しかった。

 階下を行く男達に、足音を悟られてしまった。

「上に誰か居るぞ!」

 男性の叫ぶ声が聞こえたと思えば、一発の銃声が鳴り響いた。

 レーザー銃の弾が、三人の真横の床を貫通する。穴の空いた鉄板が、溶けて赤く熱を持つ。

 ウェイブは、口を横に開き歯を食い縛る。あと数歩、先を行っていたら当たっていた。そう考えてただけで、血の気が引いてしまった。

 カナタは、時の止まったウェイブの背中を押して急がせる。

 階下から、罵声が聞こえて来た。

「馬鹿野郎!ここで撃つな!俺たちを、生き埋めにするつもりか!」

「いやっしかし…。」

「階段で何者かが上に向かった。一応、警戒するように。俺たちは、作戦通り、このまま下へ向かう。」

 そんな話し声が響く中、カシューたちは、急いで階段を駆け上がった。



 一階に着き廊下へ出た所で、敵の兵士に遭遇した。報告を受けて駆け付けて来たようだ。

 カシューが廊下に姿を現すと、直ぐに赤色のレーザーが飛んできた。弾は、カシューの真横を抜け、壁に焼け跡を残した。

 不意を突いた、この一発を外してしまったのは、致命的だっただろう。せめて腕か足にでも当てていたら、相手は生き延びたかもしれなかった。

 カシューは、瞬時に相手の位置を把握した。前方の通路に二人。ヘルメットに映る監視カメラの映像と照らし合わせても、他には確認出来なかった。

 せめて挟み討ちにでもするべき状況の筈なのに、舐められたものだ。

 カシューは、先の丸いオモチャの様なナイフを投げ付ける。ナイフは、綺麗に回転しながら銃を構える兵士に飛んで行く。そして、カシューは、ナイフを追う様に全力で廊下を走り出した。

 兵士は、銃を撃ちナイフを狙ったが外してしまった。左手を伸ばして、仕方なくナイフを腕に受ける。

 もう一人の兵士が走り込むカシューに銃口を向けた。一人の兵士の銃弾を躱す事など、カシューにとって簡単な事だ。しかも、撃つ姿も銃口も引き金さえも見えている。何処に、どのタイミングで、どう撃つか、手に取るように分かってしまう。

 そこで、欠伸をしていても避けられそうな弾丸が発射された。カシューは、赤い光を瞬時に躱して、壁を蹴り上げた。

 壁を使った三角跳びをして体を回転させる。その勢いを利用して、ナイフをガードした兵士の頭を蹴り飛ばした。兵士は、大勢を崩して蹌踉めく。もう一人の兵士は、味方が邪魔で銃弾を撃ち込めない。

 カシューは、兵士の顎を掌底で突き上げ、素早く右腕を絡め取る。そして、右腕の先の銃口を、もう一人の兵士に向けると引き金を引かせた。

 銃口をカシューに向けたまま躊躇していた兵士は、あっさりとレーザーに撃ち抜かれて倒れてしまった。

 それを確認したカシューが兵士から離れると、兵士はそのまま床に崩れ落ちた。

 カシューは、兵士から銃を取り上げるが、生体認証でロックされており使用出来なかった。やむなく、その場に投げ捨てた。


 安全が確保された廊下に、カナタとウェイブが足を踏み入れる。二人は、カシューの見事な動きに感心しながら、セキュリティーホールへと向かって足を進めようとした。

「そっちは、駄目。こっちよ。」

 カシューが顔を振って真逆の道を示す。

「なんでだ?入り口は一つしかなかっただろ?」

 ウェイブが不思議そうに通路の先を指差す。

「いいから、はやく。そろそろ奴等が最下層のメイン制御システムに到達するはず。そうなると、監視カメラや警備ロボット、ドアの開閉。全てが彼らの思うがままよ。そうなる前に、ここを出ないと。」

 カシューの説得力のある発言に、二人は頷く事しか出来なかった。

 それから、カシューに言われた通りに進み、扉を開けると梯子があった。

 梯子を上がり、バルブを回して蓋を開ける。すると、電子機器が沢山置いてある部屋に出る。


「ここは?」

 カナタが、物珍しそうに辺りを見回しながら聞いた。

「電波塔のサーバールームよ。その先の部屋から外へ出られるはず。」

 カシューは、先の減圧室を指差した。それから、自身のヘルメットを指差して言う。

「今の内に、この作業着の酸素残量と漏れのチェック。あと、シャトルまで走るから、ストレッチ。途中で肉離れとかしたら、遠慮なく置いて行くからね。ウェイブ、いい?」

「あ、ああ…。分かった。」

 不安な顔色をするウェイブを見て、カナタが言う。

「おっちゃんは、何でここまでして脱走しようとしてるんだ?出た所で、借金地獄なのは変わらないだろ?」

「ふん。ワタシは、誰かに嵌められたんだ。そんな借金するほどのリスクを犯す奴に、ワタシが見えるか?」

「……。」

「む…。まあ、だからここを出て、そいつらに復讐する!ワタシのあらゆるコネを使ってな!幸運にもワタシの隠し口座は、まだ誰にもバレていない。安心しろ。ここを出ても、ワタシは路頭に迷う事はない。」

 意気揚々と語ったウェイブに、カナタは関心したようだ。

「へー。肝が据わってると言うか、何と言うか。おっちゃん凄いな。普通の人は、思っても中々行動に移せないもんだぜ。」

「そ、そうかね?」

 ウェイブは、カナタに褒められて照れ臭そうにした。

「はいはい。隠し口座も犯罪でしょ。アホ面並べてないで、こっちに来なさい。」

「ああ。」「アホ面って…。」


 減圧室の中のカシューが、それぞれのヘルメットに映像を映し出す。

「見て。これが今の外の映像。彼らは、外からの攻撃は想定してないみたい。外に見張りが全く居ないわ。さすがに一階の入り口の中には、何名か待機してるみたいだけど。」

 セキュリティーホールでは、兵士が銃を持ってウロウロしている姿が確認出来た。

「彼らは、何者なんだ?相手の確認もせず、普通に撃って来たし。」

「ワタシも不思議に思う。ここは、ホープに欠かせない施設だ。こんな事をすれば、ワンが黙っていないだろう。」

 ウェイブが減圧室に入ると、分厚い扉が閉じた。バルブが自動的に回り、しっかりと密閉される。

「分からない事を予測しても意味が無いわ。そのうち明らかになるはず。今は、ここが開いたらシャトルへ思いっきり走ることだけ考えて。いいわね?」

「ああ。」

 シューっと空気を抜く音が鳴り、外との気圧を合わせ始める。

 その時、ルミナスが言葉を発した。

《侵入者が、最下層の制御室に到着しました。》

「時間が無いわね。ルミナス。あなたは、機能を停止させられるまで彼らの妨害を続けて。それじゃ、二人とも、開けるわよ。」

 カシューは、ルミナスに命令すると、大きなバルブに手を掛けた。

《皆さん、御武運を。》

「ルミナス、ありがとう。」

 カナタがルミナスに感謝を告げると、扉がゆっくりと開かれた。

 デスペアの無機質な地表が見え始める。真っ黒な空の大半を、大きな惑星が占めている。

 そして、三人は、電波塔から飛び出した。

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